貴族教育

 相も変わらず新聞を読んで金を返す日々である。なんだか借金で苦しんでる人みたいだな。実情は遺産が転がり込んでる放蕩息子みたいなもんなんだが……。


 そういえば兄貴から手紙の返信が来た。軽い挨拶と手紙では兄と呼ぶことは構わないとのことだった。ただ家督に関しては断固拒否で自分で身を立てるので不要とのことだ。まぁ実際、アランの推測する席次を考えたら俺より偉いんだろうしな……書いた時はそこまでわかってなかったけど。


 うーん……一度くらい会っておきたいんだけれど貴族学院教師として来年からの準備が忙しいからちょっと待ってほしいと言われてしまった。アランに聞いてみたが本当に忙しいので避けてるわけではないだろうと言われた、断る時はきっぱり言うから大丈夫だと。

 よく考えると兄貴に何かを断られたこともないもんな、無駄に前世からの記憶があって子供っぽくない俺を気遣って遊びに誘ってくれたり、お菓子をくれたり、そういえば何冊か本を買ってくれたな……この世界って本高いんじゃない?羊皮紙じゃなくて紙だけどどうなんだろう。




「カール様、明日から貴族教育が始まります」

「ずいぶん急だな……」

「家によって多少違いはありますが……本来なら侯爵家では始まっててもおかしくはなかったんですが……正直それどころではなかったので」

「確かに……」


 兄貴は家を抜けるし、義母は処刑されるし、俺は莫大な遺産を2つ相続するし、そこそこ偉くなるし、領地統治は行き詰まりからの始まりだしで波乱万丈だな。なんか魔法とか使えてドラゴン狩ったとかなら神童だ、天才だって感じだけども……ぶっちゃけ棚ぼただしな。


「まぁ勝手に育つ人もいますが貴族教育に関してはそうはいかないものでして」

「具体的には何をするのだ?」

「調子に乗らない教育です、これをやってるのに必ず忘れて、大きくしでかす家がいくつもあるんですよ」

「そっちか……てっきり、貴族的な言葉遣いとかそのへんかと思った」

「初代皇帝陛下が煩わしいと……報告は簡潔丁寧に儀式は大体省けば良い、敬う態度を取ればタメ口だって構わんだろうと、他国との交渉は国益が絡むのでまた別ですが」

「それは……まぁいいのか。貴族も平民も同じところで働いてるのに仕事より先に貴族への対応覚えなきゃならんのは本末転倒だな」


 よく考えたら5英雄の一人は農民だしな。多分調子に乗った貴族がいて他の4人の逆鱗に触れたんだろうな。軽く見た貴族を処刑したとか書いてあったし……。貴族の権威自体に冷ややかだもんなこの国……流石に他国には配慮してるのか。


「それがわかっているのなら多分そこまで長くはやらないでしょうね、いや安心です」

「まぁ……先ほど言ったような外交職に付く場合は違うんだろうけども、多分今のところつかんだろうしな」

「なっても帝国が大陸統一した時の認識があるのでせいぜい臣民に見せる儀式のときだけ取り繕えば後は何も言いませんよ、その時だけ気をつければ。他国の優秀な外交官僚に貴族的な礼儀がないから交渉拒否するなんて我々の交渉担当はそちらより無能だからもっと弱い相手に変えてほしいと言うにほかなりませんからね」

「ああ、そう……たしかにな……」


 それは楽でいいよ、うん……長々礼法を学ぶよりは敬ってる態度がわかれば良しとか結構助かる、さすがに前世のアドバンテージがなさすぎる。

 多分初代皇帝もこの手の外交で反吐が出るほど苦労したんだろうな……交渉相手への認識が悪意に満ちてる感じがする。


「それでは大まか終わってしまいましたが、貴族教育を続けましょうか」

「明日からでは?」

「根本的なことを理解していたのでやることがほとんどなくなりまして……」

「呼んだ教師に悪いのではないか?」

「問題ありません、私が教える予定だったので」


 これ教育担当許可証ですと差し出したアランの免許のようなものには帝国教員、公爵子息までの貴族教育が可能、州都学校校長相当と書いてあった。君、多才すぎんか?必須なのか?


「これは……どれくらいの地位なのだ?」

「貴族学院長と帝都専門学校長のひとつ下のランクです。副学院長と専門学校副校長にはなれる感じですかね?書類上だけなら」

「アランほどの人物がいるのはハリスン侯爵家にとって幸いだな」

「うれしいですね、先代にも言われたことがあります」


 それ、親父は言ってないってことだよね……先代から言われたのが嬉しいからそっちをだしただけだよね?全権委任するくらいだし信用も信頼もしてるとは思うけど。気にし過ぎかな……。


「ちなみに家宰として必須なのかこの資格?」

「いえ、専門学校時代にやることがなくて取った資格です、家宰になる前も侯爵領で代官やりながら校長兼一般教師もやってましたしね」

「そんなあっさり取れるものか?それに代官合わせてか?多忙すぎないか?」

「貴族学院教師や専門学校は専門分野特化で取るほうが多いので州都校長相当なら平均的にできれば取れますよ?代官時代は教師もある程度数はいましたし……やることは今と同じで貴族教育平民版ですから」


 学問に力入れてるとか言ってた国でそんなにあっさりと取れるもんなわけないと思うんだけど……。それにアランの言う通りなら貴族学院の教師になった兄貴が相当優秀なのは確かだな。


「ちなみに……どのような内容を?」

「貴族の無体を許すな、貴族が堅実に誠実に働いているなら敬意を持て。帝国の利益を第一に。大体はこんな感じです」

「……肝に銘じよう」

「今のままならお気にすることはないかと」


 やっぱそういう世界だわ、俺は偉くないからの精神で生きていこう。真面目に堅実に領民の声に耳を傾けて頑張ります。ちょっと領地が違う意味で詰んでるけど。


「それにしても……この手のことは本を使うかと思った、やはり高いのか?」

「いいえ、銅貨5,6枚で買えます、ちょっとした本でも大銅貨1枚と銅貨数枚ですね。さすがに専門的なものは高いですが、これくらいは頭に入っているので口頭でなんとかなりますし」


 前世で言うと600円以内で買えて大判本が1000円ちょっとくらいか、本はそこまで高くないわけだ、活版印刷か?初代宰相が製紙といっしょに導入してそうだな……でもそんなに安くなるもんかな?


「では、大まか終わったしまいましたが大事なことを教えましょう、建国時から伝わるものです」

「頼む」

「助け合うこと、身分を誇らぬこと、帝国全てのために働くこと、帝国の利益を考えよ、国家安康君臣豊楽」


 だめになりそうな時にどれが一番大事かわからないタイプのやつだな、国家安康君臣豊楽とかめっちゃ縁起悪いけど……まぁ家康もいないしケチのつけようもないか、これ伝えたの初代宰相だろ!建国時から伝わるって話だから最初の3つは初代皇帝たちなんだろうな


「帝国の利益とは……すなわち帝国に住まうもの全ての利益、それが出来たものに席次が与えられるということでいいのか?外交の説明の時を考えると国益とは多分違うものなのだろう」

「結構!そこまで考えつくなら貴族教育は終了です。説明する手間が省けてしまいました。それにしても……2人ともこの教育は手がかかりませんでしたねぇ……」


 それでいいのか……最初の3つが割と普通のことだったり建国初期の苦労が忍ばれるな……特に身分を誇らぬことの部分が。

 つまり帝国席次は帝国に住まうものへの貢献度なんだな、だから教師は高い。青い薔薇の品種改良は国民自体も喜んでるというわけだ、錆鉄御納戸色のバラ作っても何だその色は!?となっても多分席次は貰えないだろう。ベストセラー作家は国民栄誉賞的な立ち位置なんだろう、その本で多くの人を楽しませたみたいな。国益の概念は国家の利益のみなんだろう。


「ちなみに明日はどうなるんだ?」

「予定はなくなりましたね、カール様の感じでそこまでかからないとは考えてましたけどそれでも1ヶ月かかるかなとは思ってましたよ」

「……ちなみに兄上は」

「…………1週間くらいでしたね」


 兄上も大概早いな、思想ガンギマリだから脳が理解を拒んだのか?俺の読みでは兄貴も異世界転生者説あるんだが……俺の教育予定が1ヶ月というあたり兄貴の1週間が早いのは間違いないしな。

 後、俺が兄上って言った再訂正しようとしたけど自分から話題出したから見逃してくれたな。そういう気遣いができるのができる家宰なんだろうな。

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