帰路にて

「お疲れさまでした、これにて式は終了です。必要でしたら夕飯も先程の場所でどうぞ」


 席次を与えられたあとでも下手に出るのか……?うーん……?

 まぁ、それならとにかくこっちも下手に出続ければいいんだろう、わからない限りはその方がいいだろう。

 ゲールさん、どうしますか?


「どうせですし、夕飯も取っていきませんか?」

「ええ、そうですね……ゲールさん……すごいご活躍だったのですね……」

「領兵と平民の方々の協力あってですよ」

「そうでしょうか……そうだとは思いますが……ゲールさんの能力もあってかと」


 危ねぇ!平民の協力なんてたいしたことないみたいな取り方されると危なかったぞ!平民万歳!平民万歳!の精神でいこう。じゃあ……肉を頼んでおくか。


「どうでしょうね……」

「差し支えなければどのような戦いだったか……」

「語るほどではないですよ……ただ我々が練度で勝って、相手に君たちは謀反を起こした側であることを伝え、それを繰り返して終わっただけです。最後は勝ちませんでしたしね」

「しかしその前は8500人相手に840人で勝ったのでしょう?10倍ですよ?」

「ああ、それは謀反側であることを4家の領都や周辺村落に伝えて動揺を誘い、このまま謀反側に加担したら責任は取るしかないと脅したのですよ。褒められたものではありません。後は蜂起のタイミングを5日ほどずらして蜂起させ敵部隊を分散させただけです。10倍差ですし、それ以前は正面突破戦術も多用していたので……油断してくれたのでしょう。それに補給が途絶えると厳しいですしね」

「実際、コンスト侯爵を討ち取ったときにはどれくらいの差になっていたのですか?」

「さて……最低でも5倍差はつけておきたがっていたので5倍はあったかもしれませんね」

「それはどうやって討伐を?」

「正面突撃ですよ」


 新皇帝と同じ戦略ですけど……?無双系かな?過去の経験?これより強いのか新皇帝軍……倒せばグランドエンドか?


「……ああ、違いますよ。正面突撃したのは別の部隊です」


 届いたステーキを切りながらゲールさんは笑顔で答えた。


「そこに突破をされたくない敵兵力が集中したので、我々主力100人が右翼から迂回突撃をしたのですよ、それでおしまいですね」


 鉄床戦術ってやつか?二つの部隊に分けて、一方が敵を引き付けてもう一方が背面、側面に回りこんで本隊を包囲、分散、挟撃するあれ?でもそんな単語あるかな?ここ異世界だけどだいたい概念自体はあるよ?異世界宰相のせいかもしれないけど。やんわりと聞いてみる。


「鉄床ですか、なるほどいい表現ですね……軍才もお持ちで?」

「多分ありませんね」


 ないよ!あるわけないよ!かろうじて知ってる知識もノルマンディーみたいな有名なやつだし……。この世界でカンネーの包囲殲滅とか無理だろうしな、ゲールさんや新皇帝みたいなのが正面突破で終わりだろ。


「少なくともこの年齢で席次をいただけるのですから才はありますよ」

「そうでしょうか……?」

「断絶されるシュコン子爵に金貨を返還したでしょう?」

「……直接会って返したわけではないのであまり覚えてはいませんね、申し訳ありません」

「それができるからですよ、どのように金を返すにしろ……優先的に返していただいた……あの時は便宜上シュコン子爵を名乗らなければなりませんでしたからね……どれほど助かったか……」

「そうでしたか……」

「だからカール君には感謝していますよ……本当は様をつけたいくらいに」

「恐れ多いです、呼び捨てでもいいくらいですよ」

「できませんね……」


 そうだったのか……返していたんだな……優先的に返していてよかった。クレインさんが言ってたこと守ってよかった……こんな知能の高い呂布みたいな人と仲良く慣れるなんて……。じゃあ新皇帝はなんなんだよ。


「4800人と23000人での防戦被害の補填ですか?」」

「それもありますが……そちらは報奨でなんとかなりますからね」

「ちなみにそちらはどうやって?」

「同じ方法で撹乱しましたが兵力差が大きいので最低限を鎮圧に向けたので差はあまり開きませんでしたね……ひたすら後方地域の撹乱と防戦です」

「その状況で一騎打ちはどうやって持っていったんですか?」

「指揮官級の狙い撃ち攻撃ですよ、正面突破に見せかけて小隊長や中隊長を討ち取ってじわじわ統率力を削っていったのですよ」

「それは……なかなか根気がいりますね」


 すごい地味な戦法だけど効果的だな……。新帝国みたいに全員士官教育うけてすぐ後任が引き継ぐわけでもないなら派遣されるか昇進するにしろラグも生まれるだろう。


「討ち取った隙をついたのですか?」

「いいえ、倍率の差が縮んでいたとしても兵の数は違いますからね、とにかく時間稼ぎ一択でしたよ、それでしびれを切らしてでてきたラーケッツと一騎打ち、戦友でしたよ」

「そうだったのですか!?」

「ええ、公爵に家族を支援していただいてたと前の戦中はいってましたね……恩を取ったのでしょう、追加の制裁はされていないので情状酌量されたのは良かったですね」

「…………もしかして情状酌量に……」

「さて、どうでしょうね」


 これは情状酌量を願ったんだな……。爵位を捨てたことかそれとも爵位を新たに得ることになったことか、どちらだろうな……。

 食事を終え、帰宅する馬車に乗ると


「私はね、兄を殺したんですよ」


 とポツリとゲールさんはつぶやいた。


「私を殺そうとしたことが許せなかったのもあります、両親を殺し、命乞いをした兄を殺した後思い出したのですよ……」


「兵を多めに連れて行け、予算を多めに持っていけ」


「ぶっきらぼうで気にしなかったんですが、手遅れになって思い出したんですよ、まぁ……気遣ってくれたんでしょうね……この後の計画を知ってか、知らずか、察してか、実際兄は私にそこまで冷たくはなかったんですよ……私が勝つとすら思っていたのかもしれませんね」


 俺は何もいえなかった……。優しかったから兄を助けてくれと言った俺にはこれを遮ることは出来なかった。


「戦場で討ち取った戦友、しかも本気で殺し合いをした相手には事情があったのだと言ったのに……その口で無慈悲に家族を殺してしまった、もし……逆らっていつものように行っていたら……何処かで死んでいたでしょうね、薄情な男です。家族から処分されかけるわけです」


 ねぇカール君、いつか同じことが起きた時私のようになってはいけませんよ


 馬車を降りる時にかけられた言葉に、兄はいつも優しかったんですよと答えるしかなかった。

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