ドナドナ

 カルマンさんとアランと軍事用高官高速馬車に乗り込み……高速馬車でいいか、出立。と言っても戦や何が道中であるわけもなく。


「カール様、野盗がいます。おい!ガルバン!あの山の野盗を狩ってこい!次の村で休んでいるからな!」


 いや、まぁあるにはあったが特に何もせずカルマンさんが誰ぞに指示を出してるだけで終わっている。傍から見たら俺が護送されているようだ。

 一番怖いのがカルマンさんがやたらと気を使って来ることだ。騎士団や帝国軍と同じ食事でいいと俺は率先して媚を売っているのだが……成長期だから同じものを食べさせるほうが騎士団や帝国兵への不名誉だといい騎士団や帝国軍のお偉いさんにうんと言わせている。


 アレが脅しにしては対応が下手に出過ぎだし、ミスにしてはなんか気を使いすぎてる感じがする。俺が弟を害すると思っているから辛く当たって俺に温情を乞うているかもしれない。


「あの……トーチャ副団長ですが……」

「愚弟がどうかしましたか?」

「いえ、ノンストップで着いてから領兵の再編ができるのでしょうか」

「はっはっはっ!できなければ死んでますし生きてたら殺します……!!」


 どうも殺気は本物っぽいんだけど……うーん……どうだろう。


「兄弟仲はよろしいのですか?」

「もちろん、不仲であればどちらかは死んでます」

「は、ははは……ハハ……」

「ああ、失礼。カール様の兄弟は普通に仲が良かったですね、ああいう接し方しか出来ない仲の良い兄弟というものはいるのですよ」

「ああなるほど、では殺すというのは」

「いえ、殺します。これ以上しくじったら殺します。カール様の慈悲があっても殺します」


 この国って人間関係にもストイックなのか?アラン!クソッ!小説じゃなくて書類を読んでるから助けを求められない。嫌な気配を感じて読むもの変えたな!


「そ、そうですか……」

「なぁにもし負けたら責任はすべて私が背負います、勝ったらカール様の功績にします」

「いえ、流石にそれは……何もしてないのに功績をいただくのは」

「いえいえいえ、いきなり責任を押し付けた形になりましたし……どうか功績を上げた際は受け取っていただきたく、何卒お願いします、我々を助けると思って。なんとか、どうにか、このとおりです」


 怖えーよ、何がそこまで駆り立てるんだ?多少の評判は下がるが即粛清レベルなわけではないんだよなぁ。どちらにせよ戦は任せるしかないし……。


「まぁとにかく領内改革の方を進めましょうか、私の署名がいるものは?委任状でいいのですか?」

「委任状を?なかなかの権限ですね、指導とか会議の案を検討したり……」

「全権委任状でアランに統治は任せていますから、改革はカルマンさん、それに合わせた対応はアランに住み分けて同じように全権委任を出して齟齬があったときだけ私が確認する体制にします。アラン?」

「かまいませんよ、家宰としての仕事は問題を起こさないことが中心であって改革することではないですからね、改革を命じたのなら考えますがカルマン国土局長が適任でしょう?変更した旨を送っていただければこちらが合わせて仕事しますよ。これでも長い時間同じ仕事をやってますから」

「と、言うわけで改革に関しては全権を委任します」


 全部ぶん投げる俺に対する牽制で眼の前で兄弟喧嘩を起こした可能性はあるが……まさか改革自体俺に差配しろとは思ってないだろ?だから俺は2人投げて判断だけするぞ。流石に十分だろ?な?な!?


「なるほど……わかりました……では確認は?」

「必要なことはします。速度が必要なものはどんどん実行してください。そのための全権委任です」

「それは、よいのですか?」

「責任を取るのが仕事でしょう?その時はその時です。改革が帝国全土で有効になるのならアリですからね」


 実際責任取るのは2人だと思うけど……俺も評価落とすけどまぁ負けても同じようなもんだし大丈夫だろ。言葉だけはかっこよくしておけば、まぁ行動しない分責任を取るとアピールで多少はマシかな?

 まぁ一応戦場にはいかなきゃならないだろうし、なんかの仕事はしたほうがいいな。まぁそっちですり合わせてくれれば俺は何もせずに住むけど、多分アランがうまくまとめるだろ。


「あの……野盗の駆逐が終わりました、カルマン兄貴」

「そうか、逃がしてないか?」

「はい根切りにしました」

「よし、功績表に書いておくから安心しろ、配置にもどれ」

「はい兄貴!」


 兄貴って言ってるし名前もにてるから関係者なのかな?


「あの……あちらも弟さんですか?」

「いえ、関係ありませんが」

「えっ?」

「トーチャの兄なので兄貴と呼んでるだけでしょう、お気になさらず。では……任されたからには頑張ります。今回の改革は私の財布から出しますので、もし足りなかったら多少出していただけると幸いです」

「アルミ金貨ごと渡しておきましょうか?」

「ハハハ!剛毅ですな!まぁそこまで信頼してもらえるのなら……私としてもやる気が溢れてきます」


 なんだかやる気を出したカルマンさんをよそに、俺は低いテンションで領都へ運ばれる羊の気分を味わっていた。

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