お前何してくれてんの?

 ドルバーニュの資料を接収して関係者の末路を考えながらどう空いたポストに人をいれるかなどを考えながら午後のことを考える。おそらくカール伯爵は会うだろうが緊急の予定がある可能性もある。まぁ急ぎでもないし先触れを出しておけば問題は起こり得ぬだろう。


 ドルバーニュ邸の玄関で資料を確認して関係者の家に私が指揮できる帝都騎士団の人間を送り込む。国土局長とて内務省の人間なのだ、警察権を使えば騎士団くらい動かせる、ましてや謀反だどうとでもなる。帝国警察庁になる前ならまだ動かせる。まぁ独立しても内務省との協力関係は崩れない、命令権はないが利益は共通なのだ。いくらでもやりようはある。


 さて、カール伯爵と領内改革の話を詰めて……その後は見送って手綱を握りきった後に私が引き継ぎを終わらせて国家運営実験を始めるとしましょうかね。ここでうまくいったら内務大臣になった時に活用して失敗したら見送る。ついでに伯爵領の政治運営で箔が付く。したっば時代に地方で活躍するより最高責任者として差配を手伝ったほうが評価は上がりますからね。アラン先輩も手伝ってくれるのなら失敗しようと成功しようと良い評価にしかならないのは無敵と言ってもいいですね。領内統治の天才といえばアラン先輩ですし。


 などとご機嫌で事前に大臣たちと決めた族滅基準に当てはまる家に騎士団を送り込んでいたらウチの使用人が大慌てで来た。断られたのか?それにしては急いでいるが。


「ハリスン侯爵邸が帝都騎士団と帝国軍に囲まれています!カール伯爵がトーチャ副団長の視察に同行するとのこと、カルマン様のご指示ではないかと!?」

「は……?何だって?落ち着いて話せ」

「ハリスン侯爵邸が帝都騎士団と帝国軍に包囲されています」

「なぜ?」

「わかりません、カール伯爵もこちらになぜだと」

「何故と聞かれても……何がなんだか……それで視察に同行する?今すぐってわけではないよな?」

「午後であることに首を傾げていたのですぐに行くのかと……屋敷の人間が武装してました」

「そんなに問題が起きてるのか!?」

「トーチャ様が馬車を取りに行ったと」

「どうしてそうなる!馬をかせ!いますぐハリスン侯爵邸へ行く!」


 何がどうなったらそうなるんだ!視察の同行を断って屋敷を包囲した?いや別にすぐじゃなくてもいい話だぞ?愚弟はそこまでバカじゃないぞ?侯爵邸が武装?まさかいきなり武装して押し入ったわけではないよな?侯爵が乱心した?いや、どうせ仕事場で置物やってるだろ、毎日仕事場に出ることくらいしか評価するとこない男だし。粛清の連絡があった?だとしたらカール伯爵は除外対象だろうしな。そもそも私が知らないこともあるまい。




 あのクソバカぶち殺すぞ!軍事用高官高速馬車だと!?屋敷を包囲して視察を強要した挙げ句に帝都騎士団副団長権限で馬車を取りに行くなんて我々がついでにカール伯爵に責任を押し付けて殺そうとしてるようではないか!ムリヤリ指揮官に担ぎ上げて負けたら責任を取らせて謀殺するようにしか思われんぞ!内務省の人員を諸手で迎え入れたのに謀殺してきたとか今後内務省を誰も信用せんわ!ただでさえウェラー公爵が内務大臣やってた頃には距離を置かれて、そこらで暗躍があったのに……粛清して内務省は再編中です、協力者は用済みだから罠にはめます!では前と同じ様になるではないか!従軍経験がないカール伯爵を指揮官にして手こずりやすい金鉱を利用した山岳陣地を攻めるなぞ勝っても大きく犠牲が出るのは目に見えているではないか!実際に指揮しなくても悪評が付くぞ。あいつ何考えてんだ!


「おう、兄貴。なんかの高官高速馬車の許可が出ねぇんだ」

「あれ?カルマン国土局長?……ああなるほど」

「いや、許可を取る必要はない!カローザス整備局長!」

「まぁたしかに許可を取る理由はないでしょうね、内務省管轄ならそう行っていただければよいのですよ。トーチャくん、なんでカルマン国土局長の指示だと言わなかったんですか?」

「馬車は俺が気を利かせたから……」

「いや、いや、本当に馬車はいいのです!」

「ええ、わかっていますよ。おい、頼むぞ」


 わかってくれてよかった、危うく許可が出たら終わっていた。このクソアホ愚弟のせいで自縄自縛した挙げ句首を吊るところだったわ。


「流石兄貴、もう纏まったな!」

「お前な、後で話があるぞ……」

「な?ああ手際が悪かったことは謝るよ……ごめんよ兄貴」

「違う、そうではない」


 苛立ちを表に出さないようについでに国土局と内務省大臣官房に資料を出し都市計画課から人を連れジョストン伯領の改革に協力するよう頼み込み。来月くらいに領都に来てほしいと頼み込み外に出る。

 そこには最上級の軍事用高官高速馬車が鎮座していた。なぜ?


「カローザス侯爵からカルマン閣下に軍事用高官高速馬車の試運転を頼みたいとのことです。内務省大臣官房もぜひカール伯爵に乗っていただきたいと……軍務省の噂ではゲール子爵も後押しするとのことです」


 終わったな、罠にかかったかと思ったがそれぞれのすれ違いだなこれは……カローザス侯爵は元侯爵夫人に白金貨を30枚くらい巻き上げられてたし金鉱のことは知らないはずだ。私を見てカール伯爵に軍事面での成功を持たせる計画だと思い乗っかったのだろう。

 大臣官房はウェラー公爵亡き後なんとか立て直し粛清してクリーンさを出していた。きっかけを作ったカール様を一番可愛がってるのはここだ。勝っても負けても内務省はカール派であることを表したいのだろう。流石に屋敷を騎士団と軍で包囲して視察を頼んだ後馬車を強請っていたと知ったら絶対許可を出さなかっただろうな。予想できるわけがない。

 ゲール子爵は……式で同席したとは聞いてるが……懇意なのか?悪意があれば斬り殺してるか軍務省から反対が出るから静観か応援か。おそらく武装化した暴徒達が金鉱に防衛施設を作って待ってるという情報があれば反対に回っただろう、カール伯爵に泥を塗るのは現状は敵が増えるだけだ。本人の責任ではないのに金を返してる時点で評価は高い。その上アラン先輩に全権委任をして他の高官ともうまく付き合ってる異世界転生者疑惑がある人物。誰が敵に回したいんだ?


「ありがとうございます、我々もこれでカール様を胸を張って迎えに行けます」

「我々もこれで胸を張ってカール伯爵にお会いできるというものです。軍務省はカール様の訪問をお待ちしておりますとお伝え下さい」

「帝都騎士団も待っているのですが……」

「ええ、もちろん伝えておきますよ。カローザス整備局長によろしくお願いします」


 貴族としてではなく軍務省としての行動として歓迎することを伝え責任はいざとなったら自分が被ることも示唆しつつ軍事用高官高速馬車をハリスン侯爵邸へ移動させるように頼む。流石に絶望感と疲労感が体を震わせたため馬車でハリスン侯爵邸に行きたいと馬車を持ってきた整備局の人間に頼むと許可され軍事用では最上の馬車に乗せられる。私は馬車内の防音を確かめた後ヘルムを被って格好をつけている愚弟をぶん殴って説教を始めた。話したいことはまだあるが謝罪が先だ。

 もしこれで大きな犠牲を出したらまっ先に俺が責任をかぶって死なないと愚弟が死ぬことになる。カール伯爵の評価が周辺から上がっているということは失敗したのではなくさせられたと判断された場合はどうなるか……屋敷を騎士団と軍で包囲して視察を強要して軍事用高官高速馬車に乗せて最高指揮官に祭り上げた挙げ句失敗しました、責任を取らせましょうと行って乗ってくるようなやつもう大体は土の下だ。まさか愚弟が俺を殺しに来るとはな……


「でも先触れ出さなくてもあっさり入れてくれたよ?」

「屋敷を包囲して訪問してきた相手を先触れがないと追い返すほど根性がある方が怖いわ!」

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