第7話 師走に届いた「あけおめ、ことよろ」
家に帰ると美和さんは笑顔で迎えてくれた。実家には連絡しないから、と温情のように言われた。クビになったらどうしよう。
どこまでも半端もので情け無い私は、いつもより少しだけきちんとした笑顔を張り付けて、美和さんに曖昧に会釈した後、階段に向かった。
リビングに目をやると、航の書初めが飾られている。連結式のハンガーで吊るされていて、感心するくらい達筆な字だ。提出するのは三日目だと義理の弟は言っていた。
「見て見ぬふり」と「四面楚歌」が仲良く縦に並び、エアコンの風に揺らされている。
部屋に着くと、憂鬱がどっと押し寄せる。それでも悩んでもしょうがないと思い、ベッドに就くと、片岡君からLINEが来た。
「あけおめことよろです」
「まだ十二月の三十日だよ」
「てか、だいじょぶですかー」
「あんまり」
「困ったなー」
「どうしたの、そろそろ寝たいな」
「いや、丸山君がLINE聞きたいって」
どっちでもいいよ、そうそっけなく返した。七分後に知らないアカウントからLINEが来た。「ひかり」とある。
「今日はありがとうございます。僕のせいであなたを困らせてしまいすみません」
真っ暗な部屋で、スマホの明かりだけがしばらく灯っていた。
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