怒りの工兵中将

 うおーすげー……算盤ってあんな楽器みたいなリズム出すんだ。踊りたくなってくるぜ!


「トーチャ副団長……その……なぜ揺れてるんです?計算には時間がかかるのでイライラしないでいただけると助かります。ブレイクニーも真面目にやってます」

「ああ、いや……あんなに指が動くんだなと思って……騎士団の訓練に使えないかちょっと考えていました」

「……そうですか」


 どうやら勝手に動いていたらしい。変な言い訳をしてしまったぞ、何につかんだよ!算盤を!カバル中将がなんだコイツって目で見てくる。いたたたまれない。辛い。


「その……騎士団では誰が計算を?」

「たしか主計科です、主計部だっけ……主計です」

「算盤を使わないですか?」

「わかりません!」


 完全にゴミを見る目になったな。いやだって投げてしまったほうがいいじゃないの。彼らが出来ないってことは出来ないんですよ?


「その主計の方々は?」

「領都でカール伯爵の補佐をしてますが、カール伯爵のほうが計算が早いのでこちらに向かっています」

「カール伯爵のほうが計算が早い?」

「暗算が得意らしいです、ウチの主計で検算するやつが遅くて詰まってたみたいで。しかも計算間違えてカール伯爵に差し戻したせいで提出が遅れちゃって遅れちゃって!東部の補給が遅れてる原因になったらしいんですよ、後で叱っておきますね」

「……そうですか」


 無って感じだな。主計も使えんのかって感じ、カール伯爵がすごいだけだと思うけどな、伯爵の書類は午前に消えるけど主計の奴らの書類は1日経っても減ってねぇみたい、あれでも帝都騎士団全部の主計を預かる奴らだよ。


「数式は普通に使うのですよね?掛け算とか」

「そりゃまぁ……縛る必要もないですし」

「カール伯爵は暗算で?」

「ダース単位の計算が異様に早いらしいです、ウチの主計共が言うには」

「なんでそんなニッチな計算が……?」

「さぁ……?」


 侯爵領か伯爵領がダース単位で統一してるんじゃない?


「仮案ですが急ぎなので、これから更に詰めます。おい、応援を呼んでこい!」

「おあっ、おお、ありがとう」

「当初の範囲より大分広いですね、鉱山規模が3年でここまで拡大している可能性があるとは……」

「えーと、そういえば手紙読んでる途中で来たんだった。領都屋敷にはなかったが鉱山で雇っていた記録を洗ったほうがいい。予想より雇っている、いた可能性もあります、もし鉱山図面が大幅に違っているのなら鉱夫達が大規模な横領をしていた可能性があり、担当者が死んでいるのは口封じで殺されただけの可能性がある。担当者も横領に関わっておりドサクサに恨みを持って処分された可能性が強い。鉱山外の担当者の家を調査したほうがいい」

「先に言わんかこのクソバカ騎士団!計算し直しだ!はやく記録をもってこい!」

「はい!すみません行ってきます!」


 兄貴みたいな強さをしてるじゃないか!ふざけんな!俺は怒鳴ってくる相手が苦手なんだ!団長は怒鳴らないぞ!バーカバーカ!


「副団長?泣いてます?何かありました」

「泣いてない、帝国の危機だ!金鉱の雇用記録を抑えろ!金鉱作業員担当者の家を家探ししろ!リーダーじゃないぞ!ドルバーニュ伯爵側の金鉱作業員の管理担当者だからな!早くしろ!……やっぱ俺も行く!」

「会議してるのでしょう?いいんですか?」

「俺が直接行ったほうが早い!」

「いられない理由でも?」

「そんなもんない!はやく差し押さえに行くぞ!」


 泣いてないからな!本当だぞ!




「これが押収した雇用記録と金鉱作業員責任者の家からでてきた金鉱地図です。3年前のものしかありませんでした」

「副団長が自ら行ったのですか?」

「この方が早いので」

「なんてことだ、3年前から雇用数が増えている、だが見ろこの人材を……赤ん坊や老人まで雇用している。ピンハネかもしれん。実態は不明だが少なくともそれを抜いても増えている」

「ピンハネが露骨すぎませんか?」

「家宰がやったんだろう、ここまでで変わらんのならそうだろう。送金記録は?」

「まったくない、処分されたと思う」

「規模と送金をそのままにしてこっそり拡張して浮いた分を懐に入れていたな、家宰も気が付かないとは思えん。事前の調査では視察の記録はいくつかあったはずだ、領ぐるみでバカ領主を騙していたんだろう」

「バカ領主はせっせと謀反人にわたしてそれを命令していただけか、金額もピンハネしてたらまずいんじゃないかこれ?」

「流石にそれはバレる、謀反人共はそこまで無能ではない、そうであればもっと早くに解決していただろう。問題は3年分の横領だ、何処に流れていた?」

「金鉱街も別に潤ってないしな」

「近いのは東部国境、クレツェン伯爵。羽振りがよかったな」

「先の謀反で死んだがな」

「今は誰だ?」

「直轄地、代官はジョーンズ・エウテナント……財務省理財局員、今回の出兵で協力を申し入れてきましたね」

「ふーん……きな臭いな、3年前の羽振りは?」

「少なくとも良いのは2年前からだ、自領の商業都市建設の護衛で帝国兵を使っていたのを覚えている、完成前に謀反劇で消え去ったがな」

「そこから鉱夫を送っていた可能性は?」

「移動記録はないが……赤ん坊や老人をピンハネの偽装としてクレツェン伯爵が送り込み大規模な横領をしていたのではないか?」


 へー隣の領主から横領されるとかやべぇな、ともったけどそこら中からカツアゲしてた元侯爵夫人とかいううババアがいたか。


「クレツェン国境よりで鉱山を広げた可能性が高いんじゃない?」

「それはなぜです副団長?」

「つなげてトロッコでそのまま金を届けさせるとか銭ゲバ貴族が好きそうじゃん」

「まぁ、確かに」

「一応西側注力姿勢の場合と合わせて再計算します。しばしお待ちを」

「補給は届くまで待機ですからね、いたしかたなしですよ」


 思った以上にきな臭くなってきちゃったなぁ……兄貴来てくれんかなぁ……カール伯爵は補給整ったら来てもらおう、代わりに会議仕切ってもらうか

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る