義母の処刑
パーティーの翌日に義母の処刑が行われた。
謀反人兼復讐権対象により処刑されることとなった義母はあっさりと処刑された。ボロ布を着せられ口も封じられ、父上や兄貴の立会も何もなくスパッと斬って終わりだ。
俺はちゃんと立ち会ったんだけどな、まぁ行使者の立会は必須らしいからな。
石を投げますか?とか皇家の立会人が聞いてきたが処刑人にそうする決まりなのかと聞いたら復讐権を行使する人間はたいていやるらしい。死なない程度なら何投げてもいいらしいがさすがにやめておいた。
「お優しいのですね」
「そうでしょうか?」
「行使者が何もしないのなら見物人も何も出来ませんからね、穏やかに召されるでしょう」
使用人たちまで見に来てるのは俺がなんかしたら乗っかろうって魂胆だったりするのか?流石に考えすぎか。
でも引くほど人望がないな、使用人や寄子貴族達パーティの時みたいな笑顔をしてるぞ?見物人たちも笑顔だしな、まさか平民にも普通に嫌われてるわけじゃないよな?娯楽として見に来たから笑顔なんだよな?
「遺体はどうしますか?」
「法に則って適切に処理してください」
「……晒すことも出来ますが?」
「法にないのであれば無用です、お役目お疲れ様でした」
「ハリスン侯爵が墓を作らないことを文書化しており関係者も族滅になってるので打ち捨てとして処理します」
謀反人とはいえ一応貴族だよな?一応申し出れば墓を作れるっぽいが……。
「オリバー兄上、失礼……子息のオリバー氏の意向でも結構です」
「カール様がそうおっしゃった場合はオリバー氏は打ち捨てで結構とのことです、遺体確認も無用と」
「ではそのようにお願い致します」
兄貴も案外冷めてるな、いや謀反計画のおかげで死にかけたんだし恨みのほうが強いのかな?ここ数年は大変だったらしいし。
貴族の死体が打ち捨てか、大昔の日本みたいだな、川には捨てないでくれよ。
「終わりました、遺体の確認をしますか?」
「いえ、アレで生きていたら化け物でしょうから不要です」
「では、遺体を打ち捨て宮城に報告に参ります。この度は復讐達成おめでとうございます」
「ありがとうございます」
別に俺が達成したわけでもないんだがな。あれは様式美のセリフだったのかもしれないな、刎ねられた首を至近距離で見る気もないしこれでいいだろ。
ざまぁ系だと処刑前にひと悶着会ったりするんだが何もなかったな、長年の恨みというほどのものもないし、嫌なところしかない同居人が死んだだけだしな。スカッとするほどの感情もなければ達成感もないんだよな。
これもう10年くらい義母からネチネチされて恨みとか募ってくタイプの作品だったのかな?暗殺未遂があったみたいだけど危険を感じたこともないからよくも!ともならんのだよなぁ……。
まぁこうして義母は処刑されましたとさ、おしまい。
それにしても帝都広場を貸し切って俺の名のもとに執行されるとはね。
皇家公認として立会人も派遣されてたし、本日処刑されるどこぞの伯爵家一族は時間を変えられたらしい。復讐権の執行処刑は謀反人処刑より優先されるらしい。
いいのかそれで?どうも法的にはチグハグなことがあるな、普通は皇家に対する謀反人が最優先で処刑されるはずなんだがガバガバ作品の都合か?
「カール・ハリスン様万歳!」
「皇家万歳!」
「正義は成された!」
「復讐権万歳!」
「ハリスン嫡子万歳!」
「行使者はいつも正しい!」
「温情深き行使者万歳」
「悪妻に死を!悪徳貴族に死を!」
すごい盛り上がりだな!数日前も処刑見学につきあわされたがここまで盛り上がらなかったぞ!あの時処刑された伯爵より盛り上がってるじゃないか……。
もしかして誘拐した平民を趣味でいたぶってたりしたのか?
「アラン」
「はい、何かございましたか?」
「なぜここまで盛りがっているのだ」
「復讐権が行使されるということは行使側が完全な被害者であり対象者が完全な加害者であることが認定されるからです」
「正義の証というわけか、にしてもではないか?」
「カール様が罵声も浴びせず石も投げず、処刑後の遺体を殴打することもなければ晒すこともしなかったからかと。普通はしますから……」
「高潔な人物と映ったわけか」
「実際行動に起こしていないので我々もそう思っています。まだ5歳になったばかりですし理解した上での対応なので当家と関係のある貴族、平民もここには大勢いますので……」
「それだけでここまで盛り上がるとはやはり思えないのだが?」
「……」
わからないって感じではなさそうだな、言いにくい感じだなこれは。
「謀反人のことを悪く言うことを責めるものはいない、皆様もそう思うでしょう?」
寄子貴族も歯切れが悪いが賛同してくれてるし答えてくれアラン!問題が起きてからじゃ困るんだ!
「まず……元侯爵夫人は、いえウェラー元公爵家のは平民から嫌われておりまして……」
それは言いづらいわな。
「ええと、その……元侯爵夫人はいくらか実家のウェラー侯爵家に宝物を送ったり送金しておりまして……」
横領か?だが平民はあんまり関係ないような……人身売買か!?
「その……元侯爵夫人はその資金を他貴族や商人などの裕福な平民から……」
「贈り物をさせたと?」
「はい」
金に困ってない貴族の嫁がそこらじゅうでカツアゲしてりゃそりゃ嫌われるか、そりゃ笑顔で処刑見るわ、俺でもそうする。人身売買じゃないだけましかもしれんが。
「その金額が多いため関係者で解雇になったものも多く……大きな声では言えませんが他家でも平民使用人が解雇されたりして怨嗟の声が……」
「……当家の寄子でも?」
「…………」
そうみたいですね……。人身売買はしてないが人員整理はしたわけだな、させられたというべきか
「此度のことで横領された金額や贈り物と称して取り上げられたものは返却の目処が出るのではないか?」
「大半は記録には残っていないので不可能です……」
「残っている分は?」
「皇家が没収したものを返却してくれるかはわかりません……」
まずい!これが物語かゲームの世界だったら詰むパターンだぞ!
首になった使用人の息子か娘が主人公かヒロインで恨まれるタイプのやつだ!
もしくはこのことで金欠貴族になった子息か令嬢がそうなるパターンだ!
考えろ、考えるんだ……。
5年後に貴族学院に入学した際は次期侯爵で現役伯爵、侯爵領に自前の伯爵領持ちで物流を司る公爵家の土地も吸収して権勢を誇る一族。
そして5年前に母を殺した義母を国家の力で誅殺、そして兄は自ら助命を願い出てる、いいぞ!ここまでは攻略対象っぽいぞ!
がその処刑した義母がそこらじゅうからカツアゲして金欠貴族になったり職を失った平民使用人がわんさかいる、5年後に平民に完全開放される貴族学院が舞台かもしれないのに。
これまずいよね、攻略対象だとしてもひと悶着あるよ?ヒロインが庇ってくれてハッピーエンドになるかもしれんけど攻略対象に選ばれなかったら死亡エンドのタイプかも知れないよ?ヒロインが選ばなかったキャラ全滅するタイプかもしれないし。
これギリ被害者ムーブできるか?
ハリスン侯爵家を目障りだと思ってる勢力に手を回されて主人公たちに没落された後でお前は悪くなかったんだなって墓の前で語られる悲劇のキャラの可能性もないか?
一番怖いのは政治系だ、そんな力ないぞ?侯爵家は文部系だし影響力与えるとこが学院とか学術系くらいだし……芸術もあるか?内務省も解体されるらしいし省自体が強権化してるところはないはずだ。
文部系って時点で父上そんな力強くなさそうだし付け込まれて失脚するんじゃないか?ノベルゲーじゃなくて戦略系や政治シミュレーションだったらどうするんだよ。
これ失脚で婚約者寝取られるタイプか?流石に10歳までには決まるよな?粛清と精査があるから数年家かかるかもしれんが……。
今回のことで婚約者を失った家って多いしな。全部が全部族滅されたわけじゃないし、取り潰しのみとか当主のみ処刑で終わった家も子爵や男爵では多いみたいだしな。そして婚約者同士が再開して寝取られると!
その場合は寝取り返されてるわけか、でも没落ってお約束だしセットで付いてきそうだな……。俺が婚約者に優しくしても失脚したり本来の婚約者を追い詰めたのはお前だって糾弾されそうだな。
後は……再婚して妹とか生まれるんじゃないか?それで最低でも5歳差か……安心できるか?いや、市井に隠し子がいたり族滅から漏れたか対象外だった娘を養子にするタイプかも知れない!義弟だったらどうだ?どちらにせよ辛く当たる悪役令息だろうか?
とにかく優しくすれば多分大丈夫だろ、うん!
でもそっちも転生者で家督を取るために嘘をでっちあげたらどうする……?
まずいぞ……なんか領内の収益上げる知識とか農作物を増やす方法とか俺は知らないぞ!本でも書くか?いや、文才はなかったな……。
料理!も特に食べたい物とか見たことないものはないな……。
魔法もねぇ!スキル強化みたいなシステムはねぇ!魔物もいねぇ!知識もねぇ!
前世普通の工場勤務だぞ!あるかそんな知識!
コンビニ!いや普通の商店だな、保存も効かないし24時間やる意味がない、というか侯爵家で深夜に訪問して買うやついるから貴族相手だとコンビニみたいなもんだしな……多めに金払うだけまぁ前世よりはいいだろう。
ガラスはもうあるし……何なら花火もあるな。車も作り方わからんし、エンジンってどんな構造なんだ?
ライターは似たようなのがあるし……貴族でもマッチのほうがいいって言い切ってるからな。まぁこの世界のマッチは湿気ないみたいだしこの辺が異世界要素だな。
あれ?できることないな……。
考え込んでいたらアランや寄子貴族が申し訳無さそうに見てきた。ごめんね、皆の苦境より自分の未来だけ考えてたわ。
なにか優しい言葉をかけるとか、良いこと言って信頼を得るとかしたいんだけど……皇家相手じゃ迂闊に言えないな。
ん?あのこっちに真っ直ぐくる人はこちらに用事かな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます