ダメだこの国は
私が新帝国を出奔して7年。
新帝国の政治情勢の悪さもそうであったが武力偏重主義で経済危機が起こりそれを尻目に好き勝手していた上級将校を見て嫌気が差したのもある。
まぁ部下たちから見たら私もその愚か者たちの一人であっただろうが。
帝国から侵略されたから国家を守るために戦えと出陣したものの、率先して農民たちが麦やら米やらを持って逃げ出し寝返り最前線で飢饉になってしまった。
平民農民はとうに飢饉であったのだが……経済に関する知識もなく、軍人を兼任してない文官の地位が低かったことも合わさり……食料買付で金を吐き出し続けた。
中佐程度でしかない私は何も出来ず、同じ量の食事を兵たち取り続けかろうじて信頼関係を崩さずにするのが精一杯だった。
その挙げ句に徴発命令を出し、私の部下が一番最初に蜂起した。
当たり前のことだが兵士は大半が元農民である。
つまり、帝国の指針である平民のためという建前をかなぐり捨てた挙げ句、食料依存先である存在にわざわざ宣戦布告をしたわけだ。わざわざ国民皆兵制度で過酷な軍事訓練をして国民徴兵制度と各国に嘘までついて鍛え上げた国民と戦うために。
この国はダメだ……。
「帝国の侵略からの防衛と言われましたが現地の農民が救援を求めて帝国に下っただけではないですか!」
「新帝国は腐敗した帝国から分離独立して平民のための政治を守り続けていた!帝国が平民主義に戻った際に手打ちをしたのに!我々が腐敗した帝国になっているではないですか!」
「新の冠は何のためですか!腐った帝国にならないためにでしょう!」
「私達は農民です!任期を終えたら帰農するのですよ!帰る家に餓死した親と兄弟を見て帝国のために死んでよかったと思うのですか!」
「ウインドウ中佐!我々に実家を燃やしにいけというのですか!?」
説得に行かされたが……これをどう説得するんだ?
農民に農民から挑発してこいと?飢饉で死になたくなければ飢饉の村から何でも奪ってこいと?俺達の食事のため故郷を略奪してこいと?
東部司令部の兵は東部の農民が大半なのに徴発命令を下すとは何を考えてるのか全くわからなかった。
ここで止めたら私が殺されるな、それが目的かもしれんが……。一応公爵家に連なるから粛清でもしたいのだろう。
考えると皇家の人間がちらほらいたな……流石に私を殺すためにここまで大掛かりなことはしないだろうから普通に失政のついでだろう。
中佐だし戦場で死ねば好都合と思ったらそれどころではないから徴発命令を出したんだろう、死後にはそんな命令はなかったと云って公爵家になんらかの条件を飲ませるつもりだろう。
馬鹿らしい……なぜ私が最低限の建前も政治もできなくなったこの国のために死んでやる必要がある。新帝国どころか旧帝国ではないか。
「我が親愛なる連隊諸君!帝国は平民のために建国された国家である!そして帝国が腐敗した際に独立したのが新帝国である!新帝国の新は何か!?貴族主義に落ちた帝国とは違うことを示すのではないのか!帝国が貴族主義を捨て平民のための国家に立ち戻った際に相互理解の上で和解したのではないのか!?」
まぁ、良くないところは良くないが……神聖帝国という存在よりはマシだから妥協の産物もある。それに神聖帝国のような国家の形をしたクソはともかく、侵略戦争をすること自体が平民のためという国是に背く。
国境沿いはたいして得るものもない、多少の諍いはあるがそんなものだ。
「現状を見よ!我が国は文官を軽視し、周辺が立て直した経済危機を未だに抜け出せず、偽物のアルミ金貨を掴まされた!そしてこの飢饉である!現地は飢饉にあり新帝国はこれを見捨て、臣民たちは帝国に向かった!それを無視して侵略であると新帝国は徴兵し、これに対応をさせられた!そして我々も飢饉にあり、農民から挑発せよとふざけた命令を下した!東部方面司令部が東部から徴兵された君たち連隊にだ!」
本当に何を考えているんだ?宮城の連中は?口減らしか?それとも戦争に勝てるからこそ好き勝手にやってるのか?この大陸で一番強いかもしれんがそれだけでどうにかなるならそもそも経済危機に飢饉になどなるまい。
「これは許されることだろうか?」
「許されない!」
「横暴だ!」
もう少し、あと一息だ。
「かつて初代皇帝陛下はおっしゃった、血は腐ると。皇帝とて帝国のための道具であると。自衛の権利は万民にあると……身分の差は帝国にあったか?」
「ありません!」
「では、新帝国という名の腐敗した国家を滅ぼすことは建国の志に背くであろうか?」
「断じてありません!」
「周辺農民に自衛のために立ち上がらせよ!東部司令部は徴発を強行する!皇帝遠征軍はステーキをたらふく食べ、酒を飲み、その上腹が減ったとわめいでると真実を伝えろ!」
「はっ!」
まぁおそらくそこまではしてないと思うが、国家腐敗の原因は連中にあるのは間違いないからいいだろうさ。平民が腐敗した帝国を滅ぼすのは何度もあったことだ、1回回数が増えたところでどうということはないだろう。さらば腐り果てた祖国よ。
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