第13話・ピンクのフクロモモンガ
その日の下校時。
珍しくも殿下達が「帰りに何処か寄って帰ろう」とジネベラを誘いに来ることはなかった。昼間に婚約者と顔を合わせて多少は気まずいものを感じたのだろうか?
これからもそうであって欲しいけど……等と思いながら、ジネベラが校門に向かっていると、視界の隅にピンク色のものが映り込み、気がつけば頬に生温かな何かが張り付いていた。
「うっきゃあ!?」
驚くジネベラのもとへ、「モモ~」と、言いながら駆け寄ってくる男子生徒がいた。ボサボサの灰色の髪に丸い黒縁の眼鏡。相手を認識した途端、ジネベラの胸が高鳴る。
「すぐにこの子を引き離すから。きみ、しばらくそのまま留まっていてくれる?」
彼はジネベラの頬に張り付いた存在をすぐに外してくれた。それは彼がいつも制服のポケットに入れて連れ歩いている、フクロモモンガのモモだった。
「バーノ」
「……ベラ?」
ようやく会えた彼に呼びかけると、モモを引き離すのに夢中だった彼は、マジマジとジネベラを注目してきた。
彼は探るように聞いてくる。そう言えばこの見た目になってからは彼に会っていない。別人と思われていたようだ。
「そうよ。わたし」
「どうして……?」
「分からないの。ある日、突然この見た目になって……」
呆ける彼の肩の上に乗り上がったモモは、器用にも後ろ脚で立ち、赤いリボンを巻いた首を持ち上げて主人の顔を見上げていた。
一見掌サイズの小さなリスのような外見をしたモモは、桃色の体毛に覆われ、薄い飛膜を脚の間に隠している。
バーノ曰く、モモは「フクロモモンガ」という小動物らしいが、桃色の体毛に覆われたモモンガは希少なようだ。変種ではないかと言っていた。そのモモは、バーノ学園の裏の林の中で猛禽にでも巣が襲われたのか、赤子の頃に落ちていたのを、見つけて保護していたそうだ。
普段は大人しくバーノのポケットの中に忍び込んでいるが、お昼休み時間になると、彼の制服のマントのポケットからひょっこり顔を出す。それが愛らしく思われて一度、モモに触れさせてもらったことがあるが、機嫌を損ねたらしく噛まれてしまっていた。
「それで──」
「ベラッ」
ジネベラは自分の身に起きた事をバーノに説明しようとしていたら、殿下が走ってこちらに向かって来た。モモは突然の大声に驚いたようで、バーノの肩からジネベラの肩に移ってきた。
「ピンクのフクロモモンガ? それは……」
殿下はジネベラの肩に注目すると、微笑みを浮かべた。
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