すれ違い

 屋敷へ帰ると迎えに出ていた使用人たちが一斉に拍手をしてきた。先程までの空気とは大違いだ、もちろん皆には知る由もないだろうが……。

 襲爵の時もこんな空気だったらよかったんだけどな。


「席次の授与おめでとうございます」


 アランがその言葉を発したあとは口々におめでとございますの合唱だった。俺は先程のこともあるので感謝の意を伝えつつ、アランを部屋に呼び出した


「改めましておめでとうございます、今年は飛躍の年になりそうですね」

「そうだろうか……」

「学院入学前の貴族に席次が与えられることはそうありませんから」

「ないわけではないのだな?」

「流石に5歳はなかったかと思いますが……古い記録にはあるかもしれません」


 ないわけではないが少なくともアランの記憶にはないくらいか、悪目立ちするんだろうな。幸いなことに金を返しただけだ、まぁ人間性を評価されたと思っておけばいい。今のところは戦争ゲーの可能性が高くなった、もしくは戦記物だな。


「そうだ、ゲール子爵に会った」

「ゲール……ですか?聞いたことはありませんね……お名前は?」

「ゲールが名前だ、家名は捨てたらしい。元はシュコン子爵家の……」

「ああ!不死身のゲール!」


 やはり有名なのか……。まぁそうだろうなぁ……先の謀反の際にも活躍したらしいし。


「新皇帝と打ち合って傷を負わせたのですよ、かすり傷程度だったと本人はいってますが……南部方面軍司令部が全滅しなかったのは彼の奮戦が大きいのですよ!いやぁ立派な方と知己を得ましたねー!」

「打ち合って傷を……たしか先の謀反の時討ち取られたラーケッツという人物は」

「鉄壁ラーケッツですか、確かに打ち合ってましたね。彼は結局切り合いでは負けたのですが防戦に成功したのでその名がついたのですよ、まぁ今回の騒ぎでその名は潰えましたが」

「それほどか……」

「それほどですよ?」


 やっぱゲールさんってすごいんですね……全力で尻尾降らさせてくださいませんか?本当に戦争になったらお願いします!ゲールさんを持って異世界転生したバケモン扱いしてる新皇帝と戦うのも、その皇帝に傷を負わせたゲールさんと戦うのも正直キツイです!


「でもあの不死身のゲールとですか……怖かったでしょう?すぐ激昂するので憤怒のゲールとか鬼のゲールとか言われてましたよ。小馬鹿にしてきた貴族をその場で斬り殺したりなかなか難しい人物です」

「は?あのゲールさんが?」

「え?ゲールさん?」


 全くそんなふうには見えなかったぞ?威圧感はすごかったが。アランがすごい目で見てくる……なんか勝手に嫌な評価されてる気がするな……。


「そんな気やすい感じなのですか……?」

「ああ、フランクな方だったぞ、私のことはカール君と」

「えぇ!?」

「そんなにか?」

「貴様しか言わないタイプだと思ってました、子供には優しいんですかね……?」


 いや、わからん。普段のゲールさんのことは知らないんだから……。


「家名を捨てたことはなにかわかるか?」

「いえ、初耳です」

「前の謀反鎮圧での活躍は?」

「それは聞いてますね、そういえば手紙でですがシュコン子爵としてお金を返還いたしましたよ」

「ああ、そうだったらしいな」

「今後は覚えていてください」

「……わかった。彼が家族を切ったことは」

「流石だと思いますね、使えない貴族が減ることは帝国の利益に繋がりますから」


 思想が見えて怖いな……もしかしてもう少し成長した時に使えないと思われたら死ぬ?でも流石ときたか


「評判はよろしくないのか?」

「統治は評価にするところはないですね、酷評するところもないですが。嫡男は従軍経験はなし、まぁあのゲール指揮官以外は無能貴族一家ですね」


 プラマイゼロでも無能枠なんだな……指揮官?


「指揮官だったのか?」

「南部方面軍臨時総司令部の指揮官でしたよ?将軍位は流石に臨時でできないので総司令部中央を指揮してたんですよ、そこで防戦して指揮官先頭で戦ってましたよ、新帝国軍の幹部たちと切り合ってましたね」

「そうか……」


 やっぱ俺主人公じゃないかもしれん。


「そういえば兄を切ったときのことを話していた」

「ほぅ」

「後悔しているようだった、あの戦いで兵を増やすことなどアドバイスされたそうだが……戻ってきた際に命乞いを無視して斬り殺したそうだ」

「そうですか……」

「自分のようになってほしくないと」

「……カール様、お気に病まないよう」

「ああ」


 それは無理ってもんだと思うよ、もし兄貴が俺に詰めたかっtら、わかりにくい優しさを向けていたら……俺も殺してたかもしれないんだからさ。


「なぁ、ラーケッツの遺族はどうなったんだ?」

「助命されましたよ、戦ったゲール指揮官が戦場での恩があったから彼らの家族にだけはと援軍に申し出たそうです、流石にこの場合は妻子は無関係ですし許されましたね」


 ああ、やっぱりゲールさんが助命したんだな……。貴族に仕えるものだと一定の助命範囲はあるんだな。


「前向きに考えましょう、頼りになり友人ができた……友人ですか?」

「友人だと、思いたいね」

「では友人として接してあげてください、ゲール指揮官もその方がいいでしょう」


「あと、前の、新帝国との戦いの後でゲールさんは席次は上がらなかったのか?」

「辞退したんですよ、兄の名代だから兄にでもやってほしいと」

「…………そうか」

「当時は言わされたのだろうと思ってましたが、本心だったのかもしれませんね」


 悲しいものだな。

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