第20話・11年前の真相

11年前、ジネベラと同じ症状に見舞われたアンジェリーヌは、バーノをお供に屋敷を抜け出して、王都でどういった経緯か分からないが、アヴェリーノ殿下に出会ったのに違いなかった。


そのアンジェリーヌが元の姿に戻ったのは、殿下との真実の愛が勝ったからだと、ナーリック医師は言いたいようだが、本当の所はどうだか良く分からない。




「殿下は11年前、噴水前広場で食べたアイスクリームの味を忘れられないようですよ」


「……!」




 アンジェは、ジネベラの言葉に弾かれたように顔を上げた。この場で殿下がその11年前に出会った少女に恋しているのだと暴露するのは、違うような気がした。その想いは本人達が、相手に告げるべき言葉だ。


 ジネベラとしては、殿下とアンジェリーヌが、すれ違っているような気がしてじれったく感じられた。恐らくバーノも同じ思いだと思う。


 殿下が人違いをしている事に気がつき、殿下に向かって「運命の相手は他にいる」と言ってアンジェリーヌの存在に、気付かせようとしていたくらいだ。




「でも、わたくし達の婚約は、殿下の贖罪によるものだもの」


「贖罪?」


「わたくしが殿下と王都を回った時に、派手に転んで膝に怪我をしたのが原因なの。そのことでお祖父さまが激高されて、陛下に孫娘が傷物になった、どうしてくれる?と、乗り込んだせいだと聞くわ」




 悲しそうな顔をして打ち明けたアンジェリーヌを前にして、バーノは天を仰いだ。




「あっちゃあ、やらかしているな。前公爵さま」


「あいつは昔から傲慢なところがあった。だからかみさんにも逃げられる」




 ナーリック医師は、腕組みして頷いた。


ジネベラはまた、知らなくても良い情報を聞いてしまったと思った。口を閉ざすしかない。




「でも、もう良いわ。諦める。初恋は実らないと聞くけどそうだったみたいね」


「そんなこと言わないで。アンジェ」




 潔くアンジェリーヌが言い放つ。ジネベラはせっかく二人が想い合っているのに、第三者達の変な横槍で状況がおかしくなっているように思われて、非常に残念に思った。この頃にはアンジェリーヌが、幼馴染みだったと知り、打ち解け合ったのもあり、敬称はなしで愛称を呼ぶようになっていた。




「ありがとう。ベラ」


「ねえさん。まだ望みはあると思うよ」


「う~ん。悩むところね」




 アンジェリーヌは、戸惑う様子を見せた。ジネベラは拗れた殿下との仲を、どうにかしてあげたい気持ちになっていた。




「ねぇアンジェ。その11年前を再現してみたらどうかしら?」


「再現?」


「ええ。11年前の姿で再び、殿下の前に現れるの」


「それは……」


「ねえさん。僕もベラの案、良いと思うよ。殿下も11年前に出会った少女のことを覚えているし、ここでその姿で現れたねえさんを見たら、はっきり間違いに気がつくと思う」


「……お試しに実行してみるのも有りかもね。じゃあ、さっそくピンクの鬘を用意しないとね」




 始めは気乗りしなそうなアンジェリーヌだったが、ジネベラとバーノが押したせいかやる気が出たようである。幸い、数週間後に学園の記念日で休日があるので、その日に決行することが決まった。


 三人で盛り上がるのを、ナーリック医師は穏やかな笑みを浮かべて見守っていた。


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