親子の考えることは同じ
まさかこんなことになるとは思わなかったな……。
きっかけは次男のカールの持ってきた手紙だった。それには帝国への謀反計画の人員と決行日、同時に私を暗殺し侯爵夫人権限で嫡男のオリバーを侯爵代行に任命し蜂起する計画だった。
オリバーが賛同するとも思えなかったが帝国に弓を引いた後では流石に腹をくくって戦うだろうな。参加する貴族や商人、隣国の工作資金に蜂起と同時期に隣国が国境攻撃して帝国の兵力を分散させる、援軍と称して国境沿いの占領をすると売国のバーゲンセールだな。
確かに蜂起すればうまくいったかもしれないが……そのあとどうするつもりだったんだ?
国境の重要地点を取られたら後は備えがないし、東の神聖帝国も西の新帝国もそこで止まるような甘い国ではないだろう。そもそも国境沿いは有力諸侯が大規模な備えをしても後方の諸侯は弱小で防衛施設を作ることも運用することも難しく、代官が任命されるだけの土地もあり何処に何を作るかの押し付け合いをするくらいだ。
最も今回の粛清で弱小領土は再編されるわけだが……。
各国境の防衛陣を抜けても取り潰した連中の金で第2防衛陣が作られるわけだな、我が家は小規模ながら後方用に防衛施設をいくつか作ってはあるがね。
今回の領土増大で得たジョストン伯領は国境に近いから防衛施設を点検、拡張、増築が必要になるな、流石に敵を通すために堂々と取り壊してはないが数年手入れはされてないから頭が痛くなりそうだ。
ウェラー公爵領は商業拠点みたいなものだから領土もそこまで広くないからそこまで気にしなくても良いのが救いだな、むしろここの利益をジョストンに流す形になるが公爵家が潰した家の建て直しだから商人も納得するだろう。いや、させないとな。
本来なら一部を皇家直轄にして防衛施設を作ったりすればいいのだがどうしてこうなるまで介入しなかったんだろうな?
それにしてもなんであんな重要な手紙が落ちてたんだろうな?疑問は尽きないことばかりだ。ミミが毒殺された事自体は周知の事実だし、家宰のアランも証拠を掴めず諦めたくらいだったのだがな。
うっかりか?間抜けであれば4年前にとっとと殺せていたんだがね!
その辺はしっかりしていたからアレからは何も見つからなかった、だからアランあたりが捏造したかカールの派閥がでっちあげたかしたと思ったんだがな……。
翌日にオリバーが数年分のアレを調べ上げた証拠付報告書と、カール暗殺計画を今度は止められないから直ちに侯爵として介入してアレを捕らえてほしいとやってきた際にはこれはどうするんだとすら思った。
カールの提出した手紙はお前が手紙を回収する際に落としたものかと聞いたらそうかも知れないというのでこれでオリバーは助命できると思ったら……軽く読んで違います!と怒り気味に返されてしまった。
嘘でもそうです!と言ってくれれば話は早かったんだが私の子にしてもアレの子にしても真面目というか真っ直ぐというか……。
中身を見た上で回収しているからこんな重要な内容ならそのときに持っていっているし、筆跡も間違いなくウェラー公爵のものでサインの後ろの印は今まで回収した手紙と同じものだと。
なんでそんなわかりやすい証を残すんだ?計画が壮大で緻密な割には変なとこで隙だらけだな……。
ミミ毒殺の報告も処分せず保管していたし、まぁあの手紙を落とさなければ普通は公爵家の家探しまでには行かないから慢心したかもしれないが……オリバーの報告書ではせいぜいカール暗殺未遂の分と暗殺計画、謀反らしき動きがあることでアレの誅殺と謀反計画で調達担当貴族くらいしか処断できなかっただろう。
公爵家からはせいぜい賠償金をふんだくるのが精一杯だな。
まぁ、それでもオリバーは反ウェラー公爵派閥の子息と連携を取って調べ上げるとは大したものだ、アレの評判も貴族内で悪かったし……その息子でウェラー公爵の孫という立場でよくもまぁ反ウェラーをまとめ上げられるな……。
優秀すぎないか?カールも5歳とは思えないしな、家庭教師も同じだったが……教師が良かったのか?
宮城での報告の際もカールをキチンと推薦して廃嫡を申し出た後で継承権を捨てたのも評判が良かったな、反ウェラー派閥の高位貴族も助命嘆願をしてきたし……反ウェラー筆頭のウィリアム大公も今代で途絶えるから最期の願いとして助命を願い出てくれたし……我が家と仲の悪い家も助命に動いてくれたし……。
巷で流行りの演劇みたいだったな!まぁそのあとミミ毒殺の証拠が見つかった報告が来て、復讐権行使義務が生まれて、すごい空気になったけどな!
「……ハリスン侯爵……ウェラー公爵家から押収したものからミミ・ハリスン夫人毒殺の証拠が見つかった報告が……」
「……それは、その……皇家が見つけたことになるのですか?それとも担当した家のどなたかの?」
「法律上は皇家になります……皇帝陛下……」
「うむ、ハリスン侯爵……子息のカールには復讐権行使義務が生まれることになるな……」
陛下も貴族たちもあんな気まずそうな顔を謁見上ですることあるんだなーとほのぼの思ってしまったが現実逃避してる場合ではないな。
「カールには……行使するかどうかを、いえどう行使するかを聞きます」
「うむ、レッド法務大臣!法務官として復讐権の行使義務を見届けるように!」
「承りました……」
私が説得できなかったらレッド伯爵が説得することになるんだな、最悪の場合レッド伯爵なら説得できるだろう!オリバーの助命も叶うし安心だな!
「来週に寄子を集めて報告と祝勝会を兼ねたパーティーを行うのでそこで……」
「わかりました……」
せめて皇家が発見した形じゃなければついでに調査を頼んだ形になって復讐権を行使せずにすんだのだが……。なんでこんな法が残ってるんだ?誰か廃止を訴えでればいいんだが……戯れで領民を殺していた男爵が逃げ延びた領民とそれを目撃した不仲な男爵が領民に復讐権を行使させて族滅させた事例がいくつかあるから、平民からは身を守る権利のように扱われてるし、不仲な貴族同士が領内の相互監視状態になって領民に無体を働かない面もあるし、仲が良ければ互いに目こぼしするから本当に意味あるのかと思ってるところもあるんだがな。
今回の粛清でだいぶ貴族が消えるから悪用されたりするんじゃないか?まぁ謀反による族滅は対象外だし、漏れてる時点で族滅されてないし、あるならとばっちり粛清とかかな。一応改正の働きかけくらいはしたいのだが誰も触れたがらないからな、復讐権を廃止しようとしてるとか領民に流れたら暴動起きそうだ。
復讐権の行使で兄は殺すなとか説得するのは貧乏くじだしな、レッド伯爵も可哀想に……。私は息子を殺したくないで済むし、オリバーの今回の貢献もあるし、オリバーの元の評判も高いからまぁ理解はされるだろうが。
母を殺した女の息子を助命する正当性を法務官として説得するって族滅があるような法がある中では流石に難しいだろうな、公爵家謀反計画に対する功績の助命とミミ毒殺による連座は別物だしな……。復讐権がある割に妙に融通が効かないな。
まぁミミ毒殺のことでアレと公爵家を処断する際に証拠がたりないから無理と正論だけで返してきた結果だから自分のケツは自分で吹いてもらうとしよう。
正論であっても少しは気を使うなり寄りそうな言い方をするなりすればここまで当家の家中に恨まれはしなかっただろうがな。はっきり罪に問えないといっただけだからウェラー公爵派は勢いづいたし、アレも掣肘できないギリギリのラインまで好き勝手やり始めたからな。無実の妻を処断しようとしたとしてこちらも強くでられなくなった。
まぁそれだけ怪しい状況であっても証拠がなければ無罪と誰が相手でも対応を変えないからこそ法務大臣として重用されてるわけでもあるしな、せいぜいカールに恨まれてくれ。
そうしたらレッド伯爵のせいにして説得するからオリバーの助命が楽になる。
と思っていたのだがあっさりとオリバーの助命は叶った。
カールが立派に育ったのかオリバーが立派に育ったのか、はたまたどっちもあるのかは分かたないが……。
レッド伯爵は針の筵の居心地でパーティーに参加してたな。
法務大臣自ら見届けるように言われたのはなんとか助命しろって皇家の意向だし、家中からはミミの件で恨まれてるし、この数年アレがギリギリのラインで好き勝手やってたのは法務大臣自ら罪には問えないってきっぱり言い切ったようなもんだからな。
カールからオリバーがどうなるか聞かれたのは少し驚いたが……めでたい席から暗い雰囲気になったとしてもレッド伯爵が背負ってくれるからな。
それまでは死んだ目をしてたな。
次期ハリスン家侯爵とレッド伯爵家に確実な遺恨が残るようなことをこれからしなければいけないわけだし、さんざん恨まれた後のカール暗殺阻止の功績でオリバーの助命をしてレッド伯爵の株を落としてやろうかと思ったが……。
手紙のことを聞かれて慌てて助命の話を先にしてしまった、失態だな。あの感じだとカールは本当に内容は知らないようだな。それだけ私がオリバーの助命をしたかったからこそかもしれないが、結果的にレッド伯爵に恩を売る形になったからまぁいいだろう。法務大臣自ら法務局に行って助命書類を作って決済判子押して、そのまま宮城に行って陛下の復讐権行使後の助命認定もらってオリバーに助命されたことを伝えに行くんだろうな。
通常処理では時間がかかるとはいえ自ら法務局に行って書類を作るとは結構引け目があったのかもしれん。
これでオリバーは来年から貴族学院の教師だな、屋敷を息子として訪れることはもうないのだが……。
教師として功績があれば領土がなくても男爵になることもあるだろう、専業で研究するもよし複数を掛け持ちして将来の大貴族に恩を売って養子になるも爵位の推薦を得るもよしだ。貴族学院卒業後の専門学科を履修してない時点で教職が可能な知識があると認定されたのは助かった。
今更ながら15歳とは思えんな……カールも5歳とは思えない……。
どちらの母も過激な方だったしな、カールが生まれた時期のミミは弱っていてそんな感じでもなかったが……。
女性官僚が読んでる小説みたいだな、優秀な子供が転生者で無能な父親を追い落とすみたいな。
流行ってるよな、劇とかにもなってるし。
この前接待で異世界から転生した主人公が復讐を果たす劇を見たけど息子の暗殺計画を見て見ぬふりしてた父が殺されるシーンはスカッとしたな!大衆演劇もなかなか面白いものだった。貴族学院に平民が入学して貴族と恋に落ちる恋愛劇もあったな!あれはよかった!まぁ実際似たようなことは貴族ならだいたいあるが。
異世界から来た魔法を使える男の話も面白かったな!異世界の知識を布教したり国を発展させてくやつとか。読んでみようかと思ったんだがちょうど公爵家がきな臭くなってたからまだ買えてないな。
もしかして……そうなのか……?
息子たちは転生者で無能な親父を殺すのか?寝返っていた家があったとはいえカールの暗殺計画に気付けなかったしな。
未遂は流石に気づきようもないが……ミミ毒殺に気がついても4年間手を打てなかったしな……もしかして私は毒親として粛清されるのか?
オリバーは転生者で家から脱出したのか?流行りのスローライフか?私も責任を投げ捨てて領内で隠居したいと10年くらい思ってるが正直今回のことで悩みの殆どがなくなったしな。
学院教師は激務だしわざわざ選ぶのか?異世界の知識が教師方面にしかない感じか?でも反ウェラー公爵の子息をまとめてたしなんかそっち系の転生者かな?
カールも5歳とは思えないほど頭が回るしミミの子とは思えないほど苛烈さがなく優しさがあるな。
5歳の時のオリバーより明らかに賢いしな……。転生か人生やり直し系か?
もしかして自作の小説に転生するタイプのやつか?しまったな、知識がなさすぎるぞ……。
貴族学院に平民を入学させるのは恋愛作品の可能性もあるのか!
手紙が発見されるのは作品の意志で曲げられることだった?この手紙を把握して廊下に落とした?だがカールもオリバーも知らないようだったし……。
もしかして今回の謀反が成功して亡国になった帝国を奪還したり再建国するタイプの話か?皇家あたりにも転生者がいるのか?
そう考えるとうまく行き過ぎているしな……復讐権といい改正しなければいけない法律が放置されてるのもそういうことなのか?国境も防衛戦抜けたらスカスカで帝国として防衛施設も作っていないし。
いや考えすぎかもしれん、復讐権以外にも変な法律はあるが触れると面倒なことになるから触れんだけだろう。
アレは反面教師としては優秀だったから2人も丸く育って教育の重要性を知ってオリバーも教師を選んだのかもしれん、一応我が家は文部系官僚だし現地の環境を知ることは大事だしな。
ウールトン公爵も族滅で文部大臣の席が空いたしハリスン侯爵家がその座につくかもしれんからツテがあるのはいいことだし、この謀反を嗅ぎつけた時点で助命されても侯爵家を継げるかは謀反人の娘とその息子となると五分五分。
なにせ謀反人の娘は家中の評判は最悪で掣肘しようにも公爵家の影響とレッド法務大臣から毒殺立件不可をハッキリ通達されたことによる負い目もありギリギリを狙われると強くでれないし、貴族内の評判も最悪ときたものだ。
あの時点では助命が叶うことを見越して教師と言う選択は最適でもあったわけだな
やはり転生者かなにかなのではないか?
しかし平民の貴族学院入学はこの10年の既定路線だしな……。
そもそも平民といっても貴族の私生児とかのほうが多いだろうし…。
侯爵家運営の孤児院学校から平民が普通に侯爵家官僚として仕えてたりするからそこまで揉めることはないだろうな。
帝国官僚にも各家の孤児院から卒業した平民もいるし貴族学院に入れる意味があるかとはなったが入れたくないとはならないしな、その意見上げたのも平民出身の事務次官だったし。
でも貴族の私生児と高位貴族子息が恋に落ちるって普通にあるだろうな、入学できてる時点で優秀だし、卒業まで在籍してるのなら貴族籍に入れるなり戻すなり何なりしてしまえばいいしな。貴族婚ばかりすると体が弱くなるから平民との私生児を作って優秀なら戻すくらい日常茶飯事だし、場合によっては出来の悪い息子と交換することもある。家がアホで絶えるよりはマシだからな。
でも完全な平民と高位貴族が恋に落ちるってのもちゃんとありそうだけど価値観違うし正妻にはならんよなぁ?多分だけど
でももしその手の小説の設定だったら?ご都合で全部進んでしまうかもしれんな。
今の地位の私にできることはないなぁ……だから無能な親父として粛清される可能性も今怯えているんだがね。
でも文部大臣になったとして学院内の貴族と平民の恋愛禁止とか言ったら平民より先に貴族に潰されるな、正妻がしんどくて貴族の私生児含む平民と愛を育む貴族は多いからな。愛を蒔いてるとか血を濃くしないためと言い訳はしてるが。
族滅されたウールトン公爵も学院在学中に通ったカフェの女中を愛人にしてたしな、若くして亡くなったらしいが正妻が殺してそうだな、そういや正妻は皇家の出自だったな、謀反に加担した理由はそれかもな。
やはりできることはないなぁ……。いや、現状でできることは一つだけあるか。
「アラン」
「はい」
「巷で流行りの小説をいくつか買ってくるように、平民に人気のもの貴族に人気の品含めてだ」
「かしこまりました」
ちょっと困惑してるな、まぁもしその手の世界だったときのために予習しておくべきだな、息子たちが優秀なのは私の血のおかげと誇れるほど優秀なら良かったんだがね、だったら文部大臣は私がなってるだろう。ウールトン公爵の文部大臣としての手腕は見事だったからな。
「あと、よく劇になってるタイプのやつを重点的にせよ」
「劇ですか?」
「そうだ異世界転生とか平民が貴族学院で貴族と恋に落ちるやつとかだ」
「…………お疲れですか?」
「……だから気を休めるために娯楽本を読みたいのだ」
「そうでしたか、てっきり……」
「文部大臣になることがあってもその手のことをあれこれはしない、書籍も規制はせん、そんな狭量なことする帝国ではないからな」
「ではすぐに購入してきます、私のもので良ければ買ってくるまでお貸ししますが」
「頼む」
変な誤解をされたが息子が異世界転生者かもしれない!この世界は創作の世界だと思ってる!とか言うよりはいいだろう、私が療養中にされてしまう。
幽閉状態がスローライフと言われたら困る。
というかアランもその手の本が好きなんだなぁ……。
頼むから息子たちがただ優秀なだけであってくれ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます