第29話・あなた方は失礼です
「あの日、わたし達は拗れているお二人の仲の誤解を解きたくて、11年前の日の再現をしようとしたのです。でも、それをぶち壊したのは殿下の方です。殿下は真実を聞く耳さえお持ちのようではなかったようです。一方的にアンジェを批難し、そこまでして自分に関心を持たれたいのか? 最低だと批難されました」
「そのようなことが……?」
「あなた方はどのように殿下から聞いたのかは知りませんが結局、彼女が11年前の少女だと認められない殿下の為に元王宮医長にも証言して頂いて、ようやく分かって頂けたのです。そこまでしないと殿下は彼女を信じませんでした。しかも、婚約も王宮側から王命を使って承知させたのに、先代の公爵が無理強いして結ばせたなどと言って侮辱してきたのです。今までアンジェがどうしてそのことに目を瞑ってきたのか分かりませんか?」
「殿下は勘違いしていて。それに婚約が王命で結ばれたものだって?」
「何もご存じなかったのですか? 殿下のお側にいながら?」
「……」
責めるように言えば、オラースは呆然としていたが、気にせずジネベラは言い放った。
「あなた方は失礼です。どこまでアンジェを傷つけるのですか? 今まで殿下がアンジェにしてきたことを本当に反省して後悔しているのならば、彼女の意向に添ってあげて下さい。それが今まであなた方が彼女にしてきたことへの贖罪となるはずです」
「きみの言いたいことは分かったよ。でもね、殿下はあれから元気がなくて」
「それがどうしました? アンジェは今まで散々、あなた方に心ない中傷を受けてきたのですよ。もしかしたら口にしないだけで、他のご令嬢方からも殿下の婚約者という立場からやっかまれて、嫌がらせを受けてきたかも知れません」
「それは無いだろう。彼女は公爵令嬢だ。みな、自分の身の程を弁えている」
「それをあなたが言われますか?」
「どういう意味だい? きみだって一時、殿下と交流させてもらって光栄だと思っていただろう? それともあの女と付き合うようになって、私にそのような物言いをするなんてやや傲慢になってきたかな?」
オラースの「あの女」発言にジネベラは苛立った。彼はいつもそうだ。殿下の乳兄弟という立場が気を大きくするのか、アンジェリーヌを馬鹿にした発言をする。不快だ。
「それが本音なのですね。よ~く分かりました。先ほどのお話ですがお断り致します」
相手にするだけ無駄だと悟ったジネベラは、話を切り上げようとしたが、オラースが慌てて前言撤回してきた。
「いや、その。頼むよ。気に障ったのなら謝る。この通りだ。オロール公爵令嬢に取り次ぎを頼むよ」
「止めて下さい。わたしは高位貴族子息さまに、物言う立場にはなかったようです。失礼します」
「バリアン男爵令嬢」
踵を返しかけたジネベラだったが、彼と向き直った。
「わたしもあなた方を見習って、身の程にあった付き合いをするとします。自分よりも高位の貴族子女であっても、気に入らなければあの女呼ばわりして、馬鹿にしても良いんでしょう? 誰かに問われたなら殿下にお許し頂いていると言いますね」
嫌味を言ってやれば、オラースもさすがに気が立ってきたようだ。
「そんなことは言ってないだろう。一体、きみはどうしたって言うんだ? ずいぶんと変わってしまったな」
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