第28話・トリーフ伯爵子息オラースのお願い
「バリアン男爵令嬢。いま、帰りかい?」
「オラースさま?」
ジネベラが学園での授業を終えて、帰宅の為に玄関に向かおうとしたところ、思いがけない相手に呼び止められた。水色の髪に青い双眸を持つ、整った顔立ちの瞳をしたトリーフ伯爵子息オラースだった。彼はアヴェリーノ殿下の乳兄弟。
オロール公爵家側がアンジェリーヌとアヴェリーノ殿下との婚約解消を求めていると言う話は、昼食時にアンジェリーヌ本人から聞いたばかりだ。そんな中で声をかけてきたオラースに警戒が湧く。
「殿下から話は聞いたよ。きみは殿下の思い出の少女ではなかったって」
「その通りです。今まですみませんでした」
探るような目を向けられて、思わず謝ってしまったジネベラだったが、彼はそれを止めた。
「謝らないでいいよ。殿下はやや、思い込みが激しいところがあるから、逆に迷惑をかけて済まなかったね」
プライドが高くて、他人に頭を下げるのを良く思わなそうな相手からの謝罪に驚くと、彼は苦笑した。
「実はきみにお願いがある」
「わたしにお願いですか?」
「ああ。きみにしか頼めなくてね」
オラースは真剣だった。彼からの頼み事とは正直、厄介な気がしてならない。今まで彼らは散々、ジネベラを都合良く扱ってきたのだ。彼らの言い分など聞く必要も無いが、頼み事の中身が気になった。
「頼む。どうかオロール公爵令嬢に、アヴェリーノ殿下と会ってもらえるように、取り次いでもらえないだろうか?」
「それは……?」
オラースは拝み倒すように言ってきた。ジネベラは困惑した。アンジェリーヌは殿下との婚約解消を願い出るほどに、もう殿下への未練はなさそうだった。でも、殿下は思い切れてないと言うことだろうか?
「きみはオロール公爵令嬢と親しいのだろう? 最近、お昼休みに彼女と一緒にいるのを見かけるから」
「確かに親しくはさせて頂いております」
「それなら頼むよ。最近、オロール公爵令嬢は殿下を避けているようで、会ってもらえなくてね。どうか殿下の為に、彼女との仲を取り持ってはもらえないだろうか?」
「彼女が殿下を避けているのは、本人に会う気が無いからだと思います。殿下は彼女に会って何をするつもりですか?」
「殿下は後悔しておられる。思い出の少女がオロール公爵令嬢だったとは知らずに傷つけてきたことを。だから誠心誠意謝罪をし……」
「彼女を傷つけた自覚はおありだったんですね?」
ジネベラはみなまでオラースに言わせず、彼を睨み付けた。その態度にオラースは驚いたように目を見張った。今まで大人しい印象の彼女は、何でも自分達のいうことを聞くと思い込んでいたのだろう。
それが見込み違いだったことに今更、気が付いたようだ。
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