アランから見た兄弟(オリバー)

 私、アランがハリスン侯爵家で働くようになって40年になる。ハリスン侯爵領孤児院で学問を学び卒業試験では経営方面に才能があったこともあり、先代の推薦で帝都専門学校経営学科を卒業しそのまま侯爵家に仕え、気がつけば家宰にまで出世することになった。


 幸いなことに平民から貴族家の家宰に出世することはここ100年ではよくある方で、そこまでの妬みもなく順当に仕事を回すことができる。帝国の結果主義の到達点が今なのかもしれないが……本当に平民かわからないことも関係してるのだろう。

 貴族の私生児の三代後である可能性も十分あり、記憶に残る限りでは父も平民だったがそちらかの両親が貴族の私生児かは私自身も侯爵家も否定しきれないのである。


 私生児を作った貴族の家も、帝国も数百年分に関しては私生児の血統も把握しており戸籍を厳しく管理している。それ以外は場合によっては本人も把握してないのだから恐ろしいことだ。

 なんでも大昔に公爵家の人間が領内の視察時に平民の娘を無理やり手籠めにしたことが原因で戸籍管理法が制定されたそうだ。

 その平民の娘が当時の皇帝がどうせ皇帝になることはあるまいと継承権20位台のときに作った私生児の孫だったらしく、運悪く妊娠したこともあって皇家の血筋だけはきちんと把握されていたため父親をそれとなく訪ねたところ事件が発覚。

 当事者の処刑と公爵家の子爵降格、順位は相当遠いとはいえ血族の皇帝継承順位の永久剥奪、領地替えにと踏んだり蹴ったりだったらしい。


 その上余罪がいくつもあり調べてみると、他領でも同じようなことをやらかしており無理やり手籠めにしたのが伯爵家の私生児やら、男爵家の私生児やら何やらと被害者が重なった結果、元公爵家の子爵は商人も寄り付かず被害貴族の家から延々嫌がらせをされて結局途絶えてしまったとのことだ。


 その後も似たような事件が相次ぎ、実は被害者は貴族の私生児でしたとなることが多く帝国が完全に私生児の戸籍を抑えることにしたが、あまりにも平民に貴族の私生児や血縁が多かったことに帝国側が驚愕、私生児として把握どころかその後も知らないという多いという始末になる。


 その上で戸籍管理担当者が有力貴族の情報を掴み悪用する事件が多発、戸籍管理担当部門は今でも厳しい検査や何を調べるか、何処を見るかまでの監視役職まであるらしい。少なくとも破った貴族は処刑されたのは確かで派閥ごと消えた事例が20年前にもありましたし。

 私生児を作った貴族も把握しておかないとどうなるかわからないので、5代前の作った私生児が今は他国の貧困層用住宅でほそぼそ暮らしてるみたいなことがあったそうだ。血族が減って呼び戻されたらしいが仕事をできる人間にキチンと任せることさえできれば建大はお飾りで教育は次代でもいいと割り切ってるのも恐ろしい。


 そんな環境なので孤児院も誰がいるか把握してない為まともに教育を受けられ立派な食事が出てくるのだが……どう考えても頭の出来が違う人間がちらほらいたり同い年とは思えないような人間がいるのである。

 同じ平民の現帝国宰相とは帝都専門学校の同期だったがあまりに優秀過ぎて貴族の私生児ではなく異世界転生者かと思ったくらいだ。

 この前の同窓会で異世界転生者かチート持ちかと聞いたらあればどれほど良かったか!と落ち込まれてしまったが。


 この手の本は建国期からあるらしく初代皇帝と主要貴族がチート持ち転生者ではないかと囁かれ本まででてるくらいだ。皇家も初代皇帝の評価が上がるので黙認どころか監修して出してたりもするくらいだ。

 勇者になって魔王を倒すとか憧れるしな、帝都専門学校同期の軍務省の兵站部長も学生時代によく読んでたり、今でも軍師として活躍する本を読んではこうなりたかったんだけどなぁ!と騒いで孫に期待をかけてる。


 この年まで生きると流石に異世界転生や小説の世界に行くのは無理だとあきらめも付くのだが、本当はコイツ異世界から来た主人公かなんかじゃないか?みたいなことは生きていると結構あるのだ。

 侯爵家嫡男であったのオリバー様を見てきた時もそう思った、5歳くらいの時に急に性格が丸くなり別人のようになった。

 前世の記憶が戻ったやり直し転生系か?はたまた悪役令息ルート阻止系か?と侍女長と盛りがったことをよく覚えている。


 帝国ではかつての平民の反乱や貴族使用人たちが扱いの悪さに当主一家を殺害し重税をかけてた民衆と蜂起した事例もあり、雇用関係が対等になっており無茶な仕事も拒否権を行使できるのだ。

 そのうえ本当に戸籍管理法の時期のごたごたもあり本当に平民かどうかすら雇用側は把握できないので権限内の仕事を任せておけば、しておけば誰からも責められないと貴族と関係のないと言い切れる平民使用人ですら地雷を踏まないようにほそぼそと仕事をしている。

 まぁ20年前に代々平民とか言ってた庭師のヘンリーは途絶えた男爵家の継承者と認定されて退職することになったので、知らないだけで貴族の血族だったりすることはよくあるんだなと思った。あのときは先代も使用人対する口調か貴族に対する口調かどっちつかずになってたな、いい思い出だ。


 オリバー様が人が変わったようになる直前に、世話役の専任侍女が結婚理由で退職する際に引き止める侯爵様に対して、可愛げのないガキだから無理ですね、母親そっくりで人としてはちょっと世話をしたくないと言われて引き下がるくらいには雇用は対等で権利は保護されてるんだなと思ってしまったくらいだ。

 まぁ専任侍女が皇家の血筋だったら怖いのもあるのかもしれんが。


 専任侍女が退職してからは本当にオリバー様は人が変わったようになってしまった……もう少し早く変わってくれれば専任侍女が優秀だったから元侯爵夫人の相手もせずにすんだんだがな。

 アレだけ人間性に問題あっても使用人に攻撃したり理不尽な罵声はさほど浴びせないくらいだからやはり実は相手の方が偉いかもしれないというのは怖いんだな。

 仕事で仕えてるから人間性がだめなお前に敬意は持たんって態度で侍女たちが淡々と仕事しててもで接してもイライラしてるだけだったからな

 アレを見てオリバー様が変わった可能性もあるが、それにしては賢いから異世界転生説を私は推すぞ!侍女長は異世界憑依説を推してるが執事長はやり直し系押しだ。


 今回のことでもウェラー公爵の孫という立場で学内で反ウェラー派をまとめ上げ公爵家の謀反計画の一端を調べ続けたわけですしね、結果的にカール様の手紙が止めとなったが。

 なんで学院で教職を見据えてを選んだんでしょうね……?立ち回りが上手ければ止めのカール様の手紙がなくても何処かに婿入しても問題はないと思うのだが。

 学内での立ち回りは完璧で学院卒業後の専門学科をうけずに教職の地位を取得したのなら官僚になれたと思うのですがね……。


 やはり官僚周りできな臭いことが起きる未来を知ってるとかそういうことでしょうかね?

 公爵が生きていたら間違いなく内務省配属だったでしょうしね、まぁ今となっては解体再編されるのですが……。

 もしも教職じゃなくて官僚を選んでいたら今回の件と無関係と証明するのが難しくなるかもしれませんしね。まぁ普通に文部省配属に希望を出せば侯爵も在籍しているので、教育部門の重要性を加味しても内務省も横槍を入れない可能性は高いですが。

 横槍入れられたら終わりですからね。

 これは執事長のやり直し系説が有利ですかね?まぁ侍女長推しの憑依説は5歳位で人が変わったようになるくらいでそれ以降は説の補完のしようもないところが難しいですね。異世界転生系も現時点だと立ち回りと知性とかだけで収益を増大させる知識とかはまだ提供してませんしね。

 まぁ今より進んだ世界から来たとも言い切れませんしね、同じくらいの技術と価値観の世界から来た可能性もかなりあるのでは?

 これは今夜侍女長と執事長と考察して盛り上がらないといけませんね。昨日から「悪役令嬢の父親だった件について」を読み続け、処刑の立会をサボった侯爵閣下も参加するか聞いてみましょうかね。そろそろ別の本読み始めたかな?


 おっと、処刑の時間ですね、本当にムカつく女だったから罵声を浴びせておきましょうか♪カール様もミミ様を毒殺されたし、異世界転生者だとしても糾弾かくらいするでしょう。


 何もしませんね……。随分と冷めてますね……。

 カール様の普段の感じからして理解してないということは絶対ありませんし……ああ!慈悲深さを見せて復讐権を怒りに任せて使ったのではなく正義として使ったアピールですかね!?いい判断です。やはり異世界転生者なのではないですかね?

 これくらいの5歳ならよくいる方だとは思いますが……侯爵家では帝王学や倫理系の教育はしてないわけではないですが、そこまでまだ重点を置く前のはずなんですがね。

 元侯爵夫人を反面教師にしたのかもしれませんね、反面教師としては大陸で一番かもしれませんしね。


 しゃぁっ!ざまぁみろ!ざまぁ系を読んだ時と同じスカッと感ですね!

 首が飛んだ時、ゲートボールで一発でゲート通したような喜びですよ!15年と金貨12枚分の恨み思い知れ!

 カール様が罵声も浴びせないから声には出せないですが思いっきりガッツポーズしてしまいまし……ブラウン男爵がものすごいガッツポーズしてますね……まぁ家宝の鎧をあの女にカツアゲされてたようですし致し方ないでしょ……ムーンドック伯爵もガッツポーズしながら変なステップ踏んでますね……大金貨カツアゲされたんでしたかね?

 見渡せば貴族も使用人も笑顔でガッツポーズしてますね、ここまで嫌われてるとこちらも改めて嬉しいですね、嫌っている行為が正しいみたいで。

 もう一回ガッツポーズしておきますか

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る