論功行賞にむけて

 論功行賞を直前に控えた俺は淡々と金を返し続けた。

 どうやらクレインさんがハリスン侯爵家の使用人、元使用人、寄子に関係者を優先的に調べ上げてくれたらしく、僅かな間で俺の名声はうなぎのぼりだ。

 虚偽記載があったが多めではなく少なめの申告だったこと、その差額を手紙で伝えられ逆の場合であれば直接伺う、虚偽記載ではあるので直接報告に行けなくて申しわけないとのことだが適切な判断だと思うよ。


 うーん、これも秘密警察の身辺調査の一環かもしれないな。

 これで難癖つけたら終わりとか、約束を破ったとか糾弾したら適切な金額が上乗せされて届く可能性も十分ある。逆はもっと嫌だな……取られた金の半分も帰ってこない貴族、帝国は適切な金額ですといい俺も帝国の言われた通りの金だぞという場合。

 もしくは使用人や寄子に適切な金額を返さないかどうかを見ているとか、返すと言ったのに少額報告とはいえ適切な金額を返していない、気を使って少額の報告にしたのに使える人間の意を汲めなかったみたいな。


 これは将来的に刺してきそうですね、糾弾の場とかで……。

 まだ寄子貴族以外などには返してないが、この辺でこじれて大量の貴族が敵に回ったり、帝国にとって不穏分子には適切に金を返させて取り巻きにしたり、派閥に入れた入りして将来的に全部処断するとかありそう、あるな、族滅多いもんな。


 アランが今日の処刑は良いですよ、族滅ですけど見に行きませんか?とか誘ってくるけど民度やばいな!他人の首刎ねられてもなんとも思わんよ、母を殺した相手でも感慨深くもなかったしな。

 アランや兄上や父上、あとは使用人たちが殺されるようなことがあってそいつが処刑されるとしたら色々な感情がでてきて処理できなくなるかもしれないが……。


 それにしても論功行賞ってなんか服を仕立てたりしていくんじゃないの?異世界系では定番でしょ?伯爵になるんだよ?

 もしかして父上に疎まれてるのか?そういえば最近食事の時以外合わないしな……。

 帰ってくると食事まで部屋にこもっているし、食事が終わってもすぐ部屋に戻るんだよな。


 そうだよな、本来だったら人格者の兄貴が当主なわけで……貴族籍を抜けたとはいえたった一人の兄貴だし、父上にとっては大事な息子だもんな。

 俺がいたせいでこうなった可能性もあるのか、本来なら生まれた時に死んでて俺が憑依した可能性もあるし……。

 ハリスン侯爵家に入ることも許されなくなったのは重すぎるよ……。


 こう考えると復讐権のことももう少し知っておく必要があるかもしれないな。

 うまいとこ穴を見つけて兄貴を侯爵にしたほうが良いかもしれないし、俺の立場で普通は選ばないだけで、実は継承権を変えずに、いや、戻せる方法があるかもしれない。

 立場的に父上もそうせざるを得なかっただけで実はあるのではないか?

 もし成功したら、兄貴が侯爵子息に戻るためになんかある話だった場合の伏線が折れるかもしれん。少なくとも兄貴が継承権を戻すことに反対しない姿勢だけは見せないとまずい。


 単純な恋愛ゲーであってほしい、それなら兄貴が攻略するかされるだけだろ。

 俺との関係が良ければなんとかなるはずだ、伯爵で構わない、兄貴が戻ってくるを待ってるよとアピールする姿勢を貫く、手紙のやり取りは許されてるからこまめにやるぞ。

 BLじゃないよな……?適度に、弟として、これは外さないように気をつけよう。


 ラノベ系だと厳しいぞ、兄貴がどのポジか分からなすぎるんだ。

 悪役子息の俺がなにかするタイプだと……俺をそうならんよう育てる感じか?

 優しかったけど……なにか教えられたことはないな。

 兄貴が悪役子息で俺がそれを失脚させる、ような悪い人ではないな。だったら元侯爵夫人を止めずに暗殺させてるだろう。


 兄貴が異世界転生者だった場合、これがわからない、もう改変されたのか?してる最中なのか?なぜ侯爵子息の座を守れなかった?教職を選んだ理由は?

 あの手紙のせいだとしたら手紙はどこから?兄貴ではないのなら誰が?

 ここまでは改変されてないのか?された結果なのか?


 本格的な政治系のやつだったらどうする?できることは?父上は今回の事件で次期文部大臣と評価されてるが……。

 この粛清の余波は何処まで広がるのだ?

 とにかく目先のことでいいから考えるべきだ論功行賞に向けて支度をするべきだ。




「只今戻りました」

「お帰り、アラン」

「素晴らしかったですよ、今日の処刑は!ぜひご覧いただきたかったのですが……」

「いや、そこまで処刑は好まんな……」


 やっばいなぁ……家宰ってやっぱストレス貯まる仕事なんかな?単純に民度か?いつもとテンションが違うよ。


「女中も大はしゃぎでしたからね!明日を生きる喜びを感じますね!」

 人の処刑で?怖いよ君たち……。恨みでもあったのかな?

「知り合いか?」

「いえ、全く知りません。税金の私的利用をしてただけですね。」

 えぇ…?税金だからか?血税泥棒だから盛りがったのかな?

「いやー族滅で赤子まで殺されてる間はワクワクでしたよ!ぜひ聞いていただきたかったですね!?」

「いや、大丈夫だ」


 赤子殺されてワクワクってなんだよ……聞きたくないよ赤子の悲鳴。

 俺が見たときだけ盛り上がってないだけなの?貴族がいると盛りがあれないのか?

 これ参加してたら将来の主人公やヒロインに悪印象を与えた可能性は高いよ、あっぶねー……。


「外務省大臣官房儀典課長のワッケイン子爵もいたので紹介したかったのですが……」

「それなら伝えてほしかったな……」

 流石に言葉の裏は読めない、それとなく誘っていたのかもしれんな……。

「いえ、偶然ですよ。今回の件で他国が関わってたので、詰問する予定の国の接待で疲労してたので息抜きで見に来ていただけですね。処刑された家は私的利用だったので彼の仕事とは無関係ですね」


 どっちだ?無関係ということになってるのか?近々処刑に誘われたら行くべきかもしれんな。


「そういえば論功行賞だが……礼法とか、それ用の服とかはどうしたら良い?」

「えっ?いりませんよ、そんなの?」

「えっ?」

「えっ?」


 どういうことだ……?論功行賞だよな?大々的に表するんだよな?俺は伯爵になるんだよな?書類一枚で終わるような感じか?

 平民に対してまだ粛清は終わってないからそこまで大々的にはしないアピールかもしれん。式典は金がかかるもんだしな。


「あぁ、カール様はその手の教育はまだでしたね……。申し訳ありません、会話をしてると5歳とは思えなかったのですっかり失念しておりました。」

「ああ、いや、無知な私が悪い、教えてもらえるだろうか?」

「かしこまりました。まず帝国の爵位は何事もなければ継承されるものです。今回の論功行賞は爵位の移譲のみで、謀反計画の摘発などの功績は別です。ここまでは?」

「謀反計画の摘発の功績で爵位の移譲や叙爵になるのではないのか?」

「いいえ、そちらはまだ終わってませんので。それに最近は叙爵はあまりありませんので……叙爵の場合は大々的に行われます。今回の論功行賞における爵位の移譲は本来受け継ぐ予定だったものを早めに認めるだけですので……陛下の立会もなく宰相が読み上げて終わりですね」

「礼服などの必要がないのは陛下の立会がないからか?」

「それもありますが……襲爵程度で税金は使わないことになってまして……」

「つまり、功績というよりは粛清で消えた分早めにジョストン伯爵位をもらうだけだと……?」

「そうなります……」


 じゃあ論功行賞と言われてるが安く済まされただけなのか?先払いだもんな……5歳のガキじゃ私の功績だって威張り散らしそうだ。

 此度の功績でジョストン伯爵位をなんて言ったら鼻で笑われるとこだったな。

 ん?でもジョストン伯爵領はもう拝領してるんだよな?建前上は統治を委任された感じだと思うが……。


「ジョストン伯爵領はどのような扱いなのだ?」

「一応は皇家直轄地ですが……本来はカール様が継承してハリスン侯爵がカール様の成人まで管理する体制になるはずだったのですが……色々あったので……」

 一応冤罪だったっけ?ジョストン伯爵家。

「今回の功績と伯爵領の継承は別なのか?」

「はい、本来は直接成人になったカール様に管理される形になる予定だったのですが、爵位と同じように早めたのでしょうね」

「手紙を届けたことは……実際に功績にならなかったことでいいな?正直に答えてほしい」

「落ちてた手紙を届けただけなので……内容は重要だったかもしれんませんが……」


 言われてみればそうだな……。手紙を拾った5歳の子供に爵位をあげちゃう!はさすがにおかしいもんな。本来より早めに与えて、ちゃんと報いました!ってアピールか。

 そもそも管理は誰がやるんだ?


「ジョストン伯領の管理はどうなる?」

「任命しない限りは皇家の派遣した人材がなんとか運営してるかと……」

「私は……それに何をするべきだろうか?」

「届いた書類に判を押すか、直接管理するかですね…」


 無理だな、わからん……内政ゲームじゃないよな?そもそもジョストン伯爵領って何でやってるんだ?商業?農業?工業?


「率直に言うが、わからないな……どうしたらいい?」

「わからないことをわからないということは素晴らしいことです。それが出来ない貴族は総じて痛い目を見てますので。」

「肝に銘じよう、で?伯爵領をどうしたら良い?」

「管理を任せればよろしいかと、そのままにするのではなく、直接皇家の派遣された人材に任せると改めて委任状を出せば良いのです。それだけでなんとかなるでしょう。」

 うーん、それはそれで怖いな……。


「どうせなら……アラン、お前が管理できないか?」

「できます」


 できるのかよ!?

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