察しが悪い人々

「ほう、これは見事ですなぁ……この短期間で1万も揃えるとは……流石はトーチャ副団長ですなぁ」


 感情のすべてを捨て去ったような声で詰め寄るカルマンさん。まさか再編にかかった費用を出すと言った直後に弟が1万もの兵を組織して待ってるとはとは思ってなかったようだ。まぁ弔慰金も肩代わりするような言い方だったしな。1000人死んだらどれだけ自分の財布に損失が出るのか考えたくもあるまい。


「国土局長殿、たしかに兵は揃えましたぞ。軽い訓練も施しましたし補給体制も整えてきました。今からでも出撃できますぞ!伯領指揮官はアラン殿でよろしいですかな?」


 兄弟ってすれ違うものなのかな?こうなると優しかった兄貴に感謝だな。まぁ戦場に向か時点で他人事ではないが……まぁ安全圏で控えていればいいだろう。


「伯領軍と戦闘計画も練っておきましたのでドルバーニュ伯領都攻めをお願いいたします。クレマンソー領軍指揮官殿、お頼みしますぞ」

「カール・ジョストン伯爵、お初にお目にかかります。ジョストン伯爵領軍指揮官を務めますクレマンソーと申します。先代の頃にもこの役を仰せつかっておりました。以後よろしくお願いいたします」

「カール・ジョストンです。伯爵位を継承いたしました、若輩者ですがよろしくお願いいたします」

「ミミ様に似ておりますね……礼儀正しいところが……」


 似てる要素薄いな……それとも他のやつ礼儀正しくないのか?会話を邪魔できないから今にも動き出しそうなカルマンさんがトーチャ副団長を据わった目で見ながら待ち続けている。


「早速ですが戦場へはいつ?」

「トーチャ副団長がおっしゃるには準備が出来次第すぐ攻めに行きたいと」

「アラン?することは?」

「ありません」

「では、行きましょうか。クレマンソー……指揮官?でいいんですかね」

「カレマンソーで構いませんよ、伯爵。なにか?」

「流石に戦場の乗馬スキルはないから馬車があればそちらを使いたいがよいか?」

「ご安心ください!高速馬車をそのままお使いいただいても結構ですぞ!!」

「ちょっと待ってください、伯爵が戦場に出るのですか?アラン様ではなく?失礼でしたが今おいくつでしたかね!?」

「5歳ですね、立場上私が出るしかないのですよ。指揮官のクレマンソーさんだけを派遣することに問題は?カルマンさん」

「……数日前に再編した領軍を前任とはいえ任せて戦場に送るのは体裁が非常によろしくありません、再編前から残っていた帝国軍関係者がいれば話は違いますが……もしくは領軍自体が元から残っていたのなら問題はありません」

「そいつは引き継ぎした後で帝国軍に配属したぞ、緊急時としてな」

「…………領軍は存在しなかったのか?あったんだよな?そうだな?」

「いや、取り潰しの後で帝国軍に引き継いで解散してたから急いで作り直した。なんとか1万にしたぞ、解散前は5000人いなかったみたいだが今後を考えるとな……これくらいは必要だろう?兄貴の期待に答えられたかな」

「トーチャ」

「国土局長の期待に答えられたかと思います」


 多分そっちじゃないぞ副団長。領軍が残ってたことにして俺を戦場へ送れなくするチャンスと思って聞き方を変えたのに兄弟の対話は必須だな俺を見習ってほしいくらいだ。

 でも流石にそんなことを領兵指揮官の前で言えないからね、しょうがないね。


「とにかく私が出るしかないのですよ、じゃ行きましょうか」

「いや、さすがカール伯爵!話が早いし行動も早い!ぜひ騎士団に来てほしいくらいですが文官系ですからね~ぜひ来て欲しいんですが」


 露骨にトーチャ副団長が持ち上げてくる。兄が怒ってることは理解したらしい。だがなぜ怒ってるのかわからないので領軍編成を自分が仕切ったのではなく俺の命令か頼みでやった方に持っていきたいようだ。領軍の前で軽んじたように見えることを理由と思っているのかもしれないが兵が少なかったかと思ってる可能性もある、今から武装された金鉱を攻めるのだ、逆とは思うまい。それに俺を戦場に出したくないとは軍人としては思わないのか、それとも箔をつけるために来たんだろうと思っているのか。今後は兄弟ですり合わせてくれません?まぁすり合わせて演技してるかもしれないけどね、魑魅魍魎と渡り合ったんだから弟の動きを呼んでなんかするくらい楽勝でもおかしくないし。


「伯爵は500番代の席次を授与された新進気鋭の方ですからクレマンソー領軍指揮官殿も頼みますぞ」

「500番代ですか!?5歳で……」


 クレマンソーさんがドン引きした目で見てくる、これ栄誉とかじゃないの?バケモンみたいな見方されてないか?


「だから此度の戦いも……」

「トーチャ副団長?出陣をしていただけますね?」


 自制心で我慢してるのがよくわかる。カルマンさんは首輪をつけた飢餓状態の獣のようで一撃で仕留めるような目線でトーチャ副団長を睨んでいる。


「はい、直ちに!」

「伯領軍は後方支援でいいですね?」

「えっ、ドルバーニュ伯領都攻めで……」

「再編したばかりで?可能なんですかね?」


 すごい威圧だ、うんとは言わせんぞとにじり寄っている。これは勝負あったな、さ、補給用の書類仕事準備でもしておくか。サイン書くくらいだけど。


「可能です、現状の兵力と再編した領軍はドルバーニュ伯領都制圧が可能です」


 クレマンソーさんがきっぱりと言い切りトーチャ副団長もうんうんと頷いている。カルマンさんはすべてを諦めた表情で副団長の耳元で何かを囁き仕事に戻りますと去っていった。


 じゃ、出陣しましょうか!全員察しが悪いのは軍人だからか?偏見すぎるか?

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