家宰任命

「本当にできるのか?」

「はい、資料があれば運営は出来ます」

「ジョストン伯領は……そんなに小さいものだったか?」

「ハリスン侯領の三分の一くらいだったと思いますよ?」


 大きくないか?管理地が増えるんだぞ?

 運営自体が難しいと思うんだが案外やることはないのか?

 うーん……わからないな。


「負担が大きくないか?」

「いいえ?運営程度なら特に問題はありませんが……」

「では……ジョストン伯領の家宰に就任してもらえるか」

「はい、では書類を作って渡していただければ、ハリスン侯領とまとめて仕上げておきますね、カール様は帝都にいつまでおられますか?」

「父上次第だな……」


 貴族学院に入学するまでは基本ハリスン候領にいるんじゃないかな?

 基本的に帝国官僚か役職がない貴族は帝都にいないらしいし……貴族学院とその後の専門学科でも履修してない限りは領都で勉学にでも励むんじゃないかな?


 ここで頑張っておかないと「アホ伯爵、主人公に絡んで負けて爵位を取り上げられる」となりかねんからな。

 主人公が貴族嫌いや勘違いで俺に喧嘩売ってきて、ボロクソに俺が負けて失墜する可能性があるからな、頭がいい、いや悪くはない程度にしておきたい。

 平民や下位貴族に喧嘩を売ってそうだとか、暴言を吐く、やってそうと思われないムーブをしないといけない。


 兄貴のように優しく他人に接するように心がけているが……所詮チートも何もない転生者、怒りを堪えられず怒鳴ったり態度に出るかもしれない。

 これはもう貴族の教育でなんとかなるんじゃないか?貴族は態度に出さないみたいなのよく……寄子貴族はよくはしゃいでたな……ある程度は顔に出すくらいのほうがいいのか?


「ああ、そうでした!カール様、伯領の運営なのですが……」

「なにか?」

「私が実情を把握するまでは、投資や公共事業などはしないでいただけますか?」

「それは当然だと思うか……約束しよう」

「ありがとうございます、なるべく早めに終わらせるので1ヶ月……いや、2週間ほどお待ち下さい」


 早いか遅いかも分からないが変に口出すのも良くないしな……。

 口を出すならある程度の知識も必要だし……ここは全権委任するしかないな、追々やっていこう。


「領内での悪政はどの貴族であっても告発され正当性が認められた場合、統治権を没収されます。また平民側が暴動を起こして正当性が認められた場合も同様です。」

「負担をかけるようなことをするな、問題が起きたら手を差し伸べろということでいいのか?」

「そのとおりです」

「では、全権委任状を作って渡すから任せるぞ」

「……全権委任ですか、親子ですねぇ……いえ、失礼しました。」


 親父も全権委任してるのか……確かに帝都の文部省で働いてるしハリスン侯領に帰って領内統治はできないな。

 普段どんなことをしてるんだろうな。あと全権委任なにか問題あるのか?


「全権委任に問題でも?」

「いいえ、もし統治で問題が起きて対処せず大事になった場合は私が罰せられるだけですね。カール様も罰せられますが、見る目がなかっただけと言う判断なので軽い罰金か、統治で起きた不利益の補填程度で済むかと」

「年齢の問題か?」

「それもありますが……そこまで信用されたのにそこまでになる問題を起こす家宰がまずいという認識になりますね。問題があったら報告書を提出するのですが、それにカール様が対応されなかった場合、対応案を拒否して放置した場合は別です。もちろん報告書が改ざんされていた場合は私が罰せられますが。」


 それはそうだろうな……。

 そこはしっかりしてるみたいだが本当に運用されてるかは別だと思うが、それはどうなんだろう?


「それはどう見極めるのだ?」

「査察官が来たり、領主達から上がる報告や商人の記録をまとめて、齟齬があった場合再度提出を求められます。計算ミス程度なら補足付きで返ってくるので再計算すれば問題ありません。ですが、補足もなくこちら側も齟齬の原因が分からないなら、この時点で査察官を要請してしまったほうが良いですね。少なくとも誠意程度は見せられます。後は査察官に任せて隔離された場所で報告を待つだけですね」

「その場合は?どういう処分になる?」

「場合によるとしか……代官が税を少し増やして中抜きをしていたいたとかは案外見抜きづらいですからね。この場合は私もカール様も罰金程度で済むでしょう。」


 それは恐ろしいな……どうするべきかも悩みどころではないか?なんとか対処できないかな?


「それはどう対処する?」

「対処の仕様はありませんね、だから罰金程度で済むんですが……帝国領土は皇帝が納め、貴族に統治を任せている形になります。つまり規定以上の税金は皇帝の領土から皇帝の臣民の金を奪い取る行為として認識されます。つまりバレた時点で謀反人認定ですね。ここまではよろしいでしょうか?」

「ああ」


 下賜した形ではないから、全ての問題は領主と皇帝に降りかかるからその手の行いは余計なことをしやがってと言ったところか?


「話を戻すと、たかだかバレない程度にセコセコ小銭を稼ぐために一族の命をかけられますか?それほどのアホだと見抜けますか?となるわけですね、大抵は引き継ぎなのでいくらなんでも……大領を持つ貴族に全ての代官たちをちゃんと統治者が面接しろとはなりませんので。」

「ああ、なるほど……家宰は当主の任命責任があるが代官の任命責任はスライド式で引き継ぐから罪に問い辛い、同時にその程度のことも分からないレベルのアホの問題で罰していたらきりがないということか。」

「それにそこまで問題があったら貴族学院を卒業できませんし、見抜けない貴族学院の問題になりますし、バレれば一族ごと消えるかもしれないことをしでかすように思えないほど隠すのが上手いだけ相手が一枚上手だったなぁと飲み込むわけですね」

「それでいいのか……?」

「宮城で剣を抜いたら死刑なのに発狂して抜く人間もいますからね、それで一族やら寄親、寄子や警備担当者を全員死刑にまでしたらどうにもなりませんし……発狂でないのなら別ですね、まぁそれでも普段からきちんと職務を全うしてたり人望があるなら警備責任者の降格程度だと思いますよ」

「変なとこで緩いんだな」


 法治主義かと思ったが意外とそこまででもないんだな

 まぁ礼の角度が浅いから死刑とか、右足から歩かないから死刑とかじゃないだけマシだな。


「そもそも帝国にとって大事なのは帝国に利益を与えるものですので、不利益を与えれば死刑、現状維持程度の統治なら特に価値のない御神体の石ころ程度の扱いですからね。だから平民のほうが力を持っていたりするのですが……」

「それは……なぜ?」

「建国時の5英雄が、まぁ色々とありまして……貴族よりも平民の権利を重要視したのです、貴族の大半が大事な時期に役立たずだったことや、建国において活躍したのが平民が多かったのもありますが……」

「貴族の権利が強かった時期はないのか?」

「貴族が選民主義に移行して問題を起こした際は、初代皇帝以外の5英雄の子孫の一人が蜂起してその手の貴族を滅ぼしその時の皇家の血筋を分家へと変えましたね」


 なんでまた平民の権利を重視したんだ?

 それほど平民の権利が低かったから支持を取り付けるために?かと言って貴族より重視されるのはなぜだ?活躍した平民を貴族にしたほうがよかったと思うのだが……貴族をよほど信用してないにしても、自分の派閥の貴族を任命して作り上げたほうが楽だと思うんだがなぁ。

 そもそも謀反ではないのか?


「それは……謀反になるのではないのか?」

「いいえ、初代皇帝陛下の演説でも度々語られていますが血は腐る、能力なきものより能力あるものを、帝国に意図的に不利益を与えたものは我ら5人の子孫でも殺せ、帝国は役職の上下はあっても身分の上下はなし、皇帝とて帝国のための道具である、壊れた道具は捨てよ、ただの男爵より田畑を耕す農民のほうが優れている、自衛の権利は貴族に対しても平民は行使できる。」


 過激すぎない?初代皇帝達何があったんだ?異世界転生して痛い目見たタイプ?

 貴族に痛い目合わされて平民に助けられたタイプのやつ?

 共産主義的なやつ?だったら皇帝なんか名乗らんか。


「初代皇帝陛下含む5英雄は建国の前に心を一つとし、平民と交わり、5人それぞれが聖人のごとき人格者だったと書いてあります。本人たちはそれを言われるのを嫌がっていましたが……それぞれの日記や行きつけの酒場など交流がある人間の記録は残っておりますのでそれは間違いないかと、日記などの筆跡は当人のもので改ざんもないと公式見解がでていますので。歴史的な資料だと建国時には4人だったらしいのですがね」


 本当か?これだけ過激なことを繰り返して発言する皇帝が?それを毎回追認するメンツが?

 どんな人生を歩んだらここまで過激なことを公言して生きていけるんだ?しかも追加の一人を過去からねじ込んでるしな、吾妻鏡みたいなことしてるんだな。


「平民を軽く扱う国は滅びると言うことですな、実際帝国が分裂したり崩壊しかけたときはだいたい貴族が選民思想を強めたり、平民を帝国官僚の主要ポストから追い出し始めたりしたときですからね」

「なるほど、貴族が絶対的権力を持ってるわけでも、偉いわけでもないわけか……だから襲爵はそこまで仰々しくないわけだな」

「はい、寝間着で参加する人もいますよ、それ程度のことです。後を継ぐといっても決まりきった話ですしね。叙爵は別です、帝国に功績があって与えられるので高く評価されますね、陞爵も同じですね。まぁ陞爵は見たことはないですが……だいたい上の空いてる適当な爵位を相続したりするほうが多いですね。」


 でも2代からは軽く扱われるわけだ、血が腐るもここまで来ると人間不信の領域だな。

 ……じゃ侯爵家って別に転生ガチャ成功したわけじゃない?でもまぁ領主の地位はヘマさえなければ安泰なわけだな、じゃあ十分だろ!なんのチートもないし!よこせ!


「なので伯爵領を無難に収めれば少なくとも平均点の評価はいただけますね。」

「それでいい、余計なことをして問題が起きたらどうなるかわからん。」

「だから領主貴族以外の仕事をしてないと帝国内の席次が低いんですよ」

「席次?だが、それで失敗したら全て失うからな……」

「だから評価されてる領主貴族は自腹でやって、自腹で損失補填できるようなことをして成果を出してるんですよ」

「知識のない俺には無理だな、知識を得るまで待ってくれ、思いつき程度のことは上げる」

「必要なことがあったらこちらからも投資などの提案を進めますよ」




「ちなみにそこまで貴族が軽く扱われる理由は他にはあるのか?」

「5英雄の息子の一人が大陸制覇後に、自分には能力が足りないと野に下ったからですね」

「えっ?」

「その感じで100年以内に初代皇帝の皇家以外の4家は下野しましたが、宮中出入りの権利などは保持したままなので、初代皇帝や2代皇帝を飲みに誘ったり、帝都酒場で待ち合わせたりしてたみたいですね。貴族の式典すっぽかして」

「えーと……」

「能力のない人間が役職についてはいけないと英雄の子すら身を引くのに、役立たずの貴族は襲爵してるだけという認識が平民や平民官僚にあったんでしょうね、実際貴族の官僚で活躍した人間は当時そんなにいないですし。そういえば建国時は農民の地位は平民より低かったらしいですよ?帝国建国時に身分制度を事実上廃止したのでその辺も関係あるのでは?」


 ストイックすぎないか?

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