金鉱攻略戦(予兆)

 それから5日、開戦から25日だな。敵の抵抗は弱まり始め先程最後の突撃のようなものを行ったらしい。3日も雨が降る中でよくやるよ。


 じゃあ俺達が警戒する時間だな、残ったやつが脱出するだろう。この感じだとリーダーの派閥が脱出担当じゃなかったのかねぇ?


「残ったのはどれくらいだ?」

「突撃数は3000人ほどしか見えなかったとのことです。金鉱に突入はしてますが……思った以上に広く予備部隊をいくつか投入しています。」

「じゃ敵が1万だと考えたらまだ5000人はいるかな?」

「それよりは少ないかと、負傷もいれば遺体を持って撤退したりもあるでしょうからね……遺体になってしまったのもいるでしょう。」

「2:1ならまぁ凌げるかね?」

「脇を突かれても防衛戦闘に特化すれば、あの山から来た場合は騎士団が包囲するように攻めるでしょう。我々は脇を突かれて突破されなければ問題はありません」


 そう言われると余裕そうだが創作物は数が多いほうが大抵負けるんだよな。ゲームにしろラノベにしろ数が多いほうが順当に勝った話なぞそうない。イベント戦争がないような戦争シミュレーションならまぁあるが。この1年で流れる様な展開……まじで何の意味もない異世界転生だったら許さんぞ。必ず俺達は危機に陥る。確信がある。そして陥った際にはやはりゲームからラノベ世界であるという確信を持つ。


「それでも危機には代わりありません。率直に言うのであれば防衛戦を考えても正面から5日は騎士団と山地と麓で激戦をして、それでもなお今日は突撃を強行していることは恐怖です。伝令が返答を聞かず帰るあたりそれなりに大きい被害を受けたと考えられます、つまりほぼ万全の部隊が同程度の突撃をして脱出路から飛び出すと考えたら……正直、防戦でも耐えきれるかは騎士団の下山速度次第でしょう」


 じゃあもうゲームかラノベ世界ってことで、聖なる力目覚めろ!ステータスオープン!神に祈る!女神来い!ヒロイン来い!


「何をお考えですか?ときよりそのような難しい顔で考え込まれるのですが……なにがまずいことでも?」

「いや、私が戦死したら全てアランに任せるよう委任しておこうかと思ってただけだ」


 何も考えてなかった時に限ってそう言うね?どんな顔してんの俺?5歳時に聞くくらいひどい顔してるの?ヒロインを求める俺の顔どれだけ怖かったんだろうな。


「アラン家宰に?お父上の侯爵閣下ではなく?」

「家宰に任せたほうが良いだろう、父上は伯領は継げん。できるなら母の死後統治しているだろう」


 まぁ、できたとしてやってるのはどっちにしろアランだろうけどな。


「そこまでのお覚悟とは……」

「5歳の伯爵にできることなぞそれくらいしかないからな」


 といって点数を稼ぐのが精一杯よ。



「村が騒がしくなってきましたな」

「ほう、あちらが先かな?それとも何処かで戦闘になったか?」

「備えますか?山との布陣と逆に」

「良いのか?」

「あの位置であの山の禿げた部分が見えないことはないでしょう、人間などがこちらから入る様子は見えませんでしたし、入ったとするなら向こう側。あとはもう少し向こうの方で脱出路を開いたか、少なくとも正面の山は問題がないかもしれませんね。ほら山から騎士団が動いてる様子は見えますが攻撃態勢ではありません。移動でしょう」

「では……村に向けて全軍を布陣しろ!」

「全軍ですか!?」

「騎士団は多分移動するのだろう?それなら採掘も掘削もないということだ。別方面に備えるため村に備えろ!」

「はっ!全軍村に向けて防衛陣形を!逆茂木も土のうもコンクリブロックの足場も動かせ!左翼を中心に再編成する!左翼の後方に防御用の物を動かして配置しろ!左翼は耐えきれなかったら2つに分かれて再編した両翼前方を通り抜けて防御陣地に再配置するようにしておけ!中央軍が新右翼……」


 そこでちらりと俺を見るクレマンソー。どうぞどうぞ、俺にはよくわからないからね。


「中央軍が新右翼だ!山から奇襲があったら一番被害を受けるが伯爵閣下が構わんとの仰せだ!新右翼より先に逃げるやつがいたら故郷に戻れんと思えよ!左翼は新中央軍、右翼は新左翼だ!」


 ややこしくて政治の話してる気分だな、この国右翼なのかな左翼なのかな?絶対中道ではないだろうけど。中央が新右翼って振り切れたみたいで面白いよな、右翼が新左翼ってとこも意味わかんなくて面白いわ。戦略ゲーでチートコードで政権転覆させたみたいだな。


「見よ、このカール伯爵の泰然とした姿を!浮足立つなバカモノ!」


 俺が一番浮足立って多分一番いらん話し考えてたよ、ゴメンな。ただボーっとしてただけなんだけどな。


「さ、伯爵、お言葉を!」


 は?何も考えてないんだけど……いや余計なことしか考えてなかっただけだけど。


「我が精鋭であるジョストン伯爵領軍よ、敵は賊徒である。いたずらに金を流出させ物価を変動しその挙げ句その金を謀反に使うようなろくでなしの集まりである!」


 そのせいで俺はこんな事になったんだぞ!


「許して置けるだろうか?」


 許せねぇよ。


「この期に及んでそれに抗する奴らは平民ではなく賊でしかない、諸君達がこのような場所に来てこのように戦うのはすべてドルバーニュなぞというゲスな謀反人とそれをだまくらかし懐に入れていた腐敗した金鉱員共である!それに手を貸した挙げ句我々に反逆したのならもはや自分で殺してくれといったことも同じだろう!違うか!」


 余計なことばかりしやがって!


「敵はそう多くない!防御に重きを!敵の数を減らせ!こちらの数を減らすな!」


 あとは騎士団に任せてしまえ!


「移動を急げ!間に合うのなら新中央軍は防御設備の後方に下がれ!間に合わぬ場合は防衛と遅滞を!その後は敵を通して2つに分かれて回り込んで防御施設後方で合流せよ!」


 まぁさっき言ってたことまんまだけど。


「打ち倒せ!領軍再編後の初陣だぞ!」


 負けたら困る。負けないギリギリで耐えてくれ!


「敵の村!予想より数が多いようです!」

「かまわん!予想通りだ!領軍の諸君の奮戦を祈る!」


 よし、終わりでいいだろもうないぞ!演説すること!




「新右翼軍移動完了、引き続き土のうなどを移動させています。新左翼移動完了。新中央軍村下がる準備だけはあるとのことです。」

「よし、とにかく突破されなければ良い」


「新中央軍から伝令!村の兵力約6000人はいるとのことです!」

「は?あっても600人ではなく?どこぞの脱出路から逃亡兵が合流したとしても数がおかしくないか?視界が悪いて間違え……ないか」

「……その数を気が付かなかったのか?村からはみ出るだろうそんな数」

「家にこもっていたのではないかと……」

「500人ほどの村の家に6000人近くが?3~5人家族で家一つくらいだろう?私の価値観の問題かもしれないが……家でかかったのか?」

「いえ、そんなことは……家の数は120と少しでしたし……家自体はジョストンでもよくあるような農村です!」

「農村?何かを耕していたのか?」

「いえ家畜の多さからして畜産がメインのようですが……確かに南に掘り返したような土は大量にありましたね、休耕地のようにも見えますが」


 地下でも掘って部屋でも作っていた?じゃあ俺達が撤退するまでやり過ごせばいいだろうし、この場面で出る理由は?少なくとも誰かの家から土を運び出していたら流石に補給という名の偵察をしてた兵たちが気がつくだろう。南にある?流石に気がつくだろう、予想より多いと報告が来てからずっと監視していたんだぞ。いくら何でも村自体が畜産だけでやれるわけがないし……家畜が多いだけで畜産とも限らんと思うが……そうなると村より家畜のほうが多くならんか?糞と混ぜて肥料でも作ったか?

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