第26話・コクるって何ですか?
休み明けから、殿下がジネベラのいる教室へやってくることはなくなった。廊下で例の三人組を見かけることはあっても、殿下は目を反らし、あとの二人は不服そうにこちらを見ているので、殿下から詳細を知らされたのかも知れない。
クラスメート達からは、「彼女、殿下に振られたみたい」「大人しすぎて、飽きられたようね」などと陰口を叩かれたりしたが、ジネベラは以前ほど気にすることがなくなった。なぜならアヴェリーノ殿下から言い寄られなくなったせいで、以前のようにバーノとの昼食を再開する事ができたのと、そこに新たな仲間アンジェリーヌが加わることになったからだ。
ジネベラは今までクラスメート達の顔色を気にして過ごしてきた。彼女達と親しくなりたいとずっと思ってきた。でも、自分のことを良く知りもしないくせに、悪いように言われてしまうし、何をしても批難される。そんな相手と、無理して仲良くする必要はある? と、思うようになった。
そのように思えるようになったのも、アンジェリーヌ達の影響が大きいと思う。二人にクラスメート達とのことを相談したら、
「そんな人達、放っておきなさいよ。ジネベラの良さを知る人は他にもいるわ。わたくし達のようにね」
「時間の無駄だな。そういう奴を気にするだけ、自分の貴重な時間が奪われて勿体ない」
と、彼女達らしい答えが返ってきた上に、ジネベラの良さを分からない相手なんて無理して付き合うことも無い。自分達が付いているから気にするなと言われて、二人の優しさに涙が出てしまいそうなほど嬉しかった。
「ベラ。こっち、こっち。待っていたわよ」
「アンジェ。お待たせ」
中庭のベンチ前に敷かれたシートの上で、アンジェリーヌが渋い顔をしたバーノと待っていた。バーノの肩の上にはモモが乗っている。
「今日はね、張り切ってサンドイッチ作ってみたの」
「凄い~。これ全部、アンジェが?」
「ええ。料理長に教わりながらね。食べてみて」
「美味しい~」
ジネベラがシートの上に座ると、アンジェリーヌが自ら作ったという、ローストビーフサンドが入った器を差し出して来た。サンドイッチといえば、以前アヴェリーノ殿下はフルーツサンドを用意してくれていたが、あれは見た目が良くても何の味もしなかったと思いながら頬張る。すると素直に心からの賛辞が口を突いて出た。
具材が良いからではないと思う。友達が作ったせいか、とても美味しく感じられた。でも、バーノは不服そうだ。
「ねえさんが作ったというけど、料理長が選んだ食材をパンに挟んで切っただけだろう?」
「文句を言うなら、別に食べなくてもいいわよ」
バーノはモモに小さくカットした果物を与えながら、不服そうに言う。アンジェリーヌは眉を釣り上げた。二人の間で口喧嘩が始まりそうで、ジネベラは慌てた。
「アンジェは凄いと思うわ。ね、そう思うでしょう? バーノ。こんなに美味しく作れるなんて羨ましいわ。わたしなんか自分でお料理なんて出来ないし、自分で作ろうなんて思ったこともなくて。逆に恥ずかしい」
「ベラ。あなたはそのままで良いのよ。これはね、ヘタレなこいつが悪いの。こいつ、わたくしに八つ当たりしたのよ。あなたとの間に……」
「ねえさん!」
「なによ。こじらせ魔。早く告っちゃいなさいよ」
「コクる?」
アンジェが何か言いかけたのを、バーノが呼びかけて阻止しようとしていた。疑問を抱いたジネベラに、アンジェリが誤魔化すように笑いかけてきた。
「そのうちバーノから話があると思うわ」
「バーノ。話って?」
「あ、ベラ。その話はまた今度。なあ、モモ」
「そう?」
バーノに問いかけると、彼はアンジェを睨みながらもモモに話しかけていた。それを見てアンジェリーヌがニヤニヤしている。
二人の関係性は、11年前からずっと変わっていない。バーノは、あの頃も今もアンジェリーヌに振り回されていて、頭が上がらないようだ。でも、それが二人らしくて、ジネベラはくすっと笑いを漏らしたが、バーノの次の言葉で固まった。
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