第12話・アヴェリーノ殿下の許婚
「この女が親切?」
「庇う必要は無い。本当は嫌な事されただろう?」
オラースとベヤールは、何が何でもオロール公爵令嬢を悪者にしたいらしい。
「いいえ、いいえ。何もされていません。その様な言い方は公爵令嬢に失礼です」
ジネベラは、高位貴族に目を付けられたなら吹けば飛ぶような実家を思い浮かべて、首をぶんぶん振り続けた。アンジェリーヌがその態度に目を丸くする一方で、殿下は深いため息を漏らした。
「二人ともその辺で良いだろう。ベラが何事もなかったと言っているのだ」
「でも、殿下……」
「この女はですね、こうみえて……」
「止めてくれ」
アヴェリーノ殿下に止められて、オラースとベヤールの二人は、不服そうにしていたが押し黙った。
「きみを疑って悪かった。アンジェ」
「いいえ。殿下。分かっていただけて良かったですわ。許婚の仲だというのに、お互い相手を疑ってかかるのは悲しい事ですもの」
ここで新たに知った事実に、ジネベラは目を剥きそうになった。第3王子殿下に許婚がいるとは聞いたことがない。でも許婚という立場なら、ジネベラのことを良く思わないのは当然だ。批難されても仕方なかったのだ。
「ベラは知らなかったよね? 僕達の婚約は幼い頃に決まったもので、高位貴族達には通達されているのだけど、公に公表するのを控えていたから……」
「オレ達は認めてない」
「先代オロール公爵が無理強いした婚約など。陛下もかの御方には頭が上がらないから、渋々認めたようなものだ」
「オラース、ベヤール。止めろ」
ジネベラの一人だけ話しについていけてない感じを読み取ったのか、殿下が説明してくれた。でも、側近二人はこの婚約を快く思ってなさそうだ。殿下が二人に注意すると、アンジェリーヌはジネベラに近づいてきた。
「ではわたくしはここで失礼致しますわ。バリアン男爵令嬢、迷惑をかけましたね」
「いえ、とんでもないことでございます」
深く頭を下げたジネベラの耳元で、アンジェリーヌは囁いた。
「ありがとう庇ってくれて。嬉しかったわ。借りは必ず返すわね」
「……?」
頭を上げると、微笑む彼女と目があった。
「あなたのこと、ベラと呼んでも良いかしら?」
「あ。はい」
「じゃあね、ベラ。またね」
殿下達のことなど目にも入ってないような態度で、彼女は手を振り去って行った。
「ジネベラ、あの女狐には気をつけた方が良い」
「……?」
殿下の乳兄弟であるオラースや、ベヤールは彼女を忌々しそうに睨み付けていた。彼らは彼女のことを良く思ってなさそうだ。
始めはアンジェリーヌ嬢を良く思わなかったジネベラだったが、彼女が殿下の許婚だと知り、彼女の立場を思えば、自分は批難されて当然だと思ったし、去り際の彼女の笑みに当てられたせいか、さほど悪い人には思えなくなっていた。
「殿下からは話は聞いている。オレ達は二人のことを応援するよ」
「……?」
「あの女には邪魔させないからな」
「……??」
オラース達は快く応援していると言ったが、ジネベラには何の話か全く見当が付かなかった。
「安心して良い。きみのことは僕達が必ず守ってみせるから」
「はあ?」
殿下も変なことを言ってきた。ジネベラの頭の中は疑問符ですぐにいっぱいになる。困惑するジネベラにオラース達二人は、「大丈夫だ。自分達がついている」と謎の励ましを送ってきたが、ジネベラは深入りしたくなく頷くだけに留めていた。
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