これがジョストン伯爵領領兵です

 やる気に満ちたカルマンさんが作る書類にアランが目を通し、俺が裁可のサインをして数日。書いた書類はカルマンさんが騎兵を一喝し王都やジョストン領都へ届けさせている。どういう命令系統なんだろうな?


「そういえば……今この軍の指揮系統はカルマンさんなんでしょうか?」

「ええ、一応ですね。引き継ぎもしたので……」

「軍を国土局長の地位で指揮できるのですか?」

「一応軍務省に席もあるので……一応程度ですがね、席だけなら仕事と関係があったり功績次第で貰えますから……それに内務省官僚として騎士団は動かせますし、帝国軍は軍務省の管轄で今は帝都騎士団の指揮下にある状態なので法的にも問題はありませんね」


 ま、内務省が再編された後はどうなるかわかりませんけどもねとサラサラと書き物を続けるカルマンさん。軍務省にも席はあるのか。ふと手を止めたカルマンさんはこちらを見た後尋ねてきた。


「カール様?伯領兵の指揮系統ですが……」

「ええ、どうなるのでしょう?戦場経験も戦闘経験も何もありませんので……そもそも再編してる最中でしょうし……」


 カルマンさんは急に焦り始めた。なんか問題?指揮系統上問題があるなにか?俺が下に入ればいいと思うけどね。


「アラン先輩?軍の指揮は?」

「最低限、侯爵家の兵を率いたことが10回くらい。功績は特になし」

「いえ、そちらではありません、功績は知ってます。誰が実質責任者になるのです?指揮官にしろ何にしろ」

「それは…………」

「構わない、実際に私は指揮できないしな、知識も経験もないのに任される兵も嫌だろう」

「領兵の指揮官がいるならその方に、我々は領都屋敷で改革案を実行しなければならないですし……本来は出さなくても良い領兵を出すのも私が指揮するのも変ですし……カルマン国土局長が指揮してたらそれこそ……」

「騎士団なら私が指揮をとっても問題ないのだが……領兵は流石に越権に……」

「なんとかこじつけられんか?」

「いや、それは……」

「カルマン君、できるだろう?」

「いや、内務省の権限をそこまで使うと……ここまで協力してもらったうえで領兵の指揮権まで奪う形になると兄弟揃ってどうなるかわかりません……」


 悲壮感漂う顔を見せアランを説得しにかかるカルマンさん、俺も戦場にそこまででたいわけでもないので心の底ではアランを応援している。いいぞ、押せ!アラン!


「なんとか……領兵の出動費用も我々の持ち出しでいいので……どうにか……領兵の動員で遅れた工事分の補填も我が家からの持ち出しでいいので……」

「いかがしますか?」


 えっ!?急に俺!?なんで説得辞めたの?補填額でプラスになるから?


「必要ならば出るしかあるまい」

「ありがとうございます!カール様!安全な場所へ布陣させますので……」

「初陣ですか、お供できないのは申し訳ありませんが……」


 あっ、お止めください的なのじゃないんだ。俺の代理でどうにか出来ないかって話じゃなかったのか?本当に交渉の揺さぶりとかそういうのでもなく受ける一択なんだな。領兵の金そんなかかるんだな、しかたないな、まぁ安全な場所で見てるだけだし大丈夫だろ。


「伯爵領の規模と統治を任された期間を考えるとまぁ1000人か2000人くらいですかね、将来的には5000人を目安としたいですね、防衛を考えて7500人欲しいですがどれだけ領内利益が上がるかによりますからね」

「指揮官育成も必須だな」

「素質があったら軍事学校にでも送りましょう、戦略戦術やらなら帝都専門学校と並行して学べますし」

「まぁカール様が勉強していただければ楽ですが……将来は官僚でしょうしね」

「最低限になるだろうな」

「再編にかかった費用も維持費も我々兄弟が出しますので……お願いいたします」


 アランの目の色が代わったな、やっぱ軍事って金かかるんだなぁ。装備更新にしろ維持費にしろ色々大変だろうしな、利益より多くの金額をいれるものでもないのは確かだ。国家ではなく統治を任された管理人みたいなもんだしな、いざとなったら帝国に泣きつくしかあるまい。その場合は敵国じゃなくて領内同士のいざこざだろうし。




 ようやく領都に到着した。と言っても本来なら後数日かかるらしい、高速馬車とはいえそんな縮むものなのかね?6日で着いたが普通なら10日くらい?

 母の実家だし一応は俺の里帰りみたいなもんだしな、感傷に浸れるなにかないもんかなぁ。


「お待ちしていました!カール伯爵!ジョストン伯爵領兵1万!既に準備は完了しています!いつでもいけます!」


 満面の笑みを浮かべるトーチャ副団長と能面のような顔をしたカルマンさん。俺は知らないぞ。ズラッと並んだジョストン伯領兵を見て俺は面倒くさい事になったと察した。

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