伍話 「井の中の蛙」

 「婚活パーティー」で反省の後、それからは、大人しく過ごしていました。 

 彼氏という存在も、欲しいような欲しくないような。

 興味も沸くような、沸かないような。 

 無理してどうこうする事でもない。 

 ですが、そんなある日。 

 登録していた婚活パーティー会社から、婚活案内のメールが届いていました。

 メールを見てみると、そこには、『自衛隊✕エクシオ 婚活パーティー』の文面が。

 確か、このようなタイトルでした。  


――自衛隊、ですと?


 自衛隊といえば、国防男子。 

 婚活パーティーに興味を持った半年くらい前に、いつも遊んでいる友人に誘われ、女三人、某自衛隊駐屯地のイベントに行った事があったのですが、初めて見るリアルな演習に、興奮を覚えた記憶が、鮮明に蘇りました。

(そりゃ、動画に撮っていましたのでね) 

 思えば私も、一時は看護師ではなく自衛隊に入りたいと思っていた時期もありました。

(腕立て伏せできないので諦めましたけどね)

 そして、思い返すと二十代の頃、当時働いていた病院の日帰り旅行に、朝霞駐屯地の見学を組み込んだのも、私だったという事も思い出しました。 


 突然の、自衛隊熱、再燃です。 


 メールの内容を読み進めてみると、何やら、女性出席人数が不足しているとのこと。 

 安定の国家公務員。

「え〜、でも〜、お高いんでしょう?」 

 と、通販番組のような独り言を呟いていましたが、何と今なら割引価格。

 設定金額よりも、だいぶお安い。 

 ……行っちゃう? 

 勤務表を見てみると、ちょうどその日は、夜勤明けでした。 

 ……行ってみちゃう?

 三十分程悩んでから、出席ポチリ。 

 そして、友人に早速LINEで報告しました。


「私、アウトドア要員、捕獲してきます」と。


 そう。趣味は、アウトドア。 

 力的にも、男性の手を借りたい場面もある。

 

 でも、一番の理由―― 

 

 それは、私が医療者であるということ。 

 

 私のような看護師を含め、大体が病院やクリニックなどで働いて居ると思うのですが、様々な業種の方と関わる事って、殆ど無いのです。 

 盆暮れ正月や、GWなど、巷の当たり前の休みは、大抵当たり前に仕事をしていますし、そうなると、友人やお付き合いする方なども、大体が医療関係者になっていました。 

 色々な意味で、理解し合えて、楽だったのです。

 ですがそれは、人間関係において、どこかかたよりを感じていました。

 時間も不規則で、家族でさえ、理解してもらえない時もあります。 

 そんな日々の中、突然届いた異業種交流の案内メール。


 それは、「井の中の蛙」が、ほんの少しだけ大海を見れるかもしれないという、荘子からのお導きに思えたのでした。 

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