お前だよ
さてこの空き時間で南と西で何かやることはないか改めてみてみるか。と言ってもアランもこちらには特に言わなかったしな。
「南と西はなにかできることがあるだろうか?」
「ありませんねぇ……道がそのままなら拡張の必要もないので、視察で産業になりそうなものがあるなら投資するくらいだと思います」
「では現状は良いか」
結局、問題は北と東だったわけだな。南と西は視察までは基本ノータッチと。
「そういえば金鉱のことは知っていたのか?」
「いえ、全く。ただきな臭いのでなにか近々起こるんだろうなとは思いましたが……金鉱持ちで族滅されるなぞ読めるなら利用してますよ?」
「そうか、アランでも読めないことがあるんだな」
「読めませんよ、流石に。宰相じゃないんですから」
宰相どんだけ能力あるんだよ。流石に事実上の実力主義国家だな……。
「宰相とは親しいのか?」
「彼が暇な時は飲みに行く程度です。同期ですし」
「宰相とか!?」
「肩書が変わって前までの友人を疎かにする人とは付き合わないほうがいいですよ?」
「肝に銘じておこう」
言葉通りならいいのだが……単にアランも優秀なだけじゃないか?あとは原作開始まで死なない保護システムのやつで始まるまでは関係が良いままみたいな?
「普段はどんな話をするんだ?」
「…………本とかですね」
「異世界で悪役無能貴族の無能次男に憑依した俺は父と兄貴に殺されないように立ち回る~義母が俺を殺させようとしてるから生き残ります~か?」
「ええ……そうですが……なぜそれを……?タイトルよく覚えられましたね」
「キャスが許可を取りに行ってる間に貸してくれてな」
「えっ、ええ……そうですかー……」
お前のその反応知ってたな?この本がハリスン侯爵家の出来事だって知ってたな?おい、おい!
俺に見つめられて気まずそうにしているアランはいきなりドアを開けた。逃げる気か?
「……どうも、只今戻りました」
「おかえりなさい侍女長、大事な話ではないのでお入りください」
「おかえり……キャス」
君たちさぁ……ほんとに……本当に……ねぇ?
「キャス、この本は楽しめたよ、続編はいつ出るんだい?」
「さ、さぁ……キャンディ・スー先生次第では……?」
「なんか何処かで見たことがあるんだよなぁ、この設定?キャスわかるか?」
「さぁ……存じません」
「アラン?わかるか?」
「私程度では思いつきません、どこか……心当たりでも」
「あるなぁ……クソ悪妻女メアリーに特に似てい人物がいたなぁなぁ……」
「元侯爵夫人は同じ名前でしたがそんな甘い人物ではありませんでしたよ」
「はい、小説ではどれだけマイルドになってるかわかりませんね」
えぇ……?毒殺や暗殺未遂やら敵対貴族をハメたり使用人にギリギリのラインで無茶振りをしたりしてるがマイルドォ?
「これがか?」
「「はい」」
「実物はどれくらいひどかったのだ?」
「それは悪妻糞女メアリー烈伝……」
「アランさん!」
「と言う本が近いと言われています、元にしたとかいう噂もあります」
いや、誤魔化せんだろ。確か3巻出す予定だったんだろ?この厚さでか?15年……いやあとがき的に最低でも14年、物語としては駆け足なほうか?まぁ結婚編だけってわけでもないか。
「で、それはいつから始まったのだ?結婚からか?2冊で済むんだな」
「結婚からですね、1巻が上中下で2巻も上中下です。1冊の厚さはその本の2倍位で……」
「待て、そんな書くことがあるのか?」
「いや、それでも出版コードに引っかかって載せられない話が多くて……多かったらしいです」
キャスのほうがもう馬脚表してるじゃないか。貴族に人権なさすぎるだろ!小遣いを‥…小遣いレベルじゃないか、お前俺より席次上でベストセラー作家だもんな……ウチの痴態が帝国の利益になってるんだな。そう思わないとやってられない。
「このアラアンくんも誰かにそっくりだと思わないかアラン?」
そうアランに聞いた時のキャスは強張っているように見えた。が聞かれたアランはというと。
「え、誰ですかね?宰相?」
「ん?」
「小説とはいえこんな優秀な人物はそういませんよ?」
「私はアランそっくりだと思ったが?」
「へ?」
アランはぽかんとした表情をした後ひとしきり笑って答えた。
「いや、こんな優秀な人物が官僚にならずにこんな無能当主のもとで働くわけないじゃないですか!これだけ優秀な人物が本当にいるなら先代の頃に辞めてますよ」
そう言うとキャスはちょっとだけポカンとしていたがいつもどおりの表情と態度に戻すと優しい声で会話に入ってきた。
「よろしいことではないですか、カール様はアラアンをアランさんと同じだと思ったのですから。胸を張ってアラアンより役に立てますと返すのが正解ですよ」
「ああ、確かに……ここは喜ぶところでしたね。カール様、褒めていただいたのにこのような反応申し訳ありません。アラアンの如く働かせていきます」
いや、アラアンお前だよ。お前自己肯定感低いのか?そういうタイプじゃなさそうだったけど。まぁいいよ、アラアンのごとく働かせてるしさ。
「アラアンより優秀だと思っているよ、アラン」
「嬉しいですねぇ……より一層仕事に励みたくなりましたよ」
「頼むよ、キャス?」
「……何か?」
「なんであの本を私に?面白かったが」
「『没落した領地を俺が立て直す』のつもりでしたが最新刊だったので逆に持ってきてしまいました」
「……そうか、1巻から読みたいな」
「今度持っていきます」
まぁ有耶無耶にされてやるよ、実際面白かったしな。俺が自分がモデルであんなに死にかけてたと思うと浮気の証拠を見つけていく旦那みたいな背筋凍る感じがするけどさ。あと親父マジでこれなの?描写から無能感溢れ出てるこれ?
「キャンディ・スー先生は私も好きなんですよ、全冊買ってます」
「ほう、アランは大ファンか。キャスは?」
「まぁ好きですよ、色々他の先生も読みますけど」
「ちなみにキャスのおすすめは?」
「『家宰のおっさんが異世界転生者!?無能領主の俺が没落の瀬戸際で耐える2巻~え、全権委任!?~』ですね」
「あれはいいですね!まるで自分のことのようで泣きたくなりました」
「そうですか!いやーあれは力作で、力作らしいですよ」
自分のことだぞアラン、あとキャスがキャンディ・スー先生だってわかってないのかお前は。作中の鋭さ発揮してくれ。
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