大敗北で立て直せてない帝国

「それで、結局公爵派の計画は何処まで進んでいたんだ?」

「さほど、主要な人物と計画に向けて手を伸ばしていたところですね、新聞が正しいのならですが」

「何も進んでいなかった?」


 それにしては粛清された貴族が多かったような、ああ……帝国からしたら史跡の石碑程度かもしれんのか。

 断絶でもただの族滅でもどうでもいいのだな。

 実質叙爵された人間以外無価値で、官職にない貴族は領地で損失さえ出さなければいい感じのようだし。


「正確には計画を進めるべき領主貴族と官僚貴族の参加を確定させたところですね。そこから派閥から貴族学院から専門学科の上位層を独占して、官僚として送り込み、5年後の平民への貴族学院入学に際し当代の貴族の私生児に混ぜ込んで、反公爵派の貴族の血縁者も公爵が支援した平民として入れ込み同じように官僚にする予定でしたからね。後はその時期に向けて破損を理由に武器を買い込み隠し持ちながら凌ぐ予定だったようですからね」

「5年程度でなんとかなったのか?」


 だいぶ甘い計画のような気がするんだが……。

 あと迂遠な気も……。


「いいえ、それは省庁に送り始めて戸籍課に人を置くまでですね。実際事が起こるのは10年後を予定していたようです」

「私が卒業した頃だな」

「そうですねぇ……」


 卒業パーティーで婚約破棄してその後反乱が起きるタイプのやつっぽい。

 第2部で戦争編が始まるやつだ……うち文部系だし……入りたての文部官僚でなんとかなるのかな……。

 やらなそうだな。

 兄貴が俺を討って侯爵家と伯爵家を掌握して戦争で活躍する可能性もあるぞ。


「領地貴族は順軍するんだよな?」

「どちらでも」

「いいのか?」

「従軍する場合は軍事系未履修の時は変に口さえ出さなければ良いかと」


 お飾りでいいのね、それ従軍しないやつ多そうだな。


「あまり領地貴族は従軍しないのか?新帝国との戦いで有力貴族家が消えたような言い方だったが……」

「いいえ、領地貴族は大体従軍をしますよ」

「では私の年齢が原因か?領地貴族の従軍理由は?」

「年齢もそうですが……5歳だからというよりは学院卒業前にそこまでしなくてもいいのは確かですね。領地貴族の従軍理由は席次が上がるからです」

「席次か……深く聞いてなかったがどのようなものなのだ?なぜあがるのだ?官職持ち以外も貰えるのか?」


 官職になれば席次が貰えると思ってたが違うのか?従軍で貰えるのなら言ったほうが良いと思うが……


「席次は帝国が定めた帝国内の序列ですね。皇家以外の人間に与えられます。襲爵貴族には与えられません」

「本当に爵位は価値がないのだな……統治は任されている割には」

「領地経営で大きな利益を出したり、何かを改善したりすればもちろん与えられますよ?流民を受け入れ治安を維持して利益を上げるとかでも良いですが。まぁ官職についた方がいい席次をもらえますが」

「……今はなんともだな」

「まだ委任状すらサインしてませんしね」


 あくまで統治の代行のような形だしな、挿げ替えの聞く代官程度の地位なんだな……。

 クレインさんとか絶対偉いね、これは。

 逆に貴族として平民の貴族排斥を阻止するタイプの話か?いや、現状は排斥というよりはいてもいなくてもいい置物だな。

 本当に何がここまで徹底的に初代皇帝が厳しくすることにしたんだろうなぁ。


「まぁ別に功績が全てではありませんよ、家宰を任せて順当に統治を行えば見る目があるな程度には評価されるので適当な席次は貰えるかと」

「じゃあアラン次第だな、で従軍で席次が上がる仕組みは?」

「戦闘未経験の帝国兵が最底辺の席次です、初陣で1つあがります、殺した数でも、指揮官を討つでもいくつかあがります。ある程度席次を上げたら士官教育をして合格すれば士官になります、士官にならなくても功績で席次は上がりますが、士官教育不合格の最高位は上級曹長ですのである程度の年齢で退任しますね」


 すごいガバガバだな……席次が渋滞起こすところがあるんじゃないか?


「なので従軍すれば最低でも初陣した兵士と同じ席次の認定をされます、といっても軍隊の所属ではないので……領軍で司令官いっても旗頭であって指揮してるわけでもないですし……」

「だが従軍しない領地貴族よりは上、と」

「それでも兵士よりは軽く見られますけどね。ブラウン男爵は最前線で戦って自ら新帝国の中隊長を打ち取る功績があったので席次が高いですね、佐官レベルですよ」

「中隊長?向こうだとどれくらいの地位なのだ?」

「こちらと同じですよ、大尉ですね。ああ……前の戦争では20万対1万で大敗北をしたのですよ……決戦における我々の確認できた最大の戦果が中隊長が3人ですね、だから佐官級の席次を与えあられているんですよ。そもそも軍人貴族ではありますが」


 20万対1万で大敗北?バグかな?

 それとも転移したアメリカ軍でもいたのか?どうして領土を得たんだよそれ……。


「まぁ農民にも席次はありますしね、前の戦争で得た土地の農民の方が大抵席次が高いですよ」

「農民のほうが上なのか!?」

「ええ、年間で収める税と耕作量、それが年間何人分の食料か、それを年数分で席次が決まりますよ。あくまで耕した当人もしくは家ごとです、小作人であってもです、地主はあがりません。地主の席次をそれで上げると、税の報告をまとめてあげるだけの貴族の席次が勝手に上がってしまいますからね」


 本当に貴族有利にする気が一切ないな、ここまで来るとその結論に至るまでの人生を歩んだ初代皇帝たちに同情するくらいだ。


「新領土は奪還扱いなのですが宣撫中なので……まぁ、問題がないのなら今の名称が追認され今の統治担当者がそのまま収めるか叙爵されるでしょう」

「ちょっと待って!貴族以外も統治はできるのか!?直轄領や代官ではなく?」

「現在爵位を持って収めている人間は新領土にいませんし……族滅断絶領地没収が決まる家とかは直轄地にしたり功績ある平民に統治を任せたりですね。叙爵も受けたりことわったりまちまちですし。それに特に新領地の農民は前の戦争で飢饉になった際に蜂起し、敵貴族や高位軍人たちを討ち取った上で食料を求めて恭順しましたからねぇ。統治していた公爵や辺境伯、新帝国皇家将軍5人、東部方面総司令官とその幕僚、皇帝軍防衛迎撃部隊総司令部を討ち取ったので席次を考えたら席次が将官クラスの農民が大勢いますね。初代皇帝の意志が守られてますね!同じ功績を決戦で帝国が挙げられていたら新帝国は併合できたんですけどね……」


 農民強すぎないか?それとも帝国弱すぎるのか?新帝国が強すぎるのか?こっちがラスボスなんじゃないか?

 この国って弱いのかって聞くか?聞いた途端殺されんかな?オブラートに包んでどうにか聞いておきたいぞ、ラスボス対策として……。


「なぜそのような戦果が?」

「新帝国は武力至上主義でしてね……文官を軽視した結果経済危機になってしまったのですよ。7年前に国境沿いの農民から飢饉による併合要請が出て戦争になったのです。そして向かい合っていたのですが新帝国の兵はそれはもう強いので防衛に徹してましてね……それでも負けて攻めきれなかったのですが……結果、食料の徴発に切れた新帝国農民が蜂起して勝手に敵軍を打ち破ったのですよ」

「…………なぜそんなに農民が強いのだ?」

「国民徴兵制の上に二等兵から士官教育を受けさせた上で、過酷な戦闘訓練をして上官の暴力を禁止して助け合いの精神を育てていたんですよ。男性国民全員が戦闘エリート部隊ですね。徴発も苦渋の決断だったのですが……そもそも飢饉だったために怒りが爆発して飢えた農民を助けるために農民の徴兵部隊が寝返り、元農民の士官、下士官が呼応という感じですね」

「その部隊は決戦には……」

「いたら勝ってたでしょうね……農民に対して食料を配り、説得工作をしてようやく帝国を首都含む1州にまで剥ぎ取りましたからね。それで20:1に持ち込んで負けたんでなんとも言えないですが……まぁ新帝国はもう1州しかないので新領土を立て直し現地兵の訓練を取り入れた部隊を作り物量で押せば勝てるでしょう、20年後くらいですかね?」

「公爵の10年後の計画発動でも負ける試算だったな……」


 勝ち筋があるだけマシだな、じゃあ10年後はまだ立て直せてないのかな?

 イベントで攻めてきて滅ぼせない蛮族かなんかか?


「20年後なら帝国の軍隊を立て直し、新帝国と同レベルの軍隊は最低3倍、できれば5倍、そして新帝国皇帝も老いて弱くなってるはずですな」

「皇帝の老いに期待するのか……?」

「当時は皇太子でしたが……新帝国皇帝が崩御したことで代理皇帝になり、1万の兵を自ら率いて先頭突撃、帝国中央軍を正面突破、新帝国誅伐軍総司令部に斬首戦術、返す刀で北部軍を強襲して司令部を殲滅、指揮系統を失った北部軍を壊滅させました。その後南部軍と中央軍が合流して決戦、寝返った軍は北部、南部の宣撫に回すを得なくなり、帝国軍のみの決戦で正面から攻撃され敗北。今に至りますね」


 チートか?化け物だろそいつ。こいつ転生してきてないか?

 魔王かなんかじゃないのか?「異世界に転生したけど国が滅びる寸前なので戦争に勝って立て直します」見たいな感じ?呂布かな?

 でも皇太子やっててその国では唐突に思い出すタイプかなんかだろ、政治的には怖くないかもな。


「よく領土を取れたな……」

「領土の平民たちが食料も保証できない国はどれだけ戦争に強くても無意味と。寝返った軍とともに新帝国への継戦と首都攻撃を主張して帝国を説得、新帝国側も領土奪還に動いていたのですが農民軍が代理皇帝軍周辺で蜂起、代理皇帝軍を撃退した後帝国側所属を宣言。新帝国所属領地は税と食料を奪い取ったので打ち捨てるべしと独自行動を開始しました。」

「…………」


 帝国軍と新帝国軍の質が違いすぎないか?


「ここで帝国農民軍と新帝国農民軍が相打ちになり各戦線が千日手、帝国軍は立て直せず、新帝国皇帝代理がこのあたりで皇帝に就任し講和を提案、首都周辺の数群を除いて全ての領土割譲し事実上の勝利、とはなりましたが……」

「帝国側の軍事組織はほぼ崩壊と」

「ウェラー公爵が勢力下においていた対神聖帝国司令部が健在で引き上げられましたが今回の粛清で軍部はさらにスカスカですからねぇ……10回従軍しただけの貴族が席次は上でも穴埋めに使えないから……まぁ、やっぱり今は従軍は辞めておいたほうが良いかもしれませんね」


 軍が壊滅した状態で始まる戦略ゲーとかキツイんだが?

 これは新帝国の復讐編が始まるやつだな……。続編か?

 本編がいつかわかんないんだが?


「講和は……両帝国の立て直しの為なんだろうな」

「でしょうね、かと言って農民も平民も見放した以上は新領土は新帝国には復帰しないのではないかと思うのですが……新皇帝も政治はあまりですしね……」

「新帝国がまた敵中正面突破して、ウェラー公爵がきて撤退。で割譲地域を返還するのか?勝手にすれば農民も平民も……」

「しませんね、領土を捨てて帝国に移動するでしょう。新帝国が失政をした時点で見放して良いわけですからね。自力でやるのも本家筋の帝国の力を借りて悪政を働く新帝国を誅するのでも問題はないわけですし。まぁ、そこも計算済みだったのではないですかね?ここで移動した農民・平民を兵士として雇用でもする予定だったのでしょう」

「成功の芽はあったわけか?」

「すべてが上手く行けばですがね……まぁその後は神聖帝国か新帝国を物量で潰して帝国再統一ですかねぇ……」


 とりあえず領軍を鍛える方に持っていくしかないな

 10年先を見据えないと復讐に燃える新帝国との戦争で死ぬ可能性があるわけだ、帝国はどんな歴史を歩んでいくんだろうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る