お前まじふざけんなよ!言えないけど!

 カルマンさんが訪れたのはそれからすぐだった。自ら馬に乗り屋敷へやってきた。若手のことはともかく局長職にある官僚でそこまでする人はそんなにいないらしい。やっぱり関係ないのか、それともわざとか。見極めたいところだが相手も百戦錬磨、アランすらここまで焦っているあたりどうなることか。


「失礼いたします!説明をお願いしたいカール伯爵閣下!」

「カールでいいですよ。カルマンさんは関係ないんでしょう?」

「いえ、その……弟にカール様を視察に誘うよう言っておいたのですが……屋敷が帝都騎士団と帝国軍に包囲されているとか、侯爵家が武装しているとか……とにかく何が合ったのか最初から説明をいただきたいのですが……」

「と、いっても急に屋敷が包囲されて視察の同行を提案されたのでそれをお受けしたとしか」

「今すぐにですか?」

「あれは今すぐではないのですか?」

「ああ、いや、まぁそう取られても仕方がないですが……本来は護衛と露払いで騎士団を出して私と打ち合わせ後に出発する予定だったんですが……弟は?」

「馬車を借りに行ったっきり戻ってきません」


 カルマンさんもこんな表情するんだなぁ、圧倒的一番人気を複勝で買ったのに4着になって全財産擦った人みたいな顔してる。前世でよく見たぞこの顔。


「……馬車に関してなにか言ってましたか」

「軍事用の高官高速馬車とかなんとか」

「あのクソボケ!ぶっ殺してやる!失礼……王城に行ってきます。おい!お前トーチャの側近だろ!俺の屋敷に行って執事長を呼んでこい、緊急だ!早くいけ!ここに来てカール様の手伝いをさせろと伝えろ!トーチャ以外が屋敷に入ったらぶち殺せと伝えておけ!入れ違えたらトーチャもすぐ俺の元へ顔を出させろ!」


 凄まじい剣幕だ。俺は迫力に飲まれ内心ビクビク足腰ガクガク玄関正面の階段に腰掛けて足を組むしかできない。アラン、お前平然としすぎだろ!なんでお前は俺に引いてたんだよ、こっちが引いてるわ。お前も修羅場くぐってきたっぽいもんな。トーチャ副団長の側近ぽい人は泣きそうな顔でどこへ向かっていった。武官でも恐ろしんだなぁ。


「では、カール様……もし我が家の執事長より先にトーチャが着いたら私が待っているから出立を遅らせるように伝えてください」


 そう言うとカルマンさんはまた馬にまたがり王城の方へ駆けていった。


「馬車はなにか問題があるのか?」

「いえ……軍事関係はよくわかりません」

「同じく」

「私も軍人ではないので」

「なにが逆鱗に触れたんだろうな?屋敷の包囲より怒ってたけど」

「馬車を取りに行く割に時間がかかっているのと関係があるのでは?」

「なんだろうな……」


 まぁ考えてても仕方ないな。俺達は流行りの小説の話題に花を咲かせることにしたが、アランあたりが俺を見る目は躾されてない紐に繋がれた犬を見る目だった。解せぬ。


 そんな話をしていると老人が大慌てでやってきて何をお手伝いするのでしょうと聞かれた。これはカルマンさんの執事長?


「カルマンさんの?」

「はい、執事長でございます。すぐに来て手伝うようにと……何をするのでしょう?騎士団と戦うのですか?」

「いえ、我々もわかっていませんので……」

「えーと何があったのでしょうか?」


 そこで屋敷が急に包囲されたこと、馬車を取りに行ったっきりトーチャ副団長が帰ってこないこと。カルマンさんが激怒し王城へ向かったことを話した。


「本当に先触れもなく?トーチャ様とは面識はございましたか?」

「私はありません、アラン?」

「あるにはありますが……個別であって話すほどの関係では……体面的にはないといい切れます」

「まぁそれは怒るでしょうね、面識ない相手が屋敷を囲んで視察に同行しろといっている状況は……代わって謝罪いたします。実際このあとは戦だと言うのに……トーチャ様は何を考えているのか……」


 ずいぶんとくたびれてしまったな。急に呼び出されたと思ったら主人の弟のひどいやらかしで頭を下げて、何にしたらいいかわからない状況ってキツイよな


「それで……馬車を取りに行ったっきり帰ってこないというのは?」

「高官高速馬車らしいです」

「はて、それくらいでなぜ……?」

「軍事用だからトーチャ副団長のサインと書類がいるとか」

「それは軍事用の高官高速馬車ですか?」

「ええ、そうらしいです」


 真っ青になった執事長はふらつきアランに支えられた。一体何なんだよその馬車は……呪いの馬車か?


「あ、ありがとうございます。失礼しました。本当に軍事用の高官高速馬車と?いえ、副団長として向かったならそうでしょうね。ああ……」

「その……何か問題でも」

「軍事用高官高速馬車は読んで字のとおりです。高官が使う高速度の出る軍事馬車です。帝国軍では司令官や参謀の移動、後は地位は低くとも頭脳労働ができる人間が乗る馬車ですね」

「たしかに私ではそのような地位にいませんね」

「いえ、貴族軍人が子供に千手を見せる為使うこともありますからそれは何の問題もありません。問題は騎士団が使うことなのです……」

「帝国軍側の装備なので越権行為になるとかですか?」

「いいえ、騎士団は頭脳労働は大してしません……時に帝国軍と協力し一撃を喰らわせる鉾となりそれを防ぐ盾にもなります。帝都騎士団はその中で最高位。そのような馬車を使うより馬に乗ったほうがいいわけですね……つまりそんな騎士団が馬車を使う時、それは……」

「それは?」

「皇帝陛下か騎士団を戦術的か戦略的に指揮できる人物、つまり騎士団より上位の人間というわけですね」

「えっ、では却下されるのでは?」

「されなかった場合は……帝都騎士団と帝国軍最高指揮官としてカール様が差配する形になります、実情はともかくとして騎士団副団長がそこまでしたのなら皆がそう思います」

「私は戦場経験もありませんし……剣も軽く振ったことがあるだけですが……?」

「司令官自ら剣を持って戦う状況など……あるにはありますがあれは本人が強いからです。戦力を考えると勝って当然負けたら敗因という苦しい思いをします」


 いいとこねぇじゃん!勝っても負けてもダメじゃん!勝ったらいただけでしょ?なのに負けたら俺のせいなのひどくないか!俺指揮に口挟まないぞ!わかるわけないだろ!そもそもガキの指示に従うわけがない!


「…………どうしたら?」

「……馬車の使用が却下されるのを祈るか、騎士団と帝国軍が称える功績を上げる以外にないですね。つまり……次の出撃で勝つことを祈ってください」

「……はい」

「我々としてもカール伯爵の面子を潰したり罠にかけるようなことをしたいわけではありませんので精一杯支援したしますが……その……とにかく申し訳ありません……あの……軍にかかる費用は我々が出しますので……橋と道路工事も我々がなんとか……全額は不可能ですが……とにかく申し訳ありません。後援に周りますので……」


 勝手に指揮官扱いされた挙げ句どう転んでも叩かれる位置にいるとかもう終わりだよ!結局金は減らないし次期内務大臣かもしれないカルマンさんは後援してくれるけどこれが目当てなんじゃないのか!?


「まぁ、伯爵家としてはなんとかプラスに持っていかねばなりませんね……」


 なんで他人事なんだアラン!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る