第36話・感謝してよね
「でも、そんなお金どこから……?」
オロール公爵家の別邸が建つくらいのお金だ。安くはない。バリアン家が10件建ってもまだまだ叶わない値段だろう。途方もないお金だったに違いない。バリアン家は貧乏ではないが、富豪でもない。ごくごく普通のありきたりの低位貴族。そんな祖父はどうやって大金を用意したと言うのだろう?
「バリアン男爵さまは薬学を究めていたから、その薬学で病や怪我で救った人々から献金があったらしいの。中には商人達や、隣国の王族の方までも協力してくれたと聞くわ」
「知らなかった……」
「今のバリアン男爵さまもそれを誇って言い回るような御方では無いもの。腰が低い御方ですものね。お祖父さまはそこが歯がゆく思われるようで、もっと堂々としていろと発破をかけているそうよ」
それではますます萎縮してしまうだろうなと、父の性格を思い、ジネベラは苦笑した。
そこにひらりとピンク色が視界を掠め、気が付けば耳元でモモが身じろぎしているのに気が付いた。
「モモっ」
「バーノ。いらっしゃい」
焦った様子のバーノが駆けつけてくるが、ジネベラの肩に乗っているモモを見て、あからさまに安堵した様子を見せた。バーノに連れられて来たモモが、勝手に飛んだので、公爵内でいなくなったら大変だと思ったのだろう。
「モモ。久しぶりね」
後ろ脚で立ち、ジネベラに顔を寄せてきたモモは頭を頬にすり寄せてきた。ここ最近のモモはジネベラにも心を許し始めたようで、バーノと共にいると、彼からジネベラへと良く飛び移るようになっていた。
「この間はねえさん、ありがとう」
「二人とも楽しめた?」
「ええ。アンジェ、お勧めのケーキ美味しかったわ。あ、そうそう、バーノからのお礼の品をもらった?」
「お礼?」
「わたしと色違いの髪飾りよ。バーノがねえさんに贈るならどんな色が良いかって聞かれて……」
洋菓子店を紹介してくれたお礼に、バーノがアンジェリーヌに何か購入したいが何がいいかと悩んでいたので、髪飾りはどうかとジネベラは提案していた。
ちょうど、アクセサリーショップに入った時に、可愛いアネモネの花の髪飾りを見つけて魅入っていたのもあり、それを勧めたのだ。そしたらアンジェリーヌと色違いになるように、ジネベラの分も彼は買ってくれていた。
「ベラ。まだねえさんに渡してないんだ。今日、渡そうと思って持ってきた」
慌てて服のポケットからバーノが、包装された紙包みを取り出し、アンジェリーヌに渡した。
「ありがとう。ねえさん」
「感謝してよ」
二人が目配せ合っていたが、ジネベラはたいして気にしてなかった。二人の仲の良さは分かっていたし、肩から腕の肘の辺りまでちょろちょろと行き交うモモが気になっていた。
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