第2話・彼らには逆らえません
「さあ、殿下。昼休み時間が無くなりますよ」
「そうだな。ベラ、行こう」
オラースに促され、頷いた殿下は有無を言わさず、ジネベラの腕を取った。ジネベラはビクッとした。殿下には一方的に言い寄られ、勝手に愛称呼びまでされている。このことでクラスメート達には、殿下を誑かしていると誤解され、妬まれまくっている。
ジネベラを愛称で呼ぶのは家族や、唯一の友人であるバーノぐらいのもので、殿下にはやめてもらいたいが、それを止めてもらう術がなかった。
ジネベラは、彼らに逆らえなかったのだ。元来の人見知りの性格が邪魔している上に、自分は低位貴族の娘でしかない。彼らのような高位貴族や王子に下手に反論などして、何をされるか分からないと言った、恐れのようなものがあった。
殿下に無理矢理連行されながら、振り返った先にバーノの姿はもうなかった。
「今日はフルーツサンドを用意してもらった。滅多に口にする機会のない南国のフルーツを、生クリームと一緒にパンにサンドしたものだよ」
東屋にジネベラを連れてきたアヴェリーノ殿下は、席に着かせると「遠慮無く召し上がれ」と勧めてくる。この国では珍しい南国のフルーツを、きみの為にサンドイッチにしてもらったと、言われてもちっとも嬉しくなかった。ジネベラにとっては、物珍しいフルーツサンドよりも、大切な友達との交流の方が数倍大事だったのだ。
──今日もバーノと話せなかった……。
殿下が差し出して来たフルーツサンドを受け取り、やけくそぎみに頬張ると、殿下がにこにこと笑いかけてくる。
「美味しい?」
「え? あ……、はい」
「料理長にお願いしたかいがあったよ。なかなか手に入れにくい南国のフルーツを、サンドイッチにするなんて出来る者は限られているからね」
「……ありがとうございます」
殿下の言葉が嫌味に思われてならない。所詮、きみの家ではこのような高級な食材を、食事に取り入れる機会など滅多にないだろう? と馬鹿にされたように感じられてしまう。
以前の彼らには、視界に入れるのも不快とばかりに散々、見下されてきたのだ。今更だが何を言われても、本音は違うところにあるのではないかと疑ってしまう。
それでも食べ物に罪は無い。美味しいフルーツサンドに取りあえずお礼を言えば、殿下は満足そうに頷いた。ジネベラは砂を噛むような思いで、フルーツサンドを黙々と食べ続けるしかなかった。
──どうしてこんなことになってしまったの?
と、内心嘆きながら、あの日突然に自分の身に降りかかった出来事を思い出していた。
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