息抜き
碾貽 恆晟
第1話 単語:コントローラー、えこひいき、メモ帳
「明日はお前の好きなものを買ってやる」
と、おじいちゃんがそう言ってくれた。
僕は母さんの両親、おじいちゃんとおばあちゃんに会うために、やって来ていた。
春休みは短いのにと、気が乗らなかったけど。小学1年の僕は逆らえないし、母さんは一度決めたら、その通りにやらなきゃ気が済まない気性だ。だけど、家に着いてじいちゃんの言葉を聞いた瞬間、そんな不満なんてすぐに消え去った。
仕事だとこっちには来てくれなかった父さんの買ってくれたメモ帳を破って、何を買ってもらおうかと、母ちゃんのスマホを睨みながら書き連ねていく。
でたばっかの漫画、カード、他にも色々。中に、ソシャゲの課金って書いたんだけど、母さんに怒鳴られてお蔵入り。斜線が引かれることになった。
興奮して、夜遅くまで寝付けなかった翌日。起きてから早く行こうと新聞を読んでるじいちゃんにせがむ。かあちゃんは呆れた顔をしながら、ばあちゃんは「元気だね〜」なんて言いながら、朝ごはんの準備をしてた。
人生の中で一番って言えるぐらい朝ごはんを早く食べ終えて、じいちゃんを見ると、まだ3分の1も残ってた。それから色々騒いでみたけど、結局出られたのは1時間後くらい後。
去年3回も来たからよく覚えている坂を駆け下りて、後ろを振り向く。遥か彼方に見えるじいちゃん……。
「遅いよ〜」
と大声で叫んでみるけど、じいちゃんは呑気に手を振ってる。本当に、買う気はあるんだろうか?
なんだかんだで15分ほど、ようやく駅前に着いた。うちの近くだと見ることのないシャッター商店街。10時近くで、ほとんど人通りがないそこを、駆け抜ける時。ふと、ガラス張りのおくに、車の柄の箱が見えた。
赤と白のゴチャゴチャした外見のソレに、僕はなぜか惹かれた。
ボーッと眺めていると、追いついてきたじいちゃんが「ラジコンか」と言った。
「これが欲しいのか?」
そう聞かれて、欲しいって思った。だけど、昨日の夜決めた漫画が頭をよぎる。
10秒の逡巡が限界だった。
結局、僕の手元にはラジコンが抱えられた。
ブーン
と、貴快音が鳴り響く。ラジコンの音だ。
家の近くの誰もいない公園で、ただひたすらラジコンを走らす。コントローラーの使い方は20分もすれば熟練のソレになった。
後ろでは、じいちゃんが椅子に座っている。最初は僕の巧みなラジコンの捌きに見入っていたようだけど、今は飽きたのか木に止まった鳥なんかを眺めてる。何が楽しいんだろう。
僕は他のところへ走らせようとラジコンを走らせながら移動する。けれど、僕の目論見は外れることになった。
「それ貸せよ」
見るからに横暴そうな見た目の奴が立ってた。いじめっ子の学年に一人はいる番長みたいな、そんなやつだ。
「嫌だね」
こいつに、初日から壊される。そんな未来がありありと浮かんできた。
「は?」
向こうは断られるなんて思ってなかったのか、顔が真っ赤で、鬼のような形相だ。同じぐらいの年だから小鬼の方が正しいかもしれない。
「ふざけるな!」
詰め寄って、拳を振り上げる小鬼。
「やめるんじゃ!!」
拳が止まった。おじいちゃんの怒号で、肩をビクリとさせていた。
「何をしておるんじゃ」
咎めるような口調に何も言えない僕。視線を小鬼に向けると、向こうは口を開いた。
「こいつがソレを貸せって言っても貸してくれなかったから」
その言葉を聞いた途端、面倒くさそうな表情をするじいちゃん。
「で、なんでお前は貸してやんなかったのじゃ」
また、咎めるような口調だ。
「こいつが、偉そうに言ってきたから」
仕方なく、思ったことを口にした。
「そうか、ならどうして欲しかったんじゃ?」
「偉そうにしてなかったら考えたかも……」
「と、言っておる」
チッ、えこひいきだろ、だとか小鬼は呟いてたが、最後には「貸してください」とボソボソとギリギリ聞こえるぐらいの声で言ってきた。
ここまでいって、貸さないというのは気が引けて、しょうがなくコントローラーを貸してやった。
結局、最初のわだかまりなんてなかったように、日が暮れるまでラジコンで遊んでいた。
僕には、田舎に友達ができた。
※作者メモ
単語数3つ
コントローラー
えこひいき
メモ帳
主要登場人物
主人公(男子) 7歳(小学1年)
小鬼 8歳(小学2年)
祖父
起:祖父母の家に行く→祖父が好きなものを買ってあげると言う
承:祖父が言った通り、「ラジコン」を買ってくれた
転:顔見知りの子供が、ラジコンを貸せと言う→喧嘩
結:祖父が仲介し、仲良く遊ぶことになる
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