第51話・お勧めのショートケーキ


「あら。こんな素敵なお店が出来たのね? ベラ」


「叔母さま。ここのお店はね、お友達に教えてもらったの。そのお友達の家のパティシェを勤めていらした方が、定年退職後にこちらのお店を始められたそうなのよ」




 翌日。学園に向かうための時間よりも遅めの時間に起床したジネベラは、キャトリンヌを誘い博物館へ絵画鑑賞に出かけていた。その帰り道で、洋菓子店に寄ろうとしていた。


 昨晩、キャトリンヌから、彼女自身が好んでいる画家の絵画展が、王都の博物館で開かれていると聞き、その絵画観賞に誘った後、アンジェリーヌに教えてもらった洋菓子店を、キャトリンヌにも教えてあげようとジネベラは浮かれていた。




「そうなの? こちらに帰ってくる度に、王都もどんどん様変わりしていくわね」


「ここのショートケーキはね、ほっぺたが落ちるぐらいにとても美味しいのよ。ぜひ、叔母さまにも食べて欲しいわ」


「まあ。ベラがそんなに言うなら絶品なのは間違いなしね」




 店内に入ると賑わっていたが、すぐに席に案内をしてもらえた。




「調度家具も洗練されているわね。内装も素敵だわ」


「だってここのお店を開いたパティシェは、元オロール公爵家お抱えのパティシェだもの」




 店内を見回したキャトリンヌが感心したように言う。ここのお店は、ジネベラのお気に入りの場所でもある。バーノと二人でよく来るようになっていた。お目当てはショートケーキ。バーノには「よく飽きないね?」と、呆れられたように言われたりもする。




「……オロール公爵家お抱え?」




 キャトリンヌに褒められたことで、気を良くしたジネベラは、ここのお店のパティシェは、元オロール公爵家で働いていた者だと教えた。するとキャトリンヌが一瞬、浮かない顔をしたような気がした。




「叔母さま? どうかした?」


「いえ。何でもないわ。じゃあ、あなたがお勧めのショートケーキを私も頼もうかしら?」


「ええ。ぜひ」




 ジネベラは、二人分のショートケーキセットを、店員に注文した。何度もバーノと二人で訪れているせいで、このお店の店員達とは、ほぼ顔馴染みとなっている。そのせいもあるのか、すぐにショートケーキが運ばれてきた。


 甘い香りを放つ苺が乗った、ショートケーキを前にしたキャトリンヌは目を見張った。




「美味しそうでしょう? 叔母さま」


「ええ」


「なんかね、アンジェが教えてくれたのだけど、このショートケーキには、先代公爵さまの思い入れがあるのですって」




 ジネベラがケーキにフォークを入れながら、正面の席に座るキャトリンヌを見れば、彼女の手は止まっていた。




「叔母さま。ショートケーキじゃなかった方が良かった?」


「……いいえ。頂くわ」




 その声が涙を含んでいるように感じられて、再びキャトリンヌを見たが、彼女は平然としていた。気のせいかと思い、ジネベラは親友から聞きかじったことを叔母に話した。




「わたし、アンジェに聞くまで知らなかったのだけど、ショートケーキって、この国では昔からあるものかと思っていたけど違ったのね?」


「アンジェってあなたが昨晩、話してくれたオロール公爵令嬢のことよね?」




「そうそう。わたしが5歳の頃に出会ったアンちゃんとチョロくん達のこと、叔母さまは覚えている? うちの屋敷に出入りしていた姉弟のこと。かなり前に話したことがあると思うけど」




「覚えているわ。チョロくんという名前が印象的で。その二人には私は会ったことがないけど、たしかナーリック医師のお孫さんじゃなかった? 違ったかしら?」


「そうよ。その二人。その二人がアンジェとバーノだったの。二人は従姉弟同士で、学園で再会したの」




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