兄弟喧嘩

「この度は愚弟が申し訳ありませんでした……」

「申し訳ありませんでした……」


 少し時間が経ちクレインさんとトーチャ副団長が戻ってくるなり土下座を敢行した。土下座文化があるんだなぁ……初代宰相が布教したのかな?嫁に頭下げてそう、なんとなくだけど。


「まぁ、今更どうにも出来ませんよね、仕方ないですよ」

「なんと言ってよいものか……本当に申し訳ないです。この愚弟が……」

「申し訳ありませんでした……」


 ヘルムの頬の部分を凹ませたトーチャ副団長は神妙な顔をして謝罪してくる。なんで凹んでるんだ?


「ああ、これは兄にいきなり鉄拳制裁を受けて……ウッ」


 頭を殴られてたトーチャ副団長はそのまま崩れ落ちた。うーん……兄は強しだな。軍人を気絶させた手腕に思わず感心してカルマンさんを見ると気まずそうに答えた。


「内務省も地方からキャリアを積むので……地方局や領主と協調したり対立したり賊を蹴散らしたり自ら剣を持って戦うのは日常茶飯事です。ですので……一定の戦闘はできます。地方時代はお偉方の護衛もやったりするので……」

「副団長もお強いでしょう?その……」

「まぁそこそこですよ、カール様。この辺を一撃入れれば大抵は気絶します。強さではないんです」


 絶対暗殺とかもやってたなこれ。ヘルム凹ますパンチって考えると相当な威力だよな。


「とにかく愚弟は置いておきましょう。馬車の使用許可がおりました」

「それはつまり……」

「はい、カール様が表面上ドルバーニュ伯領接収最高責任者ですね。止めに入ったのですが気を利かせてくれましてね、許可されました……」

「気を利かせた……?」

「責任者がドルバーニュ伯領を任されると思ったらしく……」

「なぜそのような……皇家直轄になるのでは?」

「金鉱はそうですが……金鉱の情報も伏せているので……ドルバーニュ族滅と山道工事はだけは周知されていたのでそう判断したのかと……」

「つまり花を持たせてやろうと?」

「そうですね……内務省もウェラー公一派を消した恩がカール様にあるので……私がドルバーニュ族滅の現場で資料押収に出ていたのが裏目に出ましたね……本当に申し訳ない」

「勝てればまぁ……問題はないのでしょう?」

「はい……ないと言うかないだけと言うべきか……ですので私も付いていきます、もし負けた際は私が責任者ということにしてください」

「よろしいのですか?国土局長としての仕事が……」

「どちらにせよ。ジョストン伯爵領で私自ら差配する予定だったので早まるだけです、功績はカール様に、負の部分は私が背負います」


 目が据わっている……国家運営実験できる土地を貸してもらったと思ったら弟が善意でそいつを蹴落とそうとして内務省が善意で背中を押し始めて計画が破綻しかけるとこうもなるのか。まぁ俺にできることはもう視察に一緒に行って戦を眺めることしか出来ないからな。


「では、戦に行きましょうか、アラン?伯爵家って兵はいるのか?」

「私とカール様だけですね」

「……私一人じゃなくてよかったよ」


 確かにいるわけないな。ジョストン伯爵領の軍備どうなってるかわからないし、直轄だったから騎士団とかそのへんだった可能性は十分あるわな。


「伯領で徴募できるか?」

「元領兵を優先して引っ張ってきます、自警団程度は残ってる可能性もありますので最悪はそれをそのまま使います。手紙を書くので届けていただけませんかね?私達はこれから出立でしょう?伝令を貸していただきたいのですが」

「もちろんです、起きろ愚弟!」

「ウッ!!」


 指でどこぞを突くとトーチャ副団長は飛び起きた。泳ぐエビみたいな起き方だな……より赤く塗るように言おうかな。


「アラン先輩が手紙を書いたらそれを持ってジョストン伯領都の担当者に渡せ、領兵を再編しろ!最悪自警団を使え!1日で行ってこい!最悪2日まででいけ!」

「いや、2日は無理……」

「その鎧を脱いで街道沿いの馬を買い替えて一睡もせずに行けば着くだろうが!誰のせいでカール様がここまで苦労したと思ってるんだ!文句を言うならここで貴様を殺して俺が行くぞ!」

「行きます……あの兄上……騎士団と帝国軍の指揮は……」

「行軍と野盗刈りくらい私にもできるわ!俺の席次と従軍歴思い出せ!お前のとこの次席指揮官は!」

「ガルバン第1騎士団長です……」

「お前より脳筋ではないか!俺が代わっても問題ないやつだな……戦略戦術担当は!参謀は!」

「忙しいので帝国軍から借りればいいかなぁって……」

「貴様……!帝国軍と帝都騎士団の再編の本格的な初陣だって理解しなかったのか?」

「いやその……諸兵種連合部隊みたいな」

「参謀だけ借りる諸兵科連合なぞあるか!……カール様」

「はい」

「コイツ殺しましょうか?」

「さすがにそれは……」


 トーチャ副団長はカルマンさんの怒髪天を衝いてしまったようだ。流石にこれほどの地位にある人間が力攻めでやるとは思えないが……そんなやつすぐ失脚するだろこの国の構造だと。


「そうか、愚弟よかったな。アラン先輩、終わりましたか?ほらいけ、俺達がついたときジョストン領兵がいなかったら自刎しろ」


 自分で自分の首刎ねろとか言い始めた。負けなきゃいいだろと思ってたらトップがノープランで他のやつに任せるつもりでしたって発言に取れるもんな。任せる相手を信用してるとしても無責任だろうからわかるっちゃわかる。


 あれ?これアランやカルマンさんに全部ぶん投げてる俺のことやんわり刺してる?警告か?たしかに人前でここまでブチ切れる意味がわからないしな……裏で軽く叱るなり何なりすればいいわけだし……ここで帝都副騎士団長を見せしめにする必要はあるのか?

 これ……なんか俺がやらなきゃいけない感じかもしれないな。俺に何ができるのかマジでわからんけど。

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