皇帝・宰相・国土局長

「それで、君自らが書類を出しに来たんだ、何があったんだね」


 宰相のどこか不審な目を見るかのような態度と物言いにカルマンは身構えた。


「見ての通りです、あの害虫の領土に山路を通す計画ですよ。」

「アランが漏らしたか?」

「違うでしょうね、そんな甘い人物でしたかね?あの先輩は」


 それは正論であり、誰も反論できない事実でも合った。アランはそこまで甘い人物でもない。この40年帝国に対する貢献はケチつけるところもなく人格すらも問題がないのである。


「では自力で気がついたのか?」

「偶然かもしれませんが……きな臭いと思ったのかもしれませんね。アラン先輩がと東側の開拓の話を通してなかったことに驚いていたようなので」

「まぁアランが持ってきたら却下一択だったしな」

「それにしてもカール伯爵は驚かされましたね、話は早い、貴族的な行動はしない、金の使い所と恩の売り方をわかっていますね。ああそうだ……あの謀反人の金は不要、国庫に入れてほしい。伯領で投資するにも限界はあるから他に使えとのことです」

「アランが?」

「伯爵がですよ」


 末恐ろしいなとつぶやき宰相は深く座り直した。頭をひと掻きして書類を書き上げカルマンに渡す。


「本当に本心か聞いてくれ。一応アルミ金貨持ってくか?」

「いらないでしょうけど一応馬車にでも乗せといてください、陛下。真実なら席次を上げる必要があるかと」


 部屋の上座で腕を組む皇帝は書き物を終えて何かを考え込んでいた。


「これでよかろう、一応は500番代だ。アルミ金貨の100枚近くを国に渡すなら功績に合うだろう」

「ではもうすぐ来る大臣たちのサインを貰って持っていきますか」

「無駄にならんといいな」

「ならんでしょう、内務省の無役の人間でも構わんと言ってましたよ」

「よく信用できるな?5歳だろう?無知なのか?」

「無知でならもっとボロが出ますよ、じゃ皆様来たようなのでサインして持っていきます」

「内務大臣のサインはどうする?カルマンと書いておくかね?」

「なくても良いでしょう、大臣職も入れて書くわけではないのですし」

「式を上げたばかりでもう昇進か、帝国は明るいな」

「父親も見習ってほしいですね、先代は未だに席次100以内ですよ」

「どこにいた?余は忘れた」

「1000番代でしたね」

「ああ、まぁ……」

「番代ですからね、実際はもう2000番代に近いのでは」

「オリバー先生も反面教師にしたのかな」


 つい先日、オリバーに帝国席次515番授与をする形になった皇帝はできの悪い当代の侯爵を考え真面目に考察し始めた。


「まあいいでしょう、それでは昇進を伝えてきますよ。」


 見知った大臣たちのサインを貰いつつカルマンはハリスン公爵邸へ戻っていった。







「おかえり、それで?」

「無事昇進と相成りました、全く食いつきませんね、具体的に勝ち取れそうな金額に工事費を釣り上げを匂わせても無用で終わりです。体面状受け取る必要があるなら受け取るがそのまま渡すとまで言われましたよ」

「傑物だな、アルミ金貨の価値がわからないということは?」

「あると思います?諜報部のクレインが対応したのに?席次のことは説明してなかったようですが」


 話が一息ついたと思った皇帝が口を出す。


「まぁ、あの時点では仕方あるまい。余は明るい未来に感謝したいな、まともな貴族が増えたのだから」

「まともじゃないのは今殺してますからね、初代皇帝陛下達が夢見た実力主義と立憲民主制度、無能貴族と無能役人は自動的に処分する制度。もう少し磨かねばうまく作用できるか不安でしたが」

「6000年近いのに法も統治形態も官僚システムも欠陥を直しきれん帝国が悪い、人間が悪いのかもしれんが……挙げ句に今回の謀反騒動。5英雄は夢見がちだったのかと思いたいが……当時の記録を見るとな……」

「あれだけ貴族が地位を使い強権的に好き勝手していたら腹ただしいでしょうな……貴族制度自体を潰そうとしてたが妥協したともいえますし。妥協せざるを得ない人物がいたわけでもあります」

「さて、厳罰化はこれ以上の上はなく、より良いシステムも生まれず、密告奨励制度は過去に失敗している。正しい政治の体制はないのか?」

「あればやっていますよ陛下」

「ああ、余の治世で異世界転生者がでてきて代わりに皇帝をやってより良い方向に持っていってはくれないものか……この国が良くなるのであれば神聖帝国の人間だって構わないというのに」

「陛下、あのような宗教を利用して死地に追いやり金を巻き上げる外道共とは……」

「あれが良い方法でないのは初代宰相の記録にもある、奴らはその記録を持っていないか目先の欲にでも目がくらんだんだろう。勝手に死ぬさ……」

「新帝国皇帝も戦は上手いがあれではダメでしょうしね」

「ままならぬな……」

「あまり見たことはないですが陛下の子どもたちで誰か異世界転生者か異世界憑依者いないんですか?」

「わからん、パッと見てもいないが……」

「正直カール伯爵かと思ったんですがねぇ……確証までは持てませんでした。」

「そうか」


 3人で愚痴を飛ばし、粛清の後どう立て直すかを毎日話し続けているのでこのような日もある。異世界転生者の話は会話の鉄板である。


「じゃあ次期内務大臣はジョストン伯領の道路拡張開発橋の建設の功績を持ってか?」

「少しずらそうかと思います」

「なんでまた、空席は長くしたくないのだが……」

「ジョストン伯領改革を内務省の高官、中堅官僚を引き連れて全面的にやるのですよ。カール様の頼みでね」

「旧内務省の化物に手綱を任せる?カール伯爵は乱心したのか?5歳だから馬鹿なのか?」

「いいえ、正常でしたよ。地方局をいれるかどうかはあなたに一任しますと言った感じで……アラン先輩を監視役にするでしょうね」

「では失敗してもケツは拭いてくれるな」

「宰相候補がハリスン侯爵家を40年支えてるのも変な話だ」

「彼がいたら私は宰相補佐かどこぞの大臣ですよ」

「そしたら私は国土局長になれたかどうか」


 笑いながら一番大きな帝国の舵取り担当者3人はカール・ジョストン伯爵への評価を上げ、そしてその父親の対応を考えた。

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