第9話 義弟のストレージは私を励ます言葉で埋まってる
「姉貴、上機嫌だね」
真顔で見入ってくる航に今までの経緯を話した。岩瀬さんに一時期、「むくみ様」とまで言われていたことを話すと、航は酷いね、酷過ぎると呟いた。
いつもと違い過ぎる優しい言葉に思わず思いっきり照れてしまう。
「女の子に言う言葉じゃないよねー、アラサーですけど」
茶化したら、そこじゃない、と言った。卵型のつるんとした顔がいつになく真剣だった。
「姉貴が言い返せないと思ってたんだよ、その人は。こいつになら何言ってもいいって。足元見てるんだ。そんなの本当はおかしい。傷つけて良い人なんてどこにもいないんだよ」
傷つけて良い人なんていない。
「あんた、昔のドラマとか観るの?」
俺のストレージはアニメで埋まってる、とそっけなく返された。
そう、こういう話。こういう話を私は王子としたかったのだ。自分の考え、自分の気持ちを自分の言葉で。
でも、王子は優しいし、悪気がないことも分かる。頑なに本のタイトルで私と話すのも、そこまでして私とコミュニケーションを取りたいということは、自分にそれだけ心を開いてくれているんだという優越感もぶっちゃけ、ある。
何より、ちゃっかりそれに乗って浮かれている私が言えることじゃない。
「姉貴」
振り向くと、航が同じ立ち姿でいた。
「男、いるんだろ」
思わず慌ててしまった。
「親の影響で、いろいろ分かるんすよ。化粧の変化とかね。香水もすぐわかる」
「なかなかな小6男子だよね」
「これやるよ。あとで歌詞カードで補完して」
いきなり折りたたまれた半紙を渡された。
「は?」
「あとさ、もう少しおふくろに優しくしてやれよ。ああ見えて一生懸命なんだよ。ちょっと見当違いなだけで」
「あんた、いつもママって呼んでるじゃん」
やっとの思いでそう返すと、そっけなく呟かれた。
「察してくれや」
部屋に戻ったのを確認して、折りたたまれた半紙を開いた。
〈心配ないからね〉
必ず最後に愛は勝つ、か。急に優しく励まされたことが逆に悔しいなんて少女漫画じゃんか。そう思っているうちに、少し楽になってベッドについた。
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