💊世にも稀なヒロイン病になってしまいました~処方箋は真実の愛って嘘でしょう?!~

朝比奈 呈🐣

第1話・麗しの三人組に目を付けられています

 カランカランカラー……ン


 校内に授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く。待ちに待ったお昼休み。ジネベラは持参したお弁当箱を持っていそいそと廊下に出た。校舎の二階の教室から階段を降りて目指すのは中庭。季節の花々が咲き乱れる花壇を前にしたベンチで、昼食を取るのが定番となっていた。

 一階の玄関口で、上履きから外履きに履き替え、中庭へと向かえば、目的のベンチで背を丸めて腰掛けている男子生徒を見つけた。


 彼の名はバーノ。薬草学科の1年生。制服の上から薬草学科の生徒を示す、黒いローブを羽織っている。分厚い丸型レンズの黒縁眼鏡をかけた彼は、身だしなみには無頓着なようで、長髪の灰色の毛は常にボサボサ。艶がなくいつも無造作に組紐で括って背中に垂らしていた。

 その彼に向かって、ジネベラが駆け寄ろうとした時だった。


「バ……」

「ベラっ。見つけた! 何処へ行くの?」

「……!」


 背後から肩を叩かれてギョッとした。


「で、ででででで殿下……(出た!)」

「そんなに驚くこと?」


 振り向くと、金髪に碧眼の美少年アヴェリーノ殿下が小首を傾げていた。聖堂の天井画に描かれているような、天使のような見た目をした殿下は麗しかった。殿下には連れがいた。

空の色をした水色の髪に、深海の深い青い色を思わせる瞳をした、眉目秀麗なトリーフ伯爵子息オラースと、赤銅色の髪に焦げ茶色の瞳をした端正な顔立ちで人目を惹く、リスチド伯爵子息ベヤール。

 殿下が天使なら、オラースは天井画に描かれる神官のような冴えた美貌の持ち主で、ベヤールはその二人を守る護衛官のように凜々しい見目をしていた。


 アヴェリーノ殿下は、この国ランメルト国の第3王子。陛下が溺愛する側妃の息子で、オラースとは乳兄弟の仲。ベヤールは父親が側妃の近衛隊長を務めている関係で、幼い頃から二人は殿下の遊び相手として交流があったと聞く。その三人は学園でも仲が良く、共にいることが多かった。

 その為、女子生徒からは「麗しの三人組」と、称されて注目されていた。彼らは2年生で、ジネベラより一学年先輩にあたる。


「失礼しました……」


 ジネベラが慌てて頭を下げると、殿下は「構わないよ」とくすりと笑った。


「薔薇の妖精のようなバリアン男爵令嬢でも、そのような反応をするんだね」


 親しみが持てると、トリーフ伯爵子息オラースが言えば、リスチド伯爵子息のベヤールも、「右に同じく」とウンウン頷いた。


「ベラ。探したよ。教室に迎えに行ってもいないから何処へ言ったのかと思った。今日はね、東屋に場所を取ってある」


 ジネベラは、苦笑いを浮かべつつも、ここは穏便にお断りをしようとした。


「と、とんでもない。わたくしめのような者が、殿下と一緒にお昼だなんて……。恐れ多くて……、ご遠慮申し上げます」

「ベラはいつも謙虚だね。そこが良いよ」

「バリアン男爵令嬢は、素直というか、他の女生徒達のように打算がない」

「そうそう。そこが良い」


 いつもこの3人は、ジネベラの発言を自分達の都合の良いように湾曲する。彼らは女子生徒に人気があることを自覚している。その為、たちが悪い。自分達に誘われることは光栄であると信じていて、ジネベラが嫌がっているなんて夢にも思わないようなのだ。

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