視察

 資料をまとめ、支度をし、惰眠をむさぼることあっという間にドルバーニュ伯爵たちの族滅が前倒しにされ族滅と同時に地方局の人間と国土局の人間が差し押さえを始めていた。


 俺は失意のうちに運ばれていくドルバーニュ伯爵を眺めながらため息を付く。こんな馬鹿げたこと本当にうまくいくと思っていたのか?公爵死後に帝国に金脈を打ち明けて恭順すれば温情でせいぜい爵位が下がる程度だっただろうに。


 挙げ句公爵家の財産相続人はこの流出した金の相続を断り500番代に昇進したという。この裁定では金脈を差し出していれば爵位は落ちても席次は上がっただろうにな。全くどこまでバカなんだか……財産相続人は……誰だったかな?


「お疲れ様です、トーチャ帝都副騎士団長」

「ああ、カルマン内務大臣……現場主義ですか?」

「まだ国土局長ですよ、就任は先延ばしにしました」

「なにか問題でも?」

「問題はありません、今回の功労者、あなた方にとっては急遽動く理由になったので怒ってるかもしれませんが……彼が私含む内務省の危険人物を受け入れてくれましてね」

「その人は狂人ですか?」

「大分まともな方ですよ、父親と違って優秀、兄と同じくらい回転が早い」

「誰だったかな?公爵家の財産相続人だったよな?」

「カール・ジョストン伯爵。ハリスン侯爵の嫡子、先代嫡子は貴族学院オリバー先生ですよ、人前では敬語は徹底してください。緊急時とプライベートはそれでいいですけど」

「ああ、兄貴すまんな……いや申し訳ない兄上」

「そっちじゃない!いや、まぁいいです……とにかく父親とは比べ物にならないですね。異世界転生者の疑いがありますが……確証は持てません」

「兄貴が、いや兄上が確証を持てないねぇ……ハリスン侯爵って先代が学院改革を成し遂げたあの?」

「そうです、今は爵位を捨てて帝国を回って人材育成をしている」

「息子の育成は?」

「次代に期待をかけてアラン先輩を監視に置いたらしい、ダメなら息子一族ごと殺す予定だったんじゃないか?あの人なら」

「アレで文官だからたまらん、騎士団長を素手でぶっ倒すからな……お前ら、一旦個室で話すから後は任せるぞ」

「異世界転生者疑惑がかかった際には異世界から来ただけでこの肉体が得られると思うなクソが!と帝国軍の勇士を20人抜きしましたからね。あれ新帝国の皇帝と同じ枠のやつでしょう」

「顔面ぶち抜かれて2秒で負けた抜かれた俺に言うか兄貴」

「すまんな」


 いや、あの爺さんは化物だった……20年前に惨敗したが今でも勝てる気がしない。前の戦争で来てくれたら良かったのに……新帝国の国民に食わす米の輸入に行くとは……適材適所かもしれんが戦場のほうがあんたはいいだろ!個室に入ったのでだんだん砕けてきたな兄貴


「文部大臣として帰ってきてくれればいいんだがなぁ……このままではダメな息子に文部大臣の椅子を温めさせることになるぞ」

「仕事できるのか?」

「出来たら教職経験も資格もないのに教科書選定の仕事で無言の出席し続けるか?人事配置面での評価されてるが……それだけだしな」

「まぁ人を見る目がないよりは……ああ、嫁……」

「政略だしな、仕方あるまい。もう一人は自分で選んだらしいが毒殺されたしな」

「人事課に回せばいいんじゃないか?俺はくわしくないけどさ」

「人を配置するだけの役職でつとまなるならそうするが……引き抜きと異動の際に説得する能力が足りん、オリバー先生かカール伯爵をその位置につけるまでの繋ぎで大臣にしてるほうが人事命令できるだけマシだな」

「どれだけ上から評価が低いんだ現侯爵は」

「ここ5年のオリバー先生の活躍でとっとと急死しないかなって言われるくらいだな、先の謀反発覚時には廃嫡される前に先手を打って殺してしまおうか真面目に帝国首脳陣で話題になる程度だ、実行してないしいいだろう。復讐権の行使義務がなければ実行してたかもしれん、してたかも、したんじゃないかな」

「オリバー先生ってもともとどっちに行く予定だったんだ?文部?内務?」

「さてな、どちらも警戒してたし別の省庁だったのではないかな、少なくとも私は知らない」

「オリバー先生の立ち回りは天才的だな、あっちが異世界転生者なんじゃないか?」

「そう思うが確証が持てない、違うと思うが否定しきれん。カール伯爵はおそらくそうだと思うが肯定しきれんと言った感じで真逆だな」

「兄弟で転生者か、俺達みたいだな」

「私達は転生者じゃないだろうに」

「今でもそう言われてるからな」

「まぁ、それはそうだがね……異世界転生者ならもっとうまくやれたよ。カール伯爵も同じようなことを言ったんだがあの表情は昔の私と、私達と同じ感情だった。だから確証が持てないんだ」

「あの無力感はね……うまくいけると思って失敗したやつとうまくいかせなきゃで失敗した時は表情は違うからな、確証は持てないわけだ」


 会話を一旦辞め、落ち着いて話せず騒がしいので屋敷の人間を幾人も運び出し抵抗するものを切り捨て一息つくと再び兄貴のもとへ向かう。まだ本題を聞いてないからな。


「で、わざわざ来た理由は?」

「いっただろう?ジョストン伯領で我々問題児が改革すると、責任は我々にあるのだから兵力は必要だろう?」

「回りくどいから本音」

「金鉱をドルバーニュの息がかかった連中が手放すわけあるまい、既に街道封鎖命令を出した、今頃封鎖されて身体検査をしているだろうさ。もう降伏か蜂起しかないな」

「降伏するんじゃねぇの?」

「だからお前は副団長なのだ、正面突破でもなんでもすれば金塊を持って何処かでやり直せるのだぞ、やったほうが楽だろう。金鉱に関わってるようなやつ欲深いやつのほうが多いわ」

「ああ、そういうことね」


 じゃあ前の敗戦からボロボロの帝国軍と騎士団の腕鳴らしってことね、書類でよくねぇかな。


「じゃ、出発は当初通りドルバーニュ伯領差し押さえ時か?」

「それなら書類で済むだろ、全員捕らえたらもう行ってくれ、ほらアラン先輩の通行許可証。あと一応カール伯爵に視察として誘っておいてくれ。多分すぐ支度してくるだろう、ちゃんと露払いしておけよ。もし伯爵が死んだら私が貴様を殺すぞ、愚弟」

「はい、頑張ります!」


 兄貴怖え……カール伯爵上層部受けが良いのはわかったよ。ミスったら潔白証明で兄貴自ら俺を殺さないといけないレベルだって。

 さて、リスト通りの人材は捕らえたな。書類も差し押さえたし……兄貴に渡しておくか。じゃ久々の戦に出発!ほら、お前ら騎士団と帝国軍の動員可能な人間連れてくぞ、建築資材もついでに運ぶぞ。後々楽だしな!

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