第15話・あのふたりのご関係は?


 収拾がつかなくなってどうしようかと思っていると、「殿下」と、声をかけてきた者がいた。オロール公爵令嬢だった。


「アンジェ」

「こちらにいらしたのですね? 学園長先生がお呼びです」

「そうだった。話があると言われていたのを忘れていた。いま行く」


 アヴェリーノ殿下は、アンジェリーヌにありがとうと言うと踵を返しながら言った。


「ベラ。また後でね。あの日の事をきみは忘れてしまったの? でも僕は諦めないよ」


 殿下は意味ありげに言い残し去った。その殿下の背を見送ってからアンジェリーヌが聞いてきた。


「バーノ。何かあったの?」

「ああ。ねえさん。殿下は誤解している。11年前、出会った相手がベラだと思い込んでいるようだ」

「そう……」


 ため息を漏らしたオロール公爵令嬢に、バーノは親しげに話しかける。二人はかなり親しそうだ。ジネベラは青ざめた。


「あの、バーノって……オロール公爵令嬢とは、ご姉弟なの?」


 二人の会話から予想される関係性を口にしたジネベラだったが訝った。オロール公爵令嬢は、公爵家の一人娘だと両親から聞いている。他に兄弟がいるなど聞いたこともない。

それでもバーノがもしも、公爵家に関連した家柄の者だったとしたら、それを知らずに友達として見ていた自分は、失礼に当たらないかと不安になってきた。


「違うよ。僕らは従姉弟だよ。アンジェリーヌ(ねえさん)の父と僕の母が兄妹でね。でも、母が病弱だったから何度か公爵家にお世話になって……、ねえさんとは幼馴染みと言うか、体の良い下僕と言うか、一応姉弟のように育ったから……」

「下僕とは何よ。わたくしはあなたを弟のように可愛がってきたのに。失礼しちゃうわ」

「いや、だってねえさんはお転婆でいつも余計なことばかり首を突っ込んで、それに付き合わされてきたからね」


 二人は従兄弟同士と言うが、親密さが感じられた。兄弟では無いと言うが、親同士が兄妹ならばバーノは公爵家に準じた身分の子息では……? と、ジネベラはますます不安になってきた。


「ベラ、どうした?」

「お二人が従姉弟同士と言うことは、バーノは高位貴族のご子息さま?」

「気にしなくて良いよ。僕はただの子爵子息だから」

「子爵子息?」


 公爵家のご令嬢を母親に持ちながら、子爵子息とはどうことだろう? この国では高位貴族の婚姻は、政略結婚が当たり前。高位貴族同士、婚姻を結ぶのが常だ。


「うん。先代の公爵さまが気に喰わない下位貴族の息子と母が恋に落ちてね、怒った公爵さまが別れなければ勘当すると言ったんだけど、母がいざ父と駆け落ちしたら、泣きながら帰っておいでと懇願したらしい」

「叔母さまは溺愛されていたものね」

「ねえさんだってそうだろう?」

「わたくしは叔母さまに外見が似ているから、身代わりのようなものよ。三年前に叔母さまがお亡くなりになってから、その傾向が強くなったわ」


 最悪だとアンジェリーヌは苦笑する。公爵家の知られざる内情を聞いてしまったジネベラは、口を閉ざすしか無くなった。そのジネベラの肩の上を、モモが忙しなく動き回っている。それにアンジェリーヌが目を留めた。

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