第19話・殿下が11年前に出会った少女は……
数時間後。ジネベラはナーリック医師の屋敷を訪れていた。そこで落ち合おうと、アンジェリーヌと約束したのだ。ジネベラが到着した頃には、先にアンジェリーヌとバーノが客間に通されていた。バーノの制服のポケットには定位置のように、モモが入り込んで頭だけ出していた。
「懐かしいの。こうして三人が揃うのは、何年ぶりになるかの? 嬢ちゃん」
「11年ぶりです」
「もうそんなになるか。今日はどうした? その三人が仲良く揃って訊ねてくるなんて珍しい」
通いの家政婦さんにお茶の支度をさせると、ナーリックはジネベラに椅子に座るように促した。
ナーリックの屋敷の応接間は、上座にナーリック専用の一人掛け用の重厚な椅子があり、その前に置かれた長方形のローテーブルを挟んで、一人掛け用の椅子が二脚と、三人掛け用のソファーが向き合って置かれていた。
一人掛け用の椅子にはバーノが腰を下ろし、三人掛け用のソファーにはアンジェリーヌが腰を下ろしていた。ジネベラはバーノの隣の一人掛け用の椅子に座ろうとしたが、アンジェリーヌに手招きされたので、彼女の隣に腰を下ろすことにした。
ジネベラが席に着くと、バーノが切り出した。
「ベラから話は聞いた。爺さん、ヒロイン病って何だよ」
バーノは、ジネベラから聞いた話を疑っていたようだ。
「今のベラの症状は、11年前にねえさんもなったことがある。あの頃、爺さんはそんなこと言わなかったじゃないか?」
「いいや。その診断を下したら、頭でっかちクソ爺が嘘つき扱いしおったのよ。しかも、この症状は素人が見ても分かる。毒でも盛らないと、こうはならないだろう。と言いおって、早く毒の解明を急がせろと。その王宮医師長の肩書きはお飾りかとまで言われてのう」
ナーリックは忌々しいと吐き捨てた。それを見てアンジェリーヌが「祖父に代わってお詫びします」と、言ったことで、『頭でっかちクソ爺』とは先代のオロール公爵のことだと知れた。
その頃からナーリックと、先代のオロール公爵の間には確執があったようだ。と、ジネベラは思った。
「まあ、ヒロイン病については、文献にも残されてはいるが実態は謎じゃ。発症事態も詳しく書かれてはいない。恐らく何かの菌が人間の体に入り込んで変化すると思われるが、それが何を介して行われているのかも不明。分かっているのはしばらくすると治るということだけ。どうして治るのか、治る期間はどれぐらいかも不明。ただ、文献には、その症状になった女性達は若い女性ばかりで、その後、交際相手が出来た頃には、元の姿に落ち着いたとある」
「そこから爺さんは推測して、処方箋は真実の愛だと?」
「それで間違いはないと思うがの。どうじゃった? アンジェ」
ナーリック医師は、アンジェリーヌを見た。彼女は戸惑うように言った。
「わたくしの場合は、それには当てはまらないかと……。子供の頃の話ですし……」
いつもハキハキと話す彼女にしては反応が悪く、項垂れそうになっていた。ここまできてようやくジネベラは、殿下が11年前に出会った少女が、本当は誰だったのか気がついた。
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