第47話・懲りない人
それから数日が経ち。
バリアン男爵邸に招かざる客がやって来た。厚顔無恥にも、先触れもなしにエトワルは現れた。不意打ちで驚いたが、それよりも驚いたのは彼女の風体だった。彼女は黄緑色の髪に、ピンク色の瞳をしていたのだ。それは彼女の顔立ちには合わないばかりか浮いて見える。何かの罰かと思えるほど、おかしい組み合わせだった。
「あなた、やはり私に何かしたでしょう?」
「はあ? どうしたの? その姿」
「何をしらばっくれているのよ。あなたが何か持ったんでしょう?」
突然の訪問の上に、応接間に通した母を無視してジネベラを批難してくる。彼女の元の姿を知るジネベラは、笑い出しそうになるのを堪えていた。そのジネベラの隣で母は不快そうに聞いた。
「あなたはどなたなの? 名乗りもしないで」
「関係のないオバさんは黙っていて」
「まあ!」
礼儀もなっていないこの子は誰? と、ジネベラは母から目線で訪ねられた。
「薬草学科の元生徒さんよ。わたしのことを批難して退学した子」
「ああ。あの子ね」
「そんな話、今は関係ないでしょう? 早く元に戻しなさいよ。訴えるわよ」
「わたしは何もしていないわ。訴えるなら勝手にどうぞ。あなたが礼儀を弁えていたのなら、名医を紹介しても良いかなと思ったけど、その必要はなさそうね。お帰りはあちらよ」
ジネベラは、エトワルにはもう関わりたくなかった。学園を去ったのでもう顔を見なくて済むと思ったら、今度は自分の姿が変容したのは、ジネベラのせいだと決めつけて家に乗り込んできた。
これから先も、彼女は変わりようが無いのかも知れない。平民が貴族の屋敷に乗り込むなんて、常識的にあり得ないだろうに。
使用人達に促して、彼女を追い出そうとしたら、彼女は名医と聞いて、目の色を変えた。
「お願い。待って。お医者さま? 紹介して」
「そのような義理はないわ。お嬢さん。あなたにうちの娘は散々、嫌な目に合わされてきたわ。あなたの見た目が変わったのは神罰じゃなくて? あなたの家を救ったバリアン男爵家の恩を仇で返すような事をしたから、罰が当たったに違いないわ」
ジネベラは彼女に反省の色が見えたなら、お隣のナーリック医師を紹介しようかと考えていたら、母は違ったらしい。娘を不快にさせてきたエトワルを許す気はないようだ。
「お願いします。父達にも神罰が下ったと言われて修道院に行くように言われているんです。朝起きたら突然、こんな姿になっていて、何が何だか分からなくて。お願いです。お医者さまを紹介して下さい。そしたらもう、バーノくんには近づかないし、あなたに嫌がらせなどしないから──」
「お断りよ。厚かましい。先触れもなくやってきて、内の娘を犯罪者呼ばわりしたのよ。追い返して」
母の怒りの前に、ジネベラは何も口出しできずに終わった。エトワルは追い返され、しばらく門前で騒いでいたようだが、見かけた使用人の一人が彼女の実家に知らせると、両親が迎えに来て引きずるように連れて帰っていった。彼女の為には修道院に入った方が良いのかも知れない。そこで常識を学んでくるべきだと思っていると、父が帰ってきた。
「何かあったのかい?」
「あなた──」
玄関ホールで出迎えた母が、父に泣きつく。その母をよしよしと抱きしめながら何があったのかと母に聞く。
「非常識な子がやってきて、ベラを批難したばかりか、私に対してオバさんだなんて言ったのよ」
「オバさん? 失礼だな。どこのだれだい? それは」
父が目線で相手を訪ねてきたので、ジネベラは「エトワルさんよ」と、正直に応えて自室に戻った。両親はジネベラという大きな娘がいるのに、未だ恋人同士のように仲が良い。こういう時は空気を読んで、その場から離れた方が良いことを、ジネベラは経験から知っている。
母はエトワルの言った「オバさん」発言が気に障ったようだ。無駄に母の怒りを買ったエトワルは翌日、問答無用で女子修道院に送られたらしかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます