第14話・僕らは運命で繋がっている


「ベラ。やはりきみだった。僕はきみを捜していた」

「……?」


 殿下はジネベラの両手を取る。ジネベラは肩に乗るモモと共に殿下を注視した。


「僕の気持ちはあれからずっと変わっていない。僕と結婚してくれるね? ベラ」

「へっ?」

「ちょっと、お待ち下さい。殿下」


 殿下からの突然の求婚に、戸惑うジネベラに変わってバーノが割り込んだ。


「あなたさまには、確かオロール公爵令嬢という許婚がおられたのでは?」


 そうだ、そうだと無言で頷くジネベラを無視して、殿下はバーノをねめつけた。


「きみは誰だ? 彼女とはどのような関係だ? 邪魔するな」

「僕は薬草学科一年のバーノと申します。ジネベラ嬢の友人です」


 バーノが友達認定してくれたことで、ジネベラの心は歓喜に沸いた。学園では一人孤独を感じていただけに、彼が人前でも友人と言い切ってくれた事が純粋に嬉しかった。


「友人? それなら邪魔しないでくれるか? 僕らは運命で繋がっている」

「……?」


 殿下の言い出した運命の相手と言う言葉に、ジネベラが首を傾げていると、バーノが不満も露わに言った。


「殿下の運命のお相手ならすでにおられるでしょう?」

「他に? 誰のことを言っている?」

「アンジェリーヌさまですよ」

「アンジェ? 彼女は政略結婚の相手なだけだ。もともと僕には心に決めた人がいた。それがここにいるベラだ」


 殿下と睨み合っていたバーノが、ジネベラに確認するように聞いてきた。


「きみは殿下と知り合いだったのかい?」

「いいえ。殿下にお会いしたのは、学園に入ってからよ」


 それを聞いていた殿下が否定する。


「そんなはずはない。きみと僕は11年前に会っている」

「11年前ですか? わたしが5歳の頃? 覚えはないです」


 その頃のジネベラは、いつも自分の屋敷周辺で遊んでいたし、実家は下位貴族なので何かない限り王宮に近づく事も無い。殿下のような地位の高い人に会えば、いくら当時5歳の子供だったとは言え、記憶に残るはずだ。


「きみとは王都で会った。きみは一人の少年を連れていた。噴水前広場で、二人で食べたあのアイスクリームの味を、僕は未だに覚えている」

「それはわたしではないと思います。王都には学園に入るまで来たことはありませんでしたし、その頃は領地で暮らしていましたから」

「嘘だ。忘れているだけだろう? きみは肩にそのフクロモモンガを乗せていたじゃないか。しかもその髪色。あの頃と全く変わらない」


 殿下は11年前に出会った少女が、ジネベラだと決めつけているようだ。助けを求めるようにバーノを見れば、彼は何やら思案していて「嘘だろう」と、呟いていた。


「絶対にあれはきみだった」

「違います。どなたかとお間違えだと思います」


 ここにきてジネベラは謎が解けたような気がした。殿下は、ジネベラがピンク色の髪をしていたから目を留めただけなのだ。11年前に殿下が会ったと言う少女がピンク色の髪をしていたことで、それがジネベラに違いないと思い込んでしまったのだろう。完全に人違いだ。


 ジネベラは本来、黒髪だった。もとからピンク色の髪をしていたわけではない。この時点で殿下は別人のことを差していると気がついたが、殿下は頑なに認めたくなさそうだった。

 モモはジネベラの肩の上に大人しく乗り、器用にも後ろ脚で立ち、皆のやり取りを聞いているかのようだった。

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