第74話・学園を卒業した3人のその後


「アンジェ。誰からの手紙?」


「ベラからよ。生まれたって。男の子だったそうよ」


「そうか。それは良かった」




 バルコニーで、親友からの手紙に目を通していたアンジェリーヌの隣の席に、夫のカナレッドが腰を下ろした。




「なかなか子供が出来なく悩んでいたから、これであの子も色々なプレッシャーから解放されるわね」




 ジネベラは、アンジェリーヌ同様に一人っ子だ。跡継ぎ娘として婿をもらった彼女のことを、自分のことのように、アンジェリーヌは心配していた。なぜなら彼女も同じ問題で苦しんでいた時期もあるし、それを覚悟していた上の結婚とはいっても、こればかりはどうにもならないのがもどかしかった。




「バーノくんも喜んだだろう?」


「ええ。妊娠中から過保護だったみたいだけど、それに輪をかけて心配症になっているみたいよ」




 バーノがジネベラを溺愛している。ジネベラは鈍感だが、彼は彼女の目に留まりたくて、学園在学中も密かに彼女の姿を追っていたようで、アンジェリーヌが、ジネベラが幼馴染みだと気が付く前から親しくしていた。


 それなのにバーノは、ジネベラとの距離を縮めるのに臆していて、見ていてイライラしたものである。何度も早く告白して、付き合いなさいよと言ったことか。




「まあ、無理もないだろうね。僕もそうだったけど、妊娠中は心配にもなるし、子供が生まれたからといって安心出来るものでもないよ」


「どうして?」




「男は妻のお腹が大きくなるのを見ていて、生まれるのをただ、見ている事しか出来ないからね。産後も体調は大丈夫かと心配にもなる。命を産み落とした妻の偉大さに感謝しながらもね」


「あなたは平然としていたように見えたけど?」




「いや、そうでもない。きみが出産時に悲鳴をあげていたのをドア越しに聞いて、変われるものなら変わりたいと思っていた」


「そう? その割には三回も苦しんだけど」


「ごめん。どうしてもきみの魅力には抗えなくて」


「まあ、そういうことにしておきましょう」




 アンジェリーヌとカナレッドの間には三人の子供達がいる。一番目の子は7歳の男の子。二番目は5歳の女の子。三番目は3歳の男の子だ。


 一番目の子は将来、オロール公爵家の後を継ぐことが決まっている。三番目の子は商会の方を継ぐ。それは二人の結婚時に交わした約束だ。




 いくらキャトリンヌの後継者とはいえ、本来なら孤児院育ちで、素性の知れないカナレッドと結婚するなんて無理があるかと思われたが、商会と付き合いの長い隣国の貴族が養子先として受け入れてくれたので、そこの子息としてカナレッドは婿入りすることが出来た。でも、商会の方もあるので、オロール公爵家当主はアンジェリーヌとなり、彼女が仕切っている。




 カナレッドは商会の本部をこのランメルト国に移し、なるべくアンジェリーヌの側に、いられるような環境を作り出した。


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