第24話
これがあの事件の全てのあらましです。まだ解明されていないところも多くある。二人の視点で絞ってみても判らないことだらけだ。でも、どうですか?生存者達が全てヒトガタだなんて巷では騒がれているようですけど私が患者から読み取った記憶では、そんなこと絶対にあり得ません。特に少年に関しては絶対に違う。だって二体のムクロから獲物として狙われているんですよ。なのに、ヒトガタと疑われ糾弾の対象にされるなんておかしいじゃないですか。
え…。それが本当ならば少年を人身御供に差し出せと?居るだけでムクロに狙われて周りに迷惑が掛かるから?もし近くに居たら迷惑料として大金をせしめてやる?
そんな、…それが貴方の本意なんですね。そんな顔をしても無駄です。私は精神感応者だと最初に断ったではありませんか。近くに居るだけで、貴方の気持ちが伝わってしまう。
待って下さい。開き直らないで欲しい。だって、それでは年端もいかない少年に向かって死ねと仰っているようなものですよ。それでも良いんですか?
そんな顔をしても無駄だと言ったはずです。誰も私の前では嘘はつけない。だから、よく考えて下さい。事の発端は機構軍が始めた大虐殺事件だ。ムクロはそれに便乗しただけ。あれさえ無ければ今頃彼らは平和に学校へ通えた!巷で起きている自殺も生存者たちの口封じを兼ねていると思いませんか?だっておかしいじゃないですか!自殺した人々は全員、記憶を様々な理由で消さなかった人達だ!
席に座って。お願いです。貴方を糾弾したいわけではない。声を荒げたことは謝ります。
でも、よく調べて下さい。これは誰でも閲覧できる開示情報から分かることですよ。一般人でも調べられる。それを警察の発表を鵜呑みにするなんて。記者も関係者が証言するにはなどと、情報源を文章で誤魔化し、記事にして真実を隠匿しないでいただきたい。これは流れ作業で出来る仕事じゃないんだ!分かっていますか?
…二体目のムクロも医師と少年を殺したら、人類を根絶やしにしてやると言っていた。なら危害を加えたら敵の怒りを買い、今の戦況はもっと悪くなる。そうは思いませんか。機構軍はそれを狙っている可能性さえある。
何の為に?それを調べるのは貴方だ。隠された真実を正確に伝える。ジャーナリストとは、そういう仕事ではないでしょうか。
機構軍については、こちらも憶測の域でしか話せません。奴らはオリジナルを執拗に狙っていた。もしかしたら新たな生物兵器を作ったのかもしれない。それかムクロに勝つ為の何らかの手段を手にいれた。軍内部の権力闘争の道具にされた可能性だって捨てきれない。仮定はいくつでも思いつきますよ。それぐらい力があり、大きな組織だ。
私は…そんなに偽善者ですか?せめて私の発言を元に裏取りをして下さい。多くの情報を比較、精査、検討して真実を見つけ出す。それが本来のメディアの正しい姿勢ではありませんか。それとも真実を捻じ曲げてでも自分と自社の偏見や思想を文章にすれば良いのですか。一般人はまだ許せますよ。例え視野が狭くても。たった一つの記事を読んだだけで、全て判ったふりをしていても。でも私達のようにプロとして仕事をしている人間はプライドがある。お金も大切ですけど、お金の為だけで仕事をしているわけではない。貴方も私も。私はそうだと思いたい。そうでしょう!?
はい。十分に落ち着いています。機構軍がそんな事をしない。全てはムクロのせいだと、そう仰るのですね。そうかも知れません。私は貴方に判断材料を増やすことしか出来ません。自分で調べてみていただかないと。これが後から異能者による洗脳や言葉巧みに誘導されたなどと言われてしまったら、立つ瀬がないと思いませんか。
だから私が言いたいのは、そんな些事ではない。
俯瞰した視点を持って欲しい。人間の倫理感が感情で左右されるのは判ります。でも合理主義や同調圧力の名のもとに頭の悪い奴らが考えた滅茶苦茶な論理で、ルールが無意味になってしまったら、殺人や私刑さえ許されることになる。人類には似たような時代が何回もあった。今が大事と言うなら昔を学ぶべきだ。駄目な例を知ってこそ今に活かせる。何度も昔と同じ過ちを繰り返しておいて現代人が進歩しているなんて、私には到底思えない。歩む方向が後ろ向いていますよ。はあ、言葉遊びも通じませんか。
貴方は業界の中で、一番頭が良いと思っています。頭が良い人間は他者を無闇に傷つけません。だって、そうでしょう。リスクの観念をお持ちなら、先々に恨みを買う事が愚かしい行いだと判る。敢えて喧嘩を売り、信念を貫く場合は別としてね。先が読めるとはそういう事です。そして貴方は昔をきちんと学び、新しい発想をお持ちだ。違いますか?
私が何故、この話を伝えたのか。意味を是非、汲み取っていただきたい。
はい。考えて下さい。良い返事をお待ちしています。ですが本日中ではないと、連絡が一切取れなくなりますから、それだけはご承知おき下さい。
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