第49話・原因は七色モモンガでした


「当時は家族皆が驚いて、そのことを隠すのに必死だったから。見た目が変化するなんて悪魔付きだの、何だの批難されても仕方ない状況だったから、誤魔化すのが大変だったわ。お姉さまの異変を隠そうと地毛に似た色の鬘や眼鏡をつけさせたり、症状が治まるまで病弱設定であまり人に合せないようにしたりしてね。でも、本人はあまり気にしていなくて、家族の目を盗んで出歩いていたわ」


「へぇ。このヒロイン病って、100年に二人どころか三人もかかっていたのですね」


 祖母の行動は、この場にはいない幼馴染みを思わせた。思わずポロリと病名を明かしたジネベラだったが、キャトリンヌはくすりと笑った。


「この病はヒロイン病ということにしたのね? ナーリック医師らしいわ。まあ、見た目が変わるなんてそうそうないしね」


 その含みある物言いが、ジネベラは気になった。


「これは何が原因で、こうなるのですか? 叔母さま」

「七色モモンガよ。見た目はフクロモモンガのようだけど、体毛の色がとにかく派手なの。その七色モモンガが異様に興奮した状態で噛みつくと、その噛みついた相手は見た目が変化する。それはこの国から遠く離れたタミワガン王国で証明されているわ」

「七色モモンガ! なるほど……」


 さすが各国を飛び回っているキャトリンヌだ。情報に優れている。ジネベラは自分の症状が、何が原因で起きたのか分かった気がした。あのエトワルも確かにキミドリに噛まれていたし、後日バリアン家にやって来た時には、赤茶の髪に灰褐色の瞳をしていた彼女は、黄緑色の髪に桃色の瞳へと変化していた。


 アンジェリーヌも過去に、「サーモンちゃん」と、名付けたフクロモモンガに噛まれたと言っていた。

ジネベラ、アンジェリーヌ、エトワル。三人の少女の身に起きた変化の共通点は、七色モモンガに噛まれたせい。キャトリンヌの言っていることに、間違いはなさそうだ。


「それでその七色モモンガに噛まれると、何か体に害とかはないのでしょうか?」

「外見が変わるだけで何も無いわ」


 皆の前にお茶を置き、ジネベラの隣の一人掛けのソファーに腰を下ろした母は、向かい側の席で優雅にお茶を頂くキャトリンヌに聞いた。キャトリンヌは元高位貴族の妻だっただけあって、所作も品があって綺麗だ。離婚歴はあるが子供はいない。その事もあって、ジネベラやその母は可愛がられていた。


「見た目も自然と治まるわよ」

「良かった。あら、じゃあ、ナーリック先生は、この事実を知らない?」

「そんなはずないじゃない。彼は気付いていたと思うわよ。ただ、それを明かすと面倒なことになるから」

「面倒ですか?」

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