第48話・遺伝?

「ようこそ、キャトリンヌ叔母さま」


「マーサ。お世話になるわね。あら、ベラなの? 大きくなったわねぇ」




 エトワルの一件が落ち着き、学園が明日から長期休暇に入るという頃。バリアン男爵家に来客があった。白髪の品の良い老齢の貴婦人で、母親マーサの叔母にあたる御方だ。マーサの母親の妹で、ジネベラからみると、キャトリンヌは大叔母の立場だが、母親同様に叔母さまと呼んでいた。


 ジネベラの祖父母は父方、母方共にすでに亡くなっている。そのせいもあり、この聡明で優しい大叔母さまを実の祖母のように慕っていた。母も実母が存命中から、何かとキャトリンヌを頼っていたところがあるらしく、何も知らない人から見れば、実の母娘と誤解されるぐらいに仲が良い。




 キャトリンヌが乗ってきた馬車から、使用人達の手で荷物が客室へと運ばれていく。この時期になると、三年に一度の割合で、キャトリンヌはバリアン家を訪れていた。




 キャトリンヌは薬師だ。現在は商会を起こし、医療に関係する治療薬の他、美容薬を次々と生み出している女起業家でもある。他国とも取引があって、そちらにも支店を抱えているので、この国と取引先の国との間を行き来している。その為、この国で過ごすのは、一年の三分の一にも満たないらしい。


 毎日忙しいながらも、充実している生活を送っていると豪語するキャトリンヌを、ジネベラは尊敬していたし、自分の見知らぬ各国でのお土産話しを聞くのが楽しみだった。




 その彼女を母親のマーサと二人で出迎えると、キャトリンヌが聞いてきた。




「ベラ。あなた、その髪の色はどうしたの? 染めたわけではないわよね? 瞳も何か入れている?」




 やはり薬師であるせいか、キャトリンヌはそこが気になったようだ。応接間へと彼女を案内し、ソファーに腰を落ち着けてから、ジネベラは打ち明けた。




「ある日、突然、こうなったのよ。叔母さま。でも、お隣のナーリック医師に診て頂いたら、ある奇病になっているそうなのだけど……。あ、でも、しばらくしたら治ると言われたわ」


「そう」




 そう言いながら、キャトリンヌはじっとジネベラを見た。最近ではピンク色の髪色が段々と薄れてきて、元の黒髪がチラチラと髪の隙間から覗くようにはなってきた。瞳の方も光りの加減次第では、元の焦げ茶色に見えなくもない時がある。何となく自然に戻って行くのかも?と、ジネベラは思っていた。




「ナーリック医師の診察なら何も間違いはないと思うけど、何か不都合とか違和感とかはない?」


「大丈夫よ。叔母さま」


「……やはり遺伝なのかしらね?」


「遺伝?」


「あなたのお祖母さまも動物好きだったし、良く構っていて噛まれたりしたから……。一度だけあなたと同じ症状になったことがあったのよ」


「母も? そのような話、初耳ですわ。叔母さま」




 キャトリンヌの為に、自らお茶を入れていた母の手が止まっていた。母のマーサは初耳だったらしい。


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