これ流行ってるのか?

「まぁ……キャンディ・スー先生はわかった。外にも異世界転生系小説は流行っているのか?」

「えっ?……あぁ!なるほど……そういうことですか……」


 驚いたかと思ったらなにかに納得したようでアランは話し始めた。


「異世界転生系はジャンルの一つとして成立しております、推理モノとか。戦記物とかそのカテゴリーですね。古くは初代皇帝陛下の治世から初代宰相を元にして書かれた話、それを読んだ初代宰相がこんな物があると異世界憑依、やり直し系、悪役改心系、作中作の中に入るなんて話を作家たちに語ったのですよ。以降それらは宰相系と呼ばれていたのですが……もともと初代宰相は異世界転移だったのでややこしくなると過激派が騒いで異世界系で確立されることになりまして……」

「なるほど、娯楽小説としては一大ジャンルだと」

「娯楽?まぁそういう面もありますが教養ですよ?異世界転生者は国家の発展に欠かせないと血眼になって探されています。偽証は死刑ですが」


 え、教養枠なの?まぁ実際あったなら太平記みたいな?ああいう感じの位置?本当にあったかぐや姫みたいなスタンス?異世界転生者やっぱ他にもいるかも知れないんだなぁ……本命兄貴かなぁこれは、やり直し系か原作ある小説の悪役憑依か。後者は俺もその可能性があるんだが……少なくとも読んだことはない。ゲームだとしても知らない。BLゲーだったらやべぇ。そんな感じだな。

 偽証死刑が気になるところだが……。


「偽証ねぇ……異世界転生者が全員初代宰相並というわけではないのではないか?」

「そうかもしれませんが……わざわざ異世界転生してなんの能力もない方が疑わしいのでは?」

「ああ……それもそうだな」

「それにある程度元の世界を説明すれば大丈夫な話ですよ、嘘だと判断されたら死刑になるだけですし……初代宰相の証言も色々残ってますしね」


 だから名乗り出ないんだろ!俺はわざわざ異世界転生してなんの能力もねぇんだよ!わざわざと言うか……なんか気がついたら異世界転生してたんだから仕方ないだろ!作中作の可能性があればそりゃあ楽だろうよ!未来視みたいなもんだしな。

 でも俺はこの世界がゲームかラノベかもわからないんだよ!ジャンルも不明だよ!異世界転生者まみれかも知らないんだよ!

 みんながみんな、初代宰相と同じ世界かわからんだろ!スチームパンク世界から異世界転生してたら処刑されるだろそれは!貞操観念逆転世界から来てたらどうするんだ?

 こんな意味のわからない政治にストイックで貴族に人権がない国より俺だって貞操観念逆転世界でハーレム作りたかったわ!魔法の世界でチート使ってウハウハしたいわ!女神かなんかにすごい力もらって楽に生きたいわ!


「まぁ異世界転生者も転生してスローライフを送る人間が多いから名乗り出ないのかもしれませんな、初代宰相が言うには目立ちたくないという方も多いそうですし」

「まぁ……転生したからと言ってなにかしなければならないというのは押し付けだな」

「……確かに……面白い視点ですね……」

「ちょっと読んでみたいですね、転生して何もしないタイプの小説」


 今の俺だよ、ほとんど流されて生きてるんだよ。ようやく自主的に動いたのが他人が巻き上げた金を他人の金で返すことと橋と道作れって命令だよ。5年生きててこれだけだよ。キャスの小説から俺で面白くなるとこを抜いたら何もしない転生者の本だよ。


 だがこれで少なくとも異世界転生者を名乗ることは出来なくなったな、転生して何もしないタイプの本ないんだろ?偽証は処刑だろ?初代宰相の世界基準だろ?じゃあもう無理だよ、多分同じ世界からと思っても確証まではないよ。西暦3000年から着てたら手も打てないし同じ世界観かもわからないんだぞ?帝国暦もうすぐ6000年だぞ?時間軸繋がってるほうが疑わしいだろ。


 つまり絶対転生者とバレないように、ゲームか小説かもわからないのにそれっぽい要素が散りばめられた世界で無難に生きるか、もしくは主要キャラだったら何かよくわからないが起こり得る出来事をなんとかなんとかしなければならないわけだ。今のところ魔王はなさそうなのが救い、魔王みたいな無双系ゲームキャラみたいな新帝国皇帝がいるが……。

 何かよくわからないが起こり得る出来事をなんとかするってなんだよ……。哲学か?


「書いてみたらどうだ、そういう小説」

「そうですね……一考の余地はありま……いや私は書かないですがね」

「私は読みたいですね、キャンディ・スー先生が書いてくれれば面白そうですよこれ」

「そうですか?」


 隠す努力をしろキャス。


「そうですよ、これがヒットしたらキャンディ・スー先生の席次私より上になるんじゃないですかね?」

「そうですかね」


 と話しているとノックの音が聞こえた。多分カルマンさんだろう。馬車がスピードを出して入ってきた音もしたし。


「失礼、許可を取ってきました。伯領東の山にトンネル、一般路を複数作り舗装する計画です。5本ほど作る予定ですが費用は帝国の負担になりました」


 戻ってきたカルマンさんが衝撃的なことを言った。


「5本ですか?」

「まぁ少ないですね……まず5本です。道路課の人間で空いてる人間が予想以上にいまして一気にやります。開通後山を切り開きたいのですが可能ですか?」

「周辺領民の生活や土砂崩れ何度に配慮してただけるなら……まぁカルマンさん相手には無用の発言だとは思っていますが言わないのも領主としては無責任なので」

「もちろん、保証もしっかりとしますよ。帝国が」

「頼もしいですね」

「しなければ広場で吊るされるだけですからね」


 面白いこといえたみたいな感じだけど大分ブラックジョークだな……。


「では計画を実行しましょう、私も視察を……」

「カール様、人手が必要なので視察は後回しでお願いします。警護に回すのも惜しいので。ハリスン侯領からも人足の募集などを行い直ちに進めます。もちろんジョストン伯領でも、空いた人手を侯爵様からも借りましょう」

「帝国からも土木の専門家たちや企業を軒並み使います。1年、いいえ半年かからずで開通させます!帝都の業者はすべて招集させています。計画は直ちに実行される予定です。カール様?正式な計画発令はいかがしますか現地で行いますか?」

「いいえ、今すぐ、直ちに、遅延なく実行されます。準備ができたものから始めてください。アランは受け入れ体制を……」

「指示しました、私も直接行きますが」

「ドルバーニュ側からも作るので担当区域は半分半分でいいでしょう。浮いた企業は別の道を増やして作らせます、5本が10本でも問題ないでしょう。財布は帝国が持ちますので」

「いや頼もしい限りですカルマンさん」


 こうして俺の相続した金を大量に吐き出して嫉妬を減らす作戦の方は失敗した。統治がどうなるかかはまだわからないが……。そちらは失敗したら終わるので困るぞ……。

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