第17話・もしかして……嘘ですか?
「その……、元に戻ったのは、やはり真実の愛のおかげで?」
「真実の愛? 何それ?」
「うちのお抱えの医師が、わたしは世にも稀なヒロイン病にかかっていて、処方箋には真実の愛が必要だと言っていたのですが……?」
ジネベラは頭の中に、好々爺としたナーリック医師を思い浮かべていた。アンジェリーヌとバーノは、怪訝そうに顔を見合わせている。
「何かそういったことを言いそうな相手に大体、見当がつくのだけど」
「僕も」
二人はコソコソと囁きあっていた。ジネベラには二人の会話は聞こえてなかったが、二人の反応からしてナーリックが言っていた事は、やっぱり眉唾ではないのかと疑い始めていた。
「あの、違うのですか?」
ジネベラは自分で話していて、恥ずかしくなってきた。ヒロイン病なんて、名前からして怪しい。しかも真実の愛が処方箋だなんて……。
ナーリック医師に騙された?
思わず項垂れそうになったジネベラに、アンジェリーヌは真摯に答えてくれた。
「本当のところは良く分からないわ。でも、経験者として言わせてもらうならば、放っておいてもそのうち元に戻るし、あまり気にしなくても良いと思うわ」
「……そうならいいのですけど」
突然の自分の外見の変化についていけていないジネベラは、いつ元の姿に戻れるか分からない自分の状況を恐れていた。するとアンジェリーヌは、思いがけないことを言い出した。
「いっその事、その変化を楽しんでみたらどう? こんな経験、生きていてなかなか起こることでもないと思うわ。それにあなた、良く似合っている。可愛いわよ」
「変化を楽しむ?」
ジネベラは、アンジェリーヌの発言に目から鱗が落ちる思いがした。突然、外見が変わってしまったことで、いつ元に戻るのかと気に病んでいたが、彼女はその状況を楽しめば良いと言う。今しか体験できないことだからと。
「ねえさん。また変なこと言い出して。誰もがねえさんのように考えられると思ったら大間違いだよ。誰だって突然、自分の姿が変わったら驚くし、一体、どうしてしまったんだろうと不安にもなる」
バーノがやや呆れたように言う。
「そう?」
「そうだよ。ねえさんとベラは違うからね。あの頃のねえさんは、見た目が変わってショックを受けているかと思えば、これでわざわざ変装する手間が省けたなどと言って、屋敷を抜け出して、平民の振りして屋台巡りをして楽しんでいたよね。僕はお供として連れ回されていた」
「だって皆が何かの病気を疑って、体はどこも悪くないのに寝台に寝かしつけようとするのよ。どこかで息抜きでもしないと、ストレス溜まりそうだったんだもの」
仕方ないでしょうと、アンジェリーヌは言った。彼女は公爵令嬢だ。一介の男爵令嬢でしかないジネベラとは立場が違う。アンジェリーヌの姿の異変に、公爵家の家族や皆が驚いて過保護になるのは仕方ないように思われた。
「それに楽しかったんだから良いじゃない」
「良くないよ。おかげで連れ回された僕は、ハラハラして生きた心地がしなかったよ。ねえさんに何かあったらと思って。それなのに護衛と僕を巻いて……」
「はいはい。わたくしが悪うございました」
「全然心がこもってない」
始めは二人の話を黙って聞いていたジネベラだったが、二人のやり取りを聞いていて可笑しく思えてきた。くすりと笑いを漏らすと、アンジェリーヌが聞いてきた。
「ねぇ、ベラはバーノと親しいみたいだけど、どこで出会ったの?」
「ね、ねえさん……」
にこにこするアンジェリーヌに、バーノがあたふたしだした。
「この子、見かけはこんなでしょう? 惚れる要素は皆無だと思うの。変に生真面目で融通が利かないし……」
「ねえさん」
止めようとするバーノを相手にせず、アンジェリーヌは問いかけてきた。ジネベラは自分と友達になってくれたバーノにとても感謝していた。アンジェリーヌは、バーノのことを弟のように思っているのだろう。彼の交友関係が心配なようだ。
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