第18話・二人とは幼馴染みでした
「バーノとは中庭で昼食を取っていた時に、彼が話しかけてきてくれたのがきっかけで仲良くなりました」
「そうなの。わたくしとも仲良くして欲しいわ」
「良いのですか?」
「もちろんよ。わたくしが愛称呼びを許すのは特別な人だけよ。家族以外で許す相手はなかなかいないわ。誇りなさい。バーノでさえ、ねえさん呼びですからね」
ジネベラがはにかむと、アンジェリーヌは微笑んだ。口で言うほど彼女が傲慢な性格ではないことをジネベラも感づいてきた。
「ねえさん。そのような上から目線の言い方は止しなよ。誤解を招くよ」
「別に誤解されようが構わないわ。これがわたくしだもの」
言い方を改めさせようとするバーノに、アンジェリーヌは、自分の発言で相手が気を悪くし嫌われるなら、それでも仕方ないと言い張った。
「ねえさんは頑固だからな。こんな性格、厄介に思うだろう? ベラ」
「そんなことないわよね? ベラ」
二人に同意を求められる。返事に困ったジネベラだったが、アンジェリーヌらしいと思った。
「アンジェリーヌさまはそのままで良いと思います」
「ほら、ごらんなさい」
ジネベラから同意を得られて、今にも高笑いしそうなアンジェリーヌに対し、ぐぬぬと押し黙るバーノ。二人の様子を見ていたジネベラは既視感を覚えた。アンジェリーヌも同じように感じたようだ。
「なんだかベラには初めて会ったような気がしないわ」
「そりゃあ、そうだよ。前に会った事があるから」
「「えっ?」」
アンジェリーヌが、ジネベラにどこかで会ったような気がすると言えば、バーノが思わぬことを言いだした。アンジェリーヌとジネベラは意図せず声が被る。
「二人とも忘れたの? 爺さん家に僕らが出入りしていた頃、会って何回か一緒に遊んだこともあるよ」
「ああ。思い出したわ。ハスティン爺さんね?」
「お二人とわたしが? ハスティン?」
二人とは、学園で会ったのが初めてと思っていたジネベラは聞き覚えのある名前が出て来て驚いた。
ハスティンとは、ナーリック医師の家名だ。そのナーリック医師の家で、二人とは会ったことがあると言う。
「ほら。思い出さない? 当時、僕らは5歳くらいの頃だよ。爺さん家で良くかくれんぼをして遊んだよ」
「かくれんぼ?」
ナーリック医師の家で、かくれんぼをして遊んだ覚えはある。でもあれは茶髪のやんちゃなお姉ちゃんと、それに振り回されているような弟の姉弟だったはずで──。
「アンちゃんとチョロくん? でも、あの頃と見た目が二人とも全然違う……」
「あの頃はねえさんに強要されて、大きめの茶髪の鬘を付けていたし、前髪でほぼ顔の半分は隠れていたから」
「なによ。わたくし専用の鬘を貸してあげたのに。色だって茶髪でお揃い。何が不満なのよ。実の姉弟のように見えたでしょう? ベラ」
「ええ」
確かにジネベラが覚えている姉弟の特徴は、二人とも茶髪だった。姉のリイは人懐こくて、弟のチョロはあまり口を聞かず大人しかった。
「でも、あのアンちゃんがアンジェさまだったなんて……」
「驚いたわ。あの頃に出会ったチイちゃんが、ベラだったなんて」
当時、5歳だったジネベラは、ナーリック医師から「チイちゃん」と呼ばれていた。幼い子によく付けられるあだ名だ。
そのナーリック医師の元へ、孫を名乗る子供達が遊びに良く来ていて、姉のアンが屋敷の庭でお人形遊びをしていたジネベラに「一緒に遊ぼう」と、声をかけてきたことから親しくなった。
あの頃のジネベラは、彼らが遊びに来るのを楽しみにしていた。
「それにしても良く分かったわね。バーノ。ベラがチイちゃんだっていつ、気がついたのよ」
「初めて会った時に分かったよ」
「……わたし、気がついてなかった」
バーノが幼い頃に出会っていた男の子だったなんて。ジネベラが申し訳なく思うと、アンジェリーヌが言った。
「ベラが分からなくても当然よ。それだけわたくしたちの変装が完璧だったってことね」
自信満々にウインクしてくるアンジェリーヌに、当時から彼女は全然変わっていなかった。それにしても驚くことがいっぱいありすぎる。
「バーノは、ナーリック医師のお孫さんだったのね?」
「うん。ベラは知っていたと思っていたけど?」
「それはアンちゃんと、チョロくんのことだと思っていたのよ」
「チョロというあだ名からしておかしいと思わなかった?」
「全然。気にならなかった」
バーノとジネベラのやり取りを聞いていたアンジェリーヌが、くすくす笑い出した。
「ベラらしいわね」
「ねえさんが変なあだ名をつけるから」
食ってかかりそうになるバーノの肩に、ジネベラの肩からモモがひらりと飛び移った。アンジェリーヌを威嚇するバーノを、まるで「まあ、まあ」と宥めてでもいるかのようだ。そこにアンジェリーヌが提案してきた。
「ねぇ、二人とも場所を変えて話さない?」
二人が幼馴染みと分かり、もっと二人と話したくなったジネベラは一にもなく賛成した。
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