まぁ何をするわけでもない

「カール伯爵、指揮に関しては伯爵が?」

「いや、クレマンソーさんに任せますよ、トーチャ副団長から指揮権移譲要請があった場合はしたがってください。私は戦の経験がないので」

「呼び捨てで結構です、指揮官ではありますが司令官ではありませんし、仮に司令官であってもカール伯爵が最上位なので……指揮権移譲は了解しました。当初の予定では山間部を超える予定ですが伯爵の体では……」

「かまわん、馬車にはなるが越えられなければ配置換えか何かがあるだろう、この馬車は返却必須だ。不可能な地点を任されはしない。もし違っていたらトーチャ副団長が罰せられるだろうからな」

「では、山間部の進軍でかまいませんか?」

「かまわん」


 馬車に乗って揺れてるだけだ、奇襲でもされればまずいがその時はその時だろう。逃げ一択の気分で行く。俺にできることはお飾りくらいだしな。


 率直に言えば山越えは大したことはなかった、整備もされているし馬車の性能のせいかさほど揺れることもなかった。お約束ではすごく揺れて馬車の改良を考えたりするんだけどな、まぁバネ自体はあるみたいだし使われてそうだよな。バネでなんかして……何をするんだろうな?聞いたことはあるがどう使うかなんてしらないし……前世で馬車見たことないし……こう、気づきがあればこっちの世界にあれがあればなぁ、とかで閃くんだろうが……やっぱ初代宰相が異世界転生者として猛威をふるった後だからやれることもないのが辛い、俺のオセロとか作って小銭稼ぎてぇよ、将棋とか囲碁とかルールあんまわからんけど作って売り出したかったよ。行軍休憩中に皆やってるじゃん、トランプみたいなのもあるしウノっぽいなにかもある。


 そのうえ俺が一番弱いから気を使われて、休憩時間なのに俺の相手してるやつが仕事みたいになってる。俺本当にいらねぇな……先行した帝国軍が街を接収したのでそこを目指して下山したのだが騎士団から待機命令が出て皆ゲームばかりしている。

 まぁ金鉱で好き勝手してる奴以外は恭順してるから通常警邏でいいらしいからな、クレマンソーさんが俺のチェスの相手をしているが日に日に弱くなっている。気を使いすぎてる。おべっか下手なタイプだなこの人、まぁそれでも俺が負けるんだがね。何処まで弱くなるのか賭けの対象になってるらしい、反則負けが最多なのでそこまで追い込まず領兵たちに大損させてやりたいわ!


「いや、日に日に上手になっていきますね、カール伯爵」

「そうでしょうか?」


 接待下手だなぁ……接待勝負なら俺のほうが勝てそうだ。まぁ接待のためのチェスが弱すぎて話にならないと俺も苦戦するだろうけど。ほら!もっとうまいとこヨイショして、自尊心を煽って、すっご~い、先程の手は困りましたーとか嘘でも具体的なこと言って褒めるんだよ!言ってて惨めになってきたな。


「……ずいぶんと落ち込んでいますが何かありましたか?」


 負ける側がもっと気持ちよくヨイショしろって思ってアホらしくなってました。


「いや、待機期間は何をしていいかわからなくてな、書類仕事は朝全て終わったし」

「あの数をですか?」

「アランが補佐だからな、いないところで送ってくるのはアランだから見ればわかる。アラン以外の書類は分かりづらいものがあるが」

「なるほど」

「ここからドルバーニュ領とはどれくらいだろうか?」

「2日です、騎士団が周辺の平定と金鉱を囲むように移動中です。合図がでたら出撃して領都接収。それを喧伝して相手が金鉱から金を持ち出して撤収する場面になったら強襲します。ジョストン領側は厳重に警備をして身体検査も行っているのでこちら側の逃走がメインでしょうね」

「もう逃げてるものがいるのではないか?」

「欲張らず引き際を弁えているのなら見逃してやってもいいだろうとのことです。持ち出せる量も少なかったでしょうし、給金代わりに持って行かせておけとアラン家宰とクレマン局長、トーチャ副団長の指示がありましたので。まぁ残って恭順してそのまま働いたほうが実りはいいと思いますが……金鉱仕事は大変ですしね」

「領都攻めは抵抗があるのか?接収と言ってるくらいだからないだろうが」

「ないと思いますが……一族がやけっぱちで攻撃してくる可能性程度はあります」

「そうか」


 やけっぱちねぇ……主な奴らは全員処刑されたんだろうに。どんなのが残ってそこまでしてくるんだ?とか思ってると干されてた優秀なやつが最後っ屁で攻撃してくるやつだな。もしくはどっかで問題を起こして帝国軍とかが恨みを買うとか、意外と慕ってるやつがいたとか


 数日後、ドルバーニュ伯領都の接収命令が届きあっさりと成功。これ俺達に花を持たせるためだけのものだったんだなと拍子抜けしたのだった。クレマンソーは不思議そうだったが……事前に補給面が絶たれ金鉱に撤収していったらしい。


 ん?金鉱に?金を懐に入れてギリギリまでいれたい奴らならそもそも領都なんか抑えないで逃げたほうがいいよな?金鉱にこもってギリギリまで採掘して精製してるわけだし……ドルバーニュ周辺包囲から脱出できないから金鉱で防衛戦をして撃破後に強制的に突破するのが向こうの計画だよな?領都を押さえる意味があるのか?包囲完成後も大荷物で大軍でもないなら個々で山を超えて逃げることも平民に変装して逃げることもできるよな。身体検査といってもそこまで細かいわけでもないし……金塊を持ってるかどうかくらいの程度だし、商人の振りをすれば逃げられる可能性は高いし、それをしない理由ってなんだろう。そもそも金鉱で補給ができるのか?

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