ゲール子爵

アランとの会話がだらだらと続く中、使者が到着した連絡が入った。玄関まで向かうと使者から軽い口上を受け、恭しく馬車まで案内された。

その馬車に乗ると大柄な武人風の男がこちらをギロリと睨みつけてきた。怖い……。


「失礼、ゲールと申します、子爵位をこの度襲爵しました。家名は剥奪されましたのでゲール子爵でもゲールでもお好きなようにお呼びください」

「こちらこそ挨拶が遅れて申し訳ありません、ハロルド・ハリスン侯爵子息のカール・ハリスンと申します。先の襲爵式でジョストン伯爵を襲爵しました。カールとお呼びください」

「よろしいので?」

「はい」


言えるか!伯爵と呼んでくださいね♡なんてこんな怖い人に言えるか!爵位を盾にしてるクソガキとか未来がないぞ!家名剥奪後の襲爵とか舐めたらやばいタイプだぞ!しかも帝国席次を授与されるために宮城に行くんだぞ、ここで下手に伯爵と呼ばせて俺より上の席次貰ったらどうするんだ?


「では私もゲールで結構です、カール様」

「様などと……私程度のものがゲール様につけてもらうようなことは何も……」

「では……カール君でどうでしょう?そのかわり私も様付けは辞めていただけたら幸いです」

「わかりました、ゲールさん。実はこの手のことは初めてでして……どうしたらいいのでしょうか?」

「申し訳ありませんが私も初めてでして……」

「ではおそろいですね」


意外とフランクな方だったな。それにしてもどちらも初心者か……いや宮城呼び出し慣れしてる人もそこまでいないか。


「ちなみに今回のこと……どのような功績を?私は覚えがないので兄の助命かと思ってるくらいでして……」

「兄の助命……ですか?」

「ええ、今回のことに無関係だったことと公爵の謀反計画調査もしていて優秀だったそうで……」

「おそらく違うかと……将来の逸材であっても今の逸材でもないなら助命程度では呼び出されて帝国席次は与えられませんから……」

「そうなのですか?」

「ええ、貰えたとして最底辺に近い席次でしょうし……」

「そうなのですか……」


違うのか?他になんかあったかな……金返還したことで?いや帝国への貢献に当たるんだろうか?


「ゲールさんは?」

「私は先の謀反事件で……」


「ご到着です、控えの間までご案内いたします」

到着したようだ。聞きたかったんだけどなぁ……



「しばし、ご歓談ください」

「「ありがとうございます」」

なんというか……豪華な部屋だな……高そうな食事も頼めるみたいだし……


「どれくらいかかるものなのでしょう?」

「料理を数品頼んで食べられるくらいはかかるみたいですね、1時間くらいですかね」

「では、適当に頼みましょうか……私は魚を、ゲールさんは?」

「私は肉料理を」


そして料理ができるまではやはりすることもなく、2人で歓談することになるんだよなぁ……


「話が途中でしたが、先の謀反で活躍したとか?」

「ええ、謀反に関係する4家を討伐したのですよ、それでしょう」

「討伐ですか、4家も?帝国軍に?」

「いいえ、領軍でした……4家ですね、もう1家は一進一退で私の力では……結局援軍を主力として残り1家を討伐して引き継いで戻ってきんです。そしたら両親も謀反に関わってましてね……私を殺すために出陣させてたのですよ」

「それは……」

「兄のほうがあまり……私は領軍で多少程度の活躍はしていたので……まぁ最底辺よりマシ程度の席次は頂いていまして……」

「ご活躍だったのですね……ですが……ゲールさん……なんというべきか……その……御兄様の方は……」

「私が切り捨てました、両親ともども。そのあと引き継いでいた王国軍の援軍に出頭し家を差し押さえる書類にサインして今に至ります。なので家名はありません、継承は仕方がないと思いましたが……家名は捨てさせてほしいと帝国に求めました」

「それが……通ったのですね」

「ええ、この爵位は死後返上するようにしました。権威なぞありませんからね……領兵をやっていた時につくづく思い知りましたよ……その前の新帝国との戦いでも……」

「新帝国と戦ったのですか!?」

「負けましたがね……あの皇帝、当時は皇太子ですらなかった第3?4?皇子、新帝国の最前線が平民蜂起によって壊滅した後、唐突に皇太子になって皇帝代理として帝国軍を崩壊させたあの悪魔……」

「そんなに恐ろしいのですか?」

「槍の一振りで3人を鎧ごと切り捨て、まるで熱したバターナイフでバターを切るかのごとく帝国軍総司令部にまっすぐ突き進み撃破、救援に向かった南部方面軍はひとあてで敗退、その間に北部方面軍が撃破。敗残兵をまとめたら総司令部の基幹メンバーは誰も生きてはおらず……北部方面司令部も同じ状況でした、中央軍は総司令部の直属なので再編も指揮官をどうするかでも揉めてしまい……あっという間に終わりましたね」

「指揮官はどうして決まらなかったのですか?」

「誰もやりたがらなかったからですよ、指揮官になればその後の決戦で絶対に死ぬことは確実でしょうしね……」

「……結局どのように?」

「南部方面軍が総司令部となり…‥中央軍とともに撃破されましたが……総司令部攻撃された時点で独自判断で戦うようにに命令されていたので……多少は……南部方面軍司令部も多少は生き残りましたし……」

「新帝国の皇帝はそんなに強いのですね……」

「異世界転生者かもしれませんね……そうであってくれないと惨めすぎて困りますよ」


乾いた笑いのゲールさんをよそに俺は、やっぱり新帝国皇帝って転生者なんじゃないかと不安な気持ちでいっぱいになった。やっぱ帝国でも異世界転生者疑われる強さなんだな……いや!異世界転生者に求めるハードル高すぎねぇか!?俺絶対無理だぞ!これ異世界転生者だってバレたらまずいんじゃない……?何ができるかなってなるんだろ?もうやだよ……

会話中に届いた食事を食べた後も話は続いた。

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