第52話・浮かないキャトリンヌ
アンジェ達と出会った年には、キャトリンヌは海外にしばらく滞在していたので、二人には直接会ったことはない。でも、ジネベラやその両親から話は聞かされていたのもあり、その存在だけは気に留めていたようだ。
「あの頃のあなたは二人に会えなくなって、寂しがっていたものね。再会出来て良かったわね。そのアンジェちゃんは物知りなのね」
「アンジェはしっかりしているのよ。バーノも大人しそうに見えて、心強くて頼りになる子よ。二人ともわたしの自慢のお友達なの。そのアンジェから教えてもらったことだけど、ここのお店の一番人気のショートケーキは、オロール先代公爵さまが、ある女性を思ってパティシェに作らせたものなのですって」
「……!」
「オロール先代公爵さまは、初恋の女性の社交界デビューの時の、初々しさを忘れられなかったそうよ。このケーキはそれを現しているのですって。この白い生クリームは社交界デビューをする令嬢の白いドレスで、その上に乗る真っ赤な苺は、デビュー前で緊張して、人前に出て真っ赤に頬を染めていた令嬢の様子を現しているって聞いたわ」
そう言われてみれば、そのように見えなくもないわよね? と、ジネベラがキャトリンヌに説明をすれば、物事には何かしらのきっかけがあるとして、興味を示すはずのキャトリンヌの反応は薄かった。
「……そうだったの」
「叔母さま?」
「あ。何でもないのよ。私も年なのかしらね? 疲れ安くなったみたい。このショートケーキ、美味しいわ。特にこの生クリームが上品な甘さで最高ね」
浮かない様子のキャトリンヌを見て、どこか体の具合が悪いのかとジネベラは疑った。それを感じ取ったのか、キャトリンヌが微笑んでみせたが、どこか無理をしているようにも感じられた。
キャトリンヌとお店を出た後、ジネベラは道の向こう側からアンジェリーヌが品の良い老人と歩いてくるのを見つけた。こちらから声をかける前に、向こうも気が付き手を振ってくる。
「ベラッ」
「アンジェッ」
お互いに近づくと、アンジェリーヌは先代オロール公爵を連れていた。薬師長さまとお出かけの途中だったらしい。そのオロール先代公爵は、ジネベラと目が合うと謝罪してきた。
「薬師長さま。こんにちは」
「やあ、ジネベラ嬢。この間は済まなかったね。きみに不愉快な思いをさせて済まなかった。そちらの女性は……?」
エトワルの一件で謝罪を口にした薬師長は、ジネベラの連れであるキャトリンヌに目を留めた。
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