第2話 単語:背後霊、アルティメット、文房具



「アルティメット背後霊」


 男子の厳かな語り声が、部屋に響く。


 明かりは、部屋の中心にある蝋燭型のライトだけ。窓の外は熱帯夜と言いたくなる暑さだが、室内は冷房が効いている。


 怪談にはピッタリだ。


「なんだよ、アルティメット背後霊って」


 語り部の咎めるような視線が声の方へ向かう。そこにはつまらなそうにあくびを噛み殺しているメガネ男子。


 無言で睨む語り部は黙って聞いていろとばかりに続きを口にする。


「ある日の夜のことだった。文房具屋さんの店長は一人で最後の店じまいのを終えて、帰ろうとしていた。店の中を通って、鍵を投げながら歩いていると、一本の鉛筆が地面に落ちているのが見えた。『これはいけない』と、そう思った店主は、それを拾って、元の置き場へと戻そうとした。その時だ。背後に、言いようのない気配を感じた。『バッ』と、後ろを振り返る。そこには誰もいない。得体の知れない不気味な気分の中、早く帰ろうと、鉛筆を戻し終えた直後、それは聞こえた。

 『売るな……。売るな……。呪われたいのか……』

 不気味な声だった。店長は逃げるようにしてその場を去った。そして、それ以降、そのことは忘れ去ってしまった」


「オチないじゃん」


 不満げに、女子が声を上げる。


「まだ続きがああるんだって」


 語り部の男子が言い訳のようなことを言う。


「ふ〜ん」


 語り部はそれを続きを促していると解釈したのか、居た堪れなくなったのか、話を続ける。


「それで、だ。その鉛筆がついに売れる時が来た。買ったのは中学の女子。さっそく、学校にその鉛筆を持っていった。だけど、その日から、女子生徒は背後に誰かがいるような気分に突然なることがあった。最初は、ただの勘違いだとか、気にしすぎだと思っていた。だけど、それが1週間も続けば、只事じゃないと思い始めた。そして、ある日、ついに鏡を見ると、自分の後ろに、誰かモヤのかかった人物が立っていた。憔悴していく中、彼女は何が原因なのかわからなかった。たかが鉛筆一本買ったことと、背後霊を結びつけることができなかったんだ。結局、鉛筆を使い終えるまで彼女は恐怖に苛まれながら過ごすことになった。だけど、鉛筆を使い終わる前に背後霊は去っていた。新しい鉛筆に憑いて、今も誰かの持ち物になってるんだ……」


「怖くない」


「つまらん」


「今年1番の駄作」


「エヴァqより意味不明」


「出直してこい」


「これがトリとか嘘だろ」


 ボロクソの評価であった。ここまでくると、逆に凄いのではないのだろうか?


「アルティメット要素どこよ」


「それな、伏線回収ちゃんとしろよ」


「背後霊っていうか、鉛筆に憑いてるただの幽霊じゃん」


 さらに追い打ちがかかる。ここはどこの晒し場だろうか?


「う、アルティメットっていうのは、女の子の買った鉛筆が推しの子とコラボしてたやつだからだって、聞いたけど」


「推しの子要素皆無。何言ってるの?」


「天才的で究極の背後霊……」


「究極の背後霊でアルティメット背後霊? 天才的は何処にいったの? 後、どっかから訴えられたりしない?」


「そ、それじゃあ、アルティメットジーニアス背後霊」


「後付けにも程がある。これで、本当に相手を怖がらせるつもりなのか甚だ疑問」


「そもそも、よくこんなの怪談で発表しようと思ったわね。あなたの発案じゃないでしょうけど」


「あ、俺だよ」


 その瞬間、全員が声を上げた大河の方を向いた。


「いやいや、本当に言うとは思わなくてさ。ところで、桜ちゃん、この前渡した鉛筆、使ってて、どう?」


「えっ?」


「いやいや、後ろにいる人と仲良くやれてるのかなって思って」


 全員の視線が、桜の後ろへと向かう。そこには、誰もいない。


「お、おどかさないでよ」


 全員に弛緩した空気が漂う。


「こんばんは」


 桜の背後で声がした。


「キャー」


 甲高い声が部屋に響き渡る。


「えっえっえ」


「嘘、マジで?」


「大河、裏切り者!」


 何を裏切ったのだろうか? 仕掛け人こと大河はそんなことを思いながら、呑気な声をあげる。


「あ、もう出てきていいよ」


 桜の後ろにあった襖からガラガラと音を立てて女子が登場。大河の妹、菜花だ。


「いや〜、楽しかったね」


「「「黙れ」」」


 怪談は成功(?)に終わった。






作者メモ


一言

え〜、要らんと思いますが、推しの子とコラボした鉛筆に幽霊がついているなんてことは実際はありません。フィクションです。また、鉛筆に幽霊が憑いてなくても文句言わないでください。フィクションです。以上。


単語数3つ

・背後霊

・アルティメット

・文房具


主要登場人物

文房具に憑いている背後によく立つ霊

語り部(16歳)

 怪談話を知らなかったので親友の大河に教えてもらった。

 今では後悔してる。

怖くないの人(17歳)

 ホラー映画大好きちゃん。

 1週間に3つは見ている。

 このメンツで一番ホラーが好き。

 なお、最後の「こんばんは」の時、ヤラセだろ思ってた。

つまらんの人(17歳)

 そもそも、あんま話を聞いてなかった。

 面白くても「つまらん」とか言ったに違いない。

今年1番の駄作の人(17歳)

 最近、いい作品に出会えていないらしい。面白い漫画を探しているとか何とか。

エヴァqの人(16歳)

 最近、エヴァqを見て、不満に思っているらしい。

これでトリとか嘘だろの人(17歳)

 なんやかんやで、コイツが一番つまらん怪談を喋ってた。

 なんなんだろコイツ。

桜(16歳)

 大河の悪戯で一番肝を冷やしたであろう女子。

 大河のことを好きであの後、あまり叱れなかったらしい。

大河(17歳)

 諸悪の権化、極悪の化身といったあだ名を持つ。

 なぜこんなやつに怪談話を聞いたのだ語り部……。

大河の妹(13歳)

 ノリノリで大河の悪戯に便乗した。

 なんなら、一番楽しんだのはコイツまである。


起:怪談「アルティメット背後霊」の話が始まる。

承:どうやら、文房具に憑いている背後霊(?)らしい

転:オチが良くないとボロクソ、大河が仕掛けたと判明

結:大河がさらなる仕掛けを発動。全員が恐怖に突き落とされる。最後に笑ったのは大河だけであった まる


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